ゲーム業界全体を支えるエクスターナル・デベロップメント・スタジオVirtuosとは

ゲーム業界全体を支えるエクスターナル・デベロップメント・スタジオVirtuosとは
 Virtuos(ヴァーチャス)は,シンガポールに本社を構え世界各国にスタジオとオフィスを持つ,ゲーム開発および3Dアート製作会社だ。2004年に中国・上海で創業して以来,同社はAAAタイトルやHDリマスターなどさまざまなタイトルのエクスターナル・デベロップメントを請け負っており,世界のゲームパブリッシャ上位20社のうち18社と何らかの形で取引をしている。
 今回,Virtuosが具体的にどんな業務を行っているのか,何を重視しているのか,今後どのような展開を予定しているのかなどを,同社のキーパーソンにメールインタビュー形式で聞いてみた。

GamesIndustry.biz:
 Virtuosの主な業務内容,従業員数,スタジオの数など概要を教えてください。

Virtuos 創業者/CEO ジル・ラングリュー氏
ジル・ラングリュー氏(以下,ラングリュー氏):
 Virtuosは2004年に創業し,2020年で16周年を迎えました。今では全世界で6つのスタジオを含む12のオフィスを有し,1700名を超える従業員が所属するグローバル企業に成長しています。当社は,共同開発,イン・ゲームテクノロジーの最前線,そして世界を牽引するアートワークを提供するスタジオへと進化してきました。

GamesIndustry.biz:
 Virtuosが重視していることはなんでしょうか。

ラングリュー氏:
 未来のゲームクリエイションを形作り,ゲームを“より幅広く”“より深く”していくことが何よりも重要だと捉えています。“より広く”とは,より多くのコンソールやプラットフォームでそのゲームをプレイ可能にすることです。“より深く”は,より多くのレベル,より大きなインゲームワールド,そしてより多くの詳細なアセットを創造することです。
 そのために私達は,優秀な人材をアートやエンジニアリング,ゲームデザイン業界に配備すること,業界を牽引する技術やツールを備えることに注力しています。それは,優れた人材が新しい最高のゲームを作ることができる,エキサイティングで刺激的な職場作りに通じます。

GamesIndustry.biz:
 Virtuosのオフィスはシンガポール,中国,ベトナム,カナダ,フランス,日本,韓国,アイルランド,アメリカと世界各国にありますが,社内公用語はありますか。それともオフィスごとの母国語を使うのでしょうか。
 また,オフィス間での人員の転勤や異動はありますか。例えばVirtuosの日本オフィスに務めているスタッフが,シンガポール本社に移るような事例はあるのでしょうか。

Virtuos Group HRディレクター ミニー・アーベルス氏
ミニー・アーベルス氏:
 公用語は英語です。そのほかオフィスごとに,英語と現地の言語を使用して社内コミュニケーションを図っています。
 また当社としては国内,国外問わずスタッフの社員の転勤・異動を推奨し,サポートしています。

GamesIndustry.biz:
 Virtuosは最近だと「XCOM2 コレクション」および「バイオショック コレクション」のNintendo Switchへの移植を担当していますが,それらのタイトルに関わることになった経緯を教えてください。

イライジャ・フリーマン氏(以下,フリーマン氏):
 Virtuosは毎年,数多くの成功実績を出しており,それに伴ってパートナー各社との強固な信頼を築いてきました。移植は,リマスターやリメイク,新規開発と同様,当社が提供するさまざまなサービスの1つです。
 多くのデベロッパは,メインゲームのSKU※ を担当するコアチームを持っています。私達の強みは,そのコアチームと並行して追加のSKUを開発するために必要な人材を確保・調整し,チームの拡大に対応できることです。
 そしてVirtuosには,最新技術を使った開発の長い歴史があります。その中には,長期にわたるるNintendo Switchプロジェクトでの実績を含みます。当社は,Nintendo Switchのハードウェアを最大限に生かした専門性を築き上げてきました。
 それらの理由から,Virtuosは両タイトルの移植プロジェクトを任されたのです。それぞれのプロジェクトが進行するにつれ,より高精度に仕上がっていく感触を得ました。

※Stock Keeping Unit(ストック・キーピング・ユニット)の略。受発注・在庫管理を行う際の最小の管理単位

GamesIndustry.biz:
 「XCOM2 コレクション」の移植作業における課題と,どうやって克服したかについても教えてもらえますか。

Virtuos 上海スタジオゲームプロデューサー張 成偉氏
張 成偉氏:
 「XCOM2」の開発で一番大きな課題は,メモリの最適化でした。PC版「XCOM2」では通常7GB以上のメモリが必要ですが,私たちはNintendo Switch上でわずか3.2GBのメモリでの動作を実現しました。その過程では仕様の決定と実装,テストをして,その結果からまた仕様を作り直すというサイクルを繰り返しました。より効率的なファイルフォーマットの採用,不要なメモリ使用量の削減,さらには元のコンソールのメモリシステムの改良や最適化など,このメモリの最適化だけに約半年を費やし,さまざまな方法で検証しました。これはまさにスポンジから水を絞るようなもので,たくさんの水が絞り出されるほど検証は難しく複雑になっていきました。
 そうした困難も伴いましたが,「XCOM2」のプロジェクトはVirtuosのベストプラクティスの1つと言えます。Nintendo Switch向けに開発するゲームが多ければ多いほど,私たちはより改善が図れますから,その分ハードウェアを使いこなせるようになります。

GamesIndustry.biz:
 Virtuosは「Final Fantasy」シリーズや「DARK SOULS REMASTERED」のNintendo Switch版など,日本のゲームのHDリマスターや移植も手がけています。日本のゲーム会社とプロジェクトを進めるときに意識していることはなんですか。

シンガポール本社
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Virtuos エグゼクティブ・プロデューサー ルーカス・コダー氏
ルーカス・コダー氏:
 一番大切なことは,間違いなくコミュニケーションです。現場の日本人プロデューサー達が,日本のクライアントと私達の開発チームの架け橋になってくれたことで,プロジェクトを完遂できました。そのうちの1人,上海オフィスのアシスタント・プロデューサーである中川 亮は,「Virtuosが持つ優れた開発技術力という土台のもと,さらにコミュニケーションを提供することが私の大きなミッションだと信じている」と言っています。
 とくに現場では,クライアントからのアートやエンジニアリングに関する専門的な質問をフォローアップする必要があるケースが多いんです。そのため,彼らのようにコミュニケーションを担当する人材は,ゲーム開発の豊富な経験を持つ人と同様に必要であると改めて思い知らされました。
 また,極めて重要なマイルストーンの前に,日本人のゲーム開発者と直接顔を合わせて話ができたことも非常に役に立ったと感じています。ビジュアルやパフォーマンスを最終的に完成させるときは,現場の日本人開発者達を集めて提示されたフィードバックとズレがないかを確かめました。

GamesIndustry.biz:
 昨今のゲーム業界ではストリーミングやAIの活用が話題になっています。Virtuosが今後とくに注力する分野は何でしょうか。

ラングリュー氏:
 クライアント,そして私達にとって,ゲームストリーミングとAI領域は欠くことができない分野です。ストリーミングは手軽なゲームプレイを可能にし,またどこでも瞬時に新しいゲームを見つけられるようにしたことで,ゲーム市場を拡大し始めています。Virtuosは,最新の優れたゲームをできるだけ多くの人々に提供することにより,クライアントの収益拡大をサポートするというミッションをストリーミングでも実現すべく,Stadia版「PLAYERUNKNOWN‘S BATTLEGROUNDS」(PUBG)の開発をリードし,またクロスプラットフォームプレイを可能にしました。このように私達はデザイン,アートおよびエンジニアリングの能力を活用し,最先端のゲームタイトルをストリーミングプラットフォームに提供したいと考えています。
 一方AIですが,Virtuosには特定のゲーム開発プロセスを促進できるAIプロダクションツールを手がけるR&Dチームがあります。とくにAIを活用し,高精度のアートを現在開発中のゲームに取り込みたいと考えています。またVirtuosはさまざまなプロジェクトに取り組んでいるため,あるゲームの開発に新しい技術が使用されている場合,私達のチームがすでにそれら最先端の技術を学習して使用している可能性は十分にあります。

開発ツールのデモ画像
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GamesIndustry.biz:
 2020年末にはPS5とXbox Series Xが発売されますが,Virtuosはどのように関わるのでしょうか。

フリーマン氏:
 次世代開発はすでに始まっており,最近では複数のエキサイティングなプロジェクトに参画しています。Virtuosは,次世代開発においてクライアントがより高品質な製品を実現できるよう,もっとも才能のある開発者を配備し最先端のテクノロジーを提供していく準備を進めています。

GamesIndustry.biz:
PS5とXbox Series Xの登場で,ゲームはどのように変わると考えていますか。

Virtuosゲーム部門バイス・プレジデント イライジャ・フリーマン氏
フリーマン氏:
 Xbox Series Xは12テラフロップスのGPUを搭載していますが,この数字がゲームにどのようなインパクトをもたらすのか,その全貌はまだ分かっていません。本質的には,テラフロップスの数字が多いほどGPUの処理能力が高くなる──つまり妥協することなく印象的な表現を実現できます。例えば高いフレームレートがそれで,現在のコンソールは30または60fpsですが,次世代コンソールは120fps/1080pや60fps/4Kの映像を提供できるようになり,人々は高解像度かつさらに滑らかなビジュアルでゲームを楽しめるでしょう。
 加えて次世代コンソールの高い処理能力によって,はるかに素晴らしいビジュアルエフェクトを実現できます。例えば改善された光と影の処理は,今まで以上に細かな表現を可能にします。とくにXbox Series Xのインゲームグラフィックスはリアルの写真表現により近づき,映画製作とゲームの映像製作の境界がより曖昧にしています。
 こうした改善が顕著に見られる分野としては,スモークや霧,雲などのエフェクトが挙げられます。これらは光を散乱させるエフェクトであり,以前はゲームによって使用結果がまちまちでした。これらのエフェクトが興味深いのは,ゲームプレイに影響する可能性があるからです。もちろん,改善されたスモークエフェクトはきれいに表現されます。それに加えて,スモークグレネードを投げた直後にプレイヤーが敵の姿ををちらっとでも捉えられるようになれば,ゲームスタイルに新しいレベルのニュアンスを与えられますよね。

上海オフィス
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GamesIndustry.biz:
 Virtuosの2014年以降におけるグローバルおよび日本でのビジネス展開について,改めて教えてください。

ラングリュー氏:
 繰り返しですが,Virtuosのミッションはゲームクリエイターの大ヒットゲーム開発をサポートすることです。当然のことながら,成長する日本のゲーム業界にも焦点を当てています。スクウェア・エニックスやプラチナゲームズなど長期にわたりサポートさせていただいているパートナー企業は,日本に拠点があります。次世代の最先端のコンソールにおいても,私たちはパートナー企業とともに新しいエキサイティングなプロジェクトを実現していきます。
 2014年以来,Virtuosはクライアントに新しいソリューションを提供するべく,優秀な人材と革新的な技術への投資に注力してきました。Nintendo Switch用ゲームの開発が良い例です。コンソールのライフサイクルの早い段階から,私たちはNintendo Switch向けの開発手法をチーム全員と共有できました。そこに長年にわたって蓄積した私たちのゲームリマスターにおけるスキルとノウハウを組み合わせることにより,VirtuosはNintendo Switchの大規模なコンソールゲーム開発において,市場を牽引する企業の1つになっています。私達はNintendo Switchで9つのゲームをすでにリリースしており,さらに多くのゲームをこれからもリリースしていく予定です。
 また現在,世界のすべてのスタジオに日本人スタッフを在籍させています。彼らのおかげで日本語でコミュニケーションを取れるので,日本のデベロッパやパブリッシャがより大きなゲームをより強力なプラットフォーム上に展開するための手助けをスムーズに行えています。

成都オフィス
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GamesIndustry.biz:
 最後にVirtuosの新規事業やビジネス展開などについて,今後の予定を教えてください。

ラングリュー氏:
 ゲームクリエイターがより良い,そしてより大きなゲーム開発を考えるときに,Virtuosの名前が真っ先に浮かぶような存在になることを目指します。全世界で6つのスタジオと1700名以上のゲームのプロフェッショナルを擁する私達は,開発力では手応えを感じています。私達の計画は,主要なコンテンツ開発および業界を牽引すること,あるいは有望なスタジオとのパートナーシップに照準を合わせています。それは長年にわたる経験から,私達のチームがクライアントのパイプラインとして機能することで,最良の仕事とエンドツーエンドのソリューションをお届けできることを見出しているからです。

 さらに,私達がオーナーシップを持ち,ゲームの最終的な品質を提示またはテストできるケースでは,必然的に高品質な製品を生み出すことができます。実績として,Nintendo Switch向けの「XCOM 2コレクション」「バイオショック コレクション」,Stadia向けの「PUBG」など新しいプラットフォームに向けた移植,「Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー」 のデザインとゲームプレイ,そしてOculusやPS VRといった最先端のプラットフォーム向けコンテンツの開発などの大規模で複雑なプロジェクトが挙げられます。

 今後のVirtuosのロードマップは,ゲームコンテンツの開発において引き続き最善を尽くし,スタジオを創出または買収・合併し,世界中の主要なゲーム開発のハブに存在感をもたせることです。これによって,より刺激的な環境のスタジオで,より緊密にゲーム開発やアート製作に取り組むことができます。加えて,近いうちに日本にスタジオを持つことも,私たちのロードマップに含まれています。

Virtuos公式サイト