[SIGGRAPH ASIA 2018]展示会レポート:RT CoreによるレンダリングやUnityのノンゲーム事例などを紹介

会場となった有楽町の東京国際フォーラム。ホール間を結ぶ廊下が狭く,入り組んだ構造となっている。セッション主体で移動の多いSIGGRAPHとは相性が悪いようで来場者からは不満の声もチラホラ聞かれた
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日本企業の出展も目立っていた展示会場。日本開催は2009年の横浜,2015年開催の神戸に引き続き,今回で3度めとなる。東京での開催は初だ
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 コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術をテーマにした学会「SIGGRAPH」(シーグラフ)のアジア版ともいえる「SIGGRAPH ASIA 2018」が2018年12月4日から12月7日まで開催された。CGを中心とした最新学術研究に関する発表や,付随する多くのイベントが行われているが,会期2日めとなる12月5日からは,展示会(Exhibition)がオープンとなった。

 東京国際フォーラムの地下2階に設けられた展示会場では,1つひとつのブースはそれほど大きくはないもののブース数はそれなりに多く接地されていた。また,北米で行われる本家SIGGRAPHではあまり見られない日本企業の出展も目立っており,日本開催らしい出展内容になっていた印象がある。

 しかし,一方で,毎年,本家SIGGRAPHのほうでは巨大なブースを設営しているIntel,AMD,NVIDIAといったプロセッサ業界の大企業たちはそろって不参加だったのは寂しいところだ。

 本稿では展示会初日に見て回ったブースをいくつか紹介することにしたい。


エルザジャパン/アスクブース〜日本初公開! Quadro RTX 6000によるレイトレーシングデモ


 インテル,そしてNVIDIAとAMDまでもが展示会に不参加ということもあって,本展示会においては数少ないグラフィックスハードウェア関連展示の担い手となっていたのがエルザジャパン/アスクのブースだった。

最新グラフィックスカードやグラフィックスワークステーションを展示していたエルザジャパン/アスクのブース

 最も来場者の関心を集めていた展示の一つが「GPUリアルタイムレイトレーシング実演中」のポップのもとで行われていたデモだ。
 使用されていたのはBOXXのワークステーションのThreadripper 2990WX(32C64T)搭載モデルである「APEXX T3」で,これにエルザジャパンが販売するNVIDIAのリアルタイムレイトレーシング対応グラフィックスカード「Quadro RTX 6000」(CUDA Core数4608基,RT Core数576基(10G Rays/s),GDDR6 24GB)を2基搭載し,さらにそれらをNVLinkで結んだ構成のカスタムマシンとなる。

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GPUリアルタイムレイトレーシングのデモコーナー
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2基のQUADRO RTX 6000はNVLINKで結ばれている。なお,現状のArnoldレンダラーはマルチGPUに対応していないとのことで,デモにおけるレンダリングは1基のGPUのみで行われていた

 お披露目となっていたのは,このマシン上でAutodesk Mayaを動かし,2台のランボルギーニが佇むシーンをNVIDIA RTXに対応したレイトレーサーのArnoldレンダラーを使ってThreadripper 2990WXとQuadro RTX 6000とでレンダリングしてそれぞれ速度を比較するというデモだ。
 Threadripper 2990WXでは,このシーンを1分足らずで描画した。これはこれで十分高速なのだが,このあとQUADRO RTX 6000で同一シーンを描画させると10秒足らずで終了となった。この圧倒的な速度差に驚いてほしい……というデモなのだ。

GPU使用時のCPU負荷は非常に低いのに対して,CPUでのレンダリング時は64スレッドのほぼすべてが負荷率100%に張り付いていた。これはこれでなかなか壮観だ
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 エルザジャパンの担当者は,先頃発表されたばかりの「TITAN RTX」(https://www.4gamer.net/games/204/G020420/20181203130/)がQuadro RTX 6000とほぼ同スペックで半額の値段であることに驚いており,実機ではまだ試せてはいないものの「このデモがTITAN RTXでも動作してしまうはず。となると,このQuadro RTX 6000の位置付けはどうなるやら」と心配していたのが印象的だった。
 確かに,昔はCG制作ソフトはQuadroブランドでないと動作しなかったのだが,最近ではGeForce系(TITAN系もこちらに含まれる)でも動作するため,一部のGeforce系モデルとQuadro系モデルとで「こうした競合」問題が起こることがある。
 エルザジャパン自体はGeForce系ブランドも取り扱っているので,TITAN RTXが登場した暁にはそちらを使ったデモも見てみたいものである。

エルザジャパン/アスクのブースでは新版StarVRである「StarVR One」も体験することができた。なおエルザジャパンは「StarVR One」の日本国内向けの正規代理店を務めている。価格は約48万円とのこと
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アストロデザインブース〜放送業界向け機器メーカーが初のグラフィックスワークステーション製品を発表


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 日本開催のSIGGRAPH ASIAらしい展示の一つとして紹介したいのはアストロデザインのブースだ。

 アストロデザインは業務用カメラ,計測機器,放送関連機器の開発製造販売を手がける企業であり,昨年,シャープから発売された世界初の8K/60fps撮影カメラ「8C-B60A」もアストロデザインとシャープの共同開発の製品だ。
 アストロデザインは,先端映像技術に対応した業務用映像機器メーカーの印象が強いので,SIGGRAPH ASIAにおけるブース出展はどんなものなのかと思って立ち寄ったのだが,展示されていたのは,同社が初めて手がけるグラフィックスワークステーション製品であった。
 製品名は「Tamazone Workstation」だ。

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展示は筐体を横に寝かした状態で行われていたが,縦置きを想定したタワー型のワークステーションである
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展示用ということで,側面は中が見られるように透明アクリル板があしらわれていた

 スペック的には,CPUとしてXeon Platinum 8180(28C56T)ないしはXeon Gold 6138(20C40T)を2基搭載可能で,GPUはダブルハイトGPUカードを4基すべてをPCI-Express Gen3 x16で接続が可能,メインメモリは最大768GB搭載可能が謳われている。
 アストロデザインが,なぜグラフィックスワークステーションを手がけるのかについて,ブースにいた担当者に聞いてみたところ,「12月1日より始まった4K/8K新衛星放送をきっかけにして,2019年は映像制作業界において4K映像や8K映像の編集のニーズが高まると考えており,現場が求める性能のマシンを,カメラから放送機器までを手がけている我々自身が提供する必要性が出てきたため」という答えが返ってきた。
 また,Tamazon Workstationらしい特徴としては,大容量の映像の読み込みと書き出しを行うために最大16基のU.2 NVMe SSDを搭載可能なことや,2+1構成の予備電源ユニットを搭載している点などを挙げていた。

フロントパネル側のスリットの奥に見えるのは8列×2行で構成される総計16基のNVMe SSDスロットだ。最大64TBまでの搭載に対応している
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展示されていたデモ機には「Quadro GV100」が2基搭載されていた。奥の2つの背高なヒートシンクはCPUである。DDR4メモリスロットは24スロット,1スロットあたり32GB搭載で計768GBのメモリに対応する
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 この製品,建前としては「4K/8K映像編集を想定としたワークステーション」という点が最もアピールされてはいたが,製品そのものは汎用性の高いハードウェアで構成されているため,機械学習ベースのAI開発用途やレンダリング系の普通のワークステーションとして使えることもアピールされていたことを付け加えておく。

 なお,販売価格は700万円前後から1000万円前後までを想定しているという。当面は日本の放送局やその関連現場,そのほかの映像制作現場に訴求をしていくとのことである。


Unityブース〜広がるUnityのノンゲームユース


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 日本のゲーム開発シーンにすっかり浸透した感のあるゲームエンジン「Unity」だが,最近ではゲーム制作に留まらない「インタラクティブな3Dグラフィックスコンテンツ制作ツール」としての引き合いも強くなってきている。SIGGRAP ASIA 2018におけるUnity Technologies Japanブースでは,まさにそうした「ノンゲーム用途のUnity活用」にスポットをあてた展示を行っていた。

ブース内ではUnity関連のセッションも行われていた。写真は今後のUnityに搭載される新機能を紹介しているところ。スライドには「DirectX Raytracing(DXR)への対応予定」が記載されているのが確認できる
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 一つは,自動車業界への活用を想定したデモだ。
 自動車のインテリアは,プレイヤーがその車を所有したとなれば,乗車するたびに目にして操作する,いわばユーザーインタフェースに相当するものである。インテリアに満足がいかなければプレイヤーは乗車するたびにいやな思いをすることになり,ある種,エクステリア以上に重要な要素といえる。
 ただ,そのデザインは楽ではない。
 というのも「座席に座ったときに車外の光景がどう見えるか」「車内のメーター類の視認性はどうか」「各種操作パネル,スイッチ類へ手を伸ばしたときに操作しやすいか」……など,さまざまなテーマの評価を行うためには,実物としてのモックアップやプロトタイプの試作が必要になり,これを繰り返し行うこととなれば開発コストが嵩むことになるからだ。

今回の展示はあくまでそうした産業向けへのデモを兼ねたUnity Technologies内製のものだとのことだが,担当者によると,実際の自動車メーカーから,今回のデモのようなものを制作したいという相談はけっこうきているとのこと
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 そこで自動車業界では,今から10年以上も前から,VR技術を取り入れて,プロトタイプをCGベースで制作し,VRHMDを被ったテスターがそうした項目を評価するプロセスを導入してきた。ただ,そのVRのクオリティは高いとは言いがたく,それこそそのCGは現行ゲーム機にも及ばないクオリティだったりするし,VRにおけるインタラクションもデキが芳しくなかったりで,自動車業界も新しいソリューションを模索し始めているという状況にある。であれば「ゲームエンジンのUNITYを使ってみてはどうでしょうか」というのが今回のデモの主旨になる。
 Unityであれば,CGクオリティも物理ベースレンダリング採用によってフォトリアリティ度は相当に高い。現行のすべてのVRシステムに対応しているし,インタラクション部分においてもUnityを使えば,プレイヤーの車内インテリアへの操作に対応したイベントも簡単に作り上げることが可能だ。何ならば実際にその車両を街中コースを走らせることだってできる。
 展示されていたデモもまさしくそんな内容で,VRHMDを被ったプレイヤーはそのプロトタイプの車の運転席に座ることができ,実際にコントローラを使って運転を楽しんだり,インテリアの各部位を操作してその反応を試すことができた。

 もう一つは,ゲームエンジンを使った映像作品制作に関連した展示だ。
 この展示は二つあり,一つはUnity Technologiesのデモチームが制作した「Book of the Dead」デモだった。
 「Book of the Dead」は,「究極のフォトリアル環境再現」を目指したUnity Technologiesの内製デモプロジェクトで,森が実写と見紛うレベルで再現されている。下がその映像の公式公開版だ。


「Book of the dead」は一人称視点のゲームのように歩き回ることのできるインタラクティブデモの体裁をとっている
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 このデモに登場する木々,草木,岩といったオブジェクトのほぼすべては,無数の写真からモデリングするフォトグラメトリや3Dスキャンによって制作されており,これにUnityの物理ベースレンダリングを組み合わせて描画されているものになる。Unity Technologiesはこのデモプロジェクトで制作されたほぼすべてのファイルを無償公開しており,各Unityプレイヤー自身のコンテンツ制作への流用を許容しているのがこれまた凄い。

 二つめは,Unityで使える低コストな顔面アニメーション制作システムにまつわる展示だ。
 Unity Technologiesは,Appleが提供する「ARKit」とiPhone Xから実用化されている顔面トラッキング機能をUnityから利用できるようにする「Facial AR Remote」(https://blogs.unity3d.com/jp/2018/08/13/facial-ar-remote-animating-with-ar/)を開発しており,これのプロトタイプ版をブースで披露したのだ。

来場者は実際に自分の表情を女の子キャラに反映させることができた。しかめっ面や眉毛の上げ下げなど自由自在
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 「Facial AR Remote」とは,簡単に言えば,iPhone Xを顔面入力デバイスとして使った簡易フェイシャルアニメーション制作システムだ。iPhone XによるフェイシャルモーションキャプチャはiPhone X発売後から業界ではちょっとしたブームになっているもので,SIGGRAPH 2018のReal Time Liveで最優秀賞を受賞した「 Bebylon: Battle Royale」でも使われていたのを覚えている人もいるかもしれない。ハリウッドのハイエンドのフェイシャルモーションキャプチャシステムには及ばないまでも,「Facial AR Remote」を使えば,身近なiPhone Xを使ってそれっぽい顔面表情をリアルタイムで作り込めるというわけである。
 この「Facial AR Remote」を使って制作したフェイシャルアニメーションの成果は,Naughty DogやPixar Animation studiosなどでキャリアを積んだ映像作家Yibing Jiang氏がUnityで制作を進めているショートフィルム作品「Windup」にて見られるとのことである。