Opinion:Valve Indexはインセンティブなしでイノベーションを求めている

プラットフォームにとらわれないことと高価格が,革新的なVRゲーム開発を妨げる可能性がある。

 私はVR全般についてチョロい人である。数週間前のValve Indexのプレスリリースイベントで,私は何度もデベロッパに呼び止められ,部屋の向こうでAperture Hand Labsの不気味なコアロボットとジャンケンをしたり,Vacation Simulatorのビーチハウスの床にポテトチップの袋を不用意にぶちまけたときに,どんなに興奮して大声を出していたかを伝えられた。

 おそらく一緒に部屋にいたベテランのVR評論家を除いて,私の感じた魅惑は,こういった技術に遭遇することが滅多にない人々の感覚をよく表していた思う。Valve IndexがゲームイベントやVRゲームセンターに登場するとようになると,こんな騒ぎが10倍になる可能性がある。私は画素の充填率やサブピクセルの専門家ではないが,高忠実度のヘッドセット作成に成功したというValveに対する賛辞を贈るには十分なくらい,頻繁にVR空間にいた ―そのためデモの間中,私の絶叫があふれていたわけだが。

 さらに,Indexは私が今まで装着した中で最も快適なヘッドセットだった。私が動いても,私の巨大なメガネを顔の下に落とすこともなく,Indexコントローラはうまく指をトラッキングしてくれた。あなたはもはやVRで物を落としても拾うことができるのだ! あなたの実際の手で! 未来はワイルドだ。

「VRで物を落として拾うことができる。あなたの実際の手で! 未来はワイルドだ」

 しかし,クールなテクノロジには,単に値札が高額なだけではなく,コストがかかる。ヘッドセットをマスコミに紹介するにあたり(関連英文記事),Valveの代表は,VRが業界として成功するために必要な三つの柱を紹介した。私がすでに述べたように,一つは高い忠実度だ。ほかの二つは軋轢の少なさと価格の低さだった。それから,私が目撃した最も奇妙な話として,Valveは,低軋轢と手頃な価格の2本の柱は別件であり,Valve Indexに関して同社が懸念していたことではないと語っていた。

 過去10年間で新しいユーザーをVRに引き込むために,三つすべてのバランスを保つように果敢な努力をしてきたことを考えると,VRの柱の3分の2を捨て去るのは奇妙な動きだ。近年では,主要なVR企業はそれをある程度管理している。Oculus RiftとHTC Viveが,その後「ハイエンド」で高価なハードウェアから始めたのだが,いまや我々はそれと同等かそれ以上に優れたヘッドセットを十分安価に入手でき,多くのユーザーにアピールできるようになった。その結果,ついに100万本を売るVRタイトル(インディーズでも)も出てきた(関連英文記事)。これは,ゲームが優れているだけではなく,実際にゲームをプレイするのに必要なシステムを買う余裕のある人が一定数要求される偉業だ。

Aperture Hand Labsは,おそらく唯一のIndex専用ソフトであり,Portalの世界を舞台に球体のロボットがあなたの「友達」になろうとする10分間の技術デモだ
Opinion:Valve Indexはインセンティブなしでイノベーションを求めている

 Valveはこれを見落としているわけではない。同じ発表の間に,代表者たちは,このIndexは新しいVRユーザーを引き付けるためのものではないことを認めた。これは大量の出荷を期待した製品ではない。むしろ,Valve氏は開発者に焦点を当てていると述べている。これは,ほかのより安いヘッドセットが持っている最悪の問題の多くを解決することによって,VRに取り組む開発者のために技術的な障壁を排除したいのだ。

 Indexは,長いゲームセッション中のスクリーンドア効果(※画素の網目が目立つこと),テキストの読みにくさ,乗り物酔い,不快感などの厄介な問題を軽減すると考えられている。Indexコントローラは,これまで見たことのない方法で物理的な動きとVRの動きを結び付けている。このIndexを使用すると,読みやすいテキスト,長いセッション,または実際の手の動きに適したゲームのアイデアを持つ開発者が,ハードウェアに妥協することなくプロジェクトに取り組むことができる。


「Valveがプラットフォーム非依存の約束を撤回しない限り,開発者がValve Indexに作るものはすべて妥協したものになるだろう」

 それは素晴らしそうに聞こえる,そして今回のプレビューでIndexはこれらすべてを達成しているように思えた。しかし,いくつか問題がある。このようなIndexによる体験を考慮している開発者は,SteamVRと互換性のあるすべてのデバイスで同じ体験を利用可能にするという,Valveの賞賛に値するコミットメント(※単にIndexコントローラを別売するという話だと思うのだが)のおかげで,Index専用に設計することはしないだろう。Valveがプラットフォーム非依存の約束を撤回しない限り,開発者がValve Index用に作るいかなる製品も妥協したものになってしまう。これはIndexがなによりも排除しようとしていたものである。ゲームは低品質のヘッドセットでも同等に機能させ,Indexでは「機能強化」が必要になる。もしくは,Indexにはほかのヘッドセットにはない機能(個々の指のコントロールなど)があるため,代替機能を開発する必要がある。

 それから,Indexのカメラ技術と拡張可能なフロントポート ―もしくは前方トランクルーム― がある。この二つの機能の可能性については,同社は目を輝かせていたが,使い道については開発者に全面的に負担をかけるようだった。ヘッドセットは拡張可能だが,これまでのところValveがその潜在的な用途として宣伝しているのは,フロントバイザーの趣のあるLEDデザインと面白いカメラフィルタだけだ。

 Valveが大量のユニットを販売することは重要ではないないと主張しており,何百万も売れるVRゲームが一般でないのと同様に,ゲームと体験はデベロッパにとって作る価値があるに違いないという事実は依然として存在する。これこそが,ValveのVRイノベーション計画がこのIndexでつまずくのではないかと私が思う理由だ。ゲームは無料では作れない。そしてVRはすでに開発者にほとんど見返りのない技術を試すことが要求されており,それを加味しなくても十分に危険な提案となっている。

Valve IndexでVacation Simulatorをプレイすることの主な利点は,かわいい手のジェスチャーを作ることができる自撮りカメラにある
Opinion:Valve Indexはインセンティブなしでイノベーションを求めている

 何人かの開発者,―とくにすでにVRに目を向け始めているAAAの人々がこれをやるだろうが,私はこれが我々をValveが望んでいる結末に近づけるとは思わない。とくにそのフィンガートラッキング技術と高い視覚的忠実度を兼ね備えたValve Indexは,標準的なコントローラの設計やテレビにつながったゲーム機といった業界の他分野で,我々がすでに目にしているような,クールかつ奇妙で実験的なイノベーションを誘うハードウェアだ。


「Valve Indexはおそらく市場で最高のVRだ。しかし,イノベーションへの扉を開くという意味で,それはせいぜい赤ん坊の一歩にすぎない」

 AAA開発者を嫌うこともないが,彼らがValve Indexのためになにかを設計しているのであれば,劇的な革新というよりもチーズホイール(※切り分ける前の丸いチーズの塊)を物理的に拾って投げることができるSkyrimの港に近いものになるだろう。ゲーム機,PC,およびモバイル開発と同様に,我々は実験のためにインディーズに目を向ける。

 しかし,実験的な投資に対する確実な経済的利益の見込みはほとんどあらず,独立系開発者がValveの確実に素晴らしい新技術で新しい可能性を探求する余地は多くない。VRの限界を押し広げるような革新的なプロジェクトなら,喜んで開発者を支援する投資家もいるだろう。しかし,Indexとその関連技術が今後数年間のゲーム展示会で,ある種のエキサイティングなデモ製品以上のものになりえるか私は懐疑的だ。

 Valve Indexのために特別な開発をするリスクを負う人は誰もいないと言っているのではなく,ハイエンドのヘッドセットが作られるべきではないということだ。ハイエンドのヘッドセットは存在し続け,技術ができることの限界を押し広げ続けるだろうが,Valveがこのような素晴らしい技術を作るための投資計画や独占権の発表もなしに開発者専用のヘッドセットでこの市場に参入するのは奇妙な話だ。

 Valve Indexは魅力的なテクノロジであり,おそらく市場で最高のVRだ。しかし,イノベーションへの扉を開くという点では,せいぜい赤ん坊の一歩だろう。その一方で,Oculus Questのような製品はVRをより多くの人々の手に渡るようにしている。開発者にとってもより利益の上がるものとなっており,テクノロジーのための新しい経験の創造を検討することさえできるだろう。その結果,我々はより多くのイノベーションと価値あるゲームを見る可能性が上がり,そういったゲームは多くの人々にとってさらに魅力的になる。これは,業界がしばらくの間続けているサイクルだが,ついに収益も出始めているようだ。

 私は,Valveが会話に参加すれば,クールなテクノロジーを備えた独占的でないヘッドセットに,お金のかかる機能を詰め込まなくても,VRを推進していくことができると思っている。しかし,ValveはVRの三つの「柱」を認めているにもかかわらず,当面は意図的にそのループから脱しているようだ。確かに,Valveは高い忠誠度を持っているが,多くの開発者が足の2本足りない三脚を購入するとは私は思わない。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら