【月間総括】SIEのE3不参加は次世代PSの遅延を示しているのか?

写真はPlayStation 4 Pro
 まず,最初にソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が2019年のE3(Electronic Entertainment Expo)に出展しないこと(関連記事)を発表したことに触れたい。任天堂は先んじて,E3に合わせたイベントを止めていたが,出展自体は継続していたので,SIEの両方を取りやめる決定は驚きである。

 背景や意図がまったく発表されていないため,推測の域を出ないが,次世代機の発表タイミングとしてE3では早すぎると判断したものと,エース経済研究所では考えている。
 通常,ハードの世代交代は6年程度の周期で実施されてきた。PS4の発売は2013年の年末商戦期なので,2019年末辺りが次世代のPlayStation(便宜上PS5とする)のタイミングと見られていた。エース経済研究所でも,2018年上期まではそのような想定をしてきたが,現時点では2020年末に見直している。
 このように変えた理由は主に二つある。一つは,PS4の足下の販売が想定よりも好調に推移していることだ。日本ではPS4 Proと合わせて11月の週間販売は1万8000台前後と低迷しており,読者の多くには実感がないかもしれない。しかし,欧米ではSIEの自社ソフト投入も加わって大変好調に推移しているのだ。
 上期のソニーのゲーム事業は前年比で大幅増収増益となっており,PS4の販売は5年目に入っても,前年同期に対する減少幅が想定よりも小さい。このため,1年先送りが妥当だろうということだ。
 もう一つは,電子部品の需給逼迫である。10月に発売されたiPhone XRの販売が低迷したとの報道があって,逼迫の度合いは弱くなったようだが,積層セラミックコンデンサや半導体の需要は依然として強く,不足感が強かったことを考慮した。
 表面化していないが,自動車のコンポーネントや産業機器を手掛けるメーカーにヒアリングすると,手持ちのセラミックコンデンサの在庫を3か月程度まで積み増したとする企業も出ており,企業の危機感は相当なものであった。

 PS5がどのような仕様になるかは現時点でまったく分からないが,一つ言えることは相当なハイスペックマシンになるだろうということである。メインのAPUだけでなく,DRAM,HDDも大容量になるだろう。
 サードパーティのAAAと呼ばれるゲームは,フォトリアルやオープンワールドの作品が主流であるが,これを実現するには高性能マシンにする必要がある。MicrosoftもSIEも,ゲーム機に求めているのはこれを実現できるハイスペックであると考えるのが妥当だ。
 その一方で,ハイスペックマシンは半導体と電子部品を大量に消費する。しかし,PS4が発売された2013年と現在では状況が異なり,半導体をはじめとする電子部品のあらゆる用途での需要が増加し,調達コストが上昇している。
 ゲーム機は初動が大事であることは連載の初期でも述べた。部品が十分に調達できず,大量生産できないと初期の勢いを維持できない。その点からもPS5の発売タイミングは2020年末が妥当と考えたということである。
 2020年末が発売時期なら,発表はE3よりもあと,年末商戦よりも早い時期での発表がよいとの判断になり,E3への出展を取り止めたということではないだろうか?

 そのうえで,ゲーム業界,投資家,マスメディアを俯瞰すると,現時点でPS5の成功は間違いないと考えられているように見える。高性能マシン,サードパーティのAAAサポート,ソニー(6758)が得意とするデザイン性を考えれば,失敗は無いと考えるのは常識的な判断であろう。
 ただ,エース経済研究所では現時点では成功はまだ約束されていないと考える。製品が発表されたときのデザイン・スタイルを見て判断したい。

 ところで,11月は年末商戦の始まりである。少し触れておこう。11月16日に発売された「ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ/イーブイ」である。同週のランキング<https://www.4gamer.net/games/117/G011794/20181121083/>によると,合計で66万本の販売である。この水準は,携帯ゲーム機で発売されていた過去作と比較すると減少している。
 これは,

(1)ナンバリングタイトルでないこと
(2)Switchが一家に一台の傾向がある据え置き機ということ

で,ハードの普及台数差が生じたためと見ている。
 特筆すべきは,Switchハードの国内月間販売台数が20万台を超えたことである。11月の販売台数としては記憶にない台数である。ハードウェアの販売シェアも88%と非常に高い。
 通常,新作ソフトによるハードの牽引効果はソフト販売の10%程度というのが経験則である。それに従うと,DL版を考慮してもポケモンの寄与は8万台足らずのはずになる。しかし,スマッシュブラザーズの同梱版が発売されたことを考慮しても,20万台は非常に強い数字で,今回のポケットモンスターはSwitchに興味がなかった層を引き付けたと考える必要があろう。

 米国の数字は米国任天堂がリリースを出したのみだが,Switchと,恒例のブラックフライデーで値下げしたスパイダーマン同梱版のPS4が好調との報道が出ている。Switchは感謝祭後から販売数量がWiiの記録を抜いたとしていること,また,前年同期間比2.15倍としていうことからかなり好調だったようだ。

 昨年,この場でブラックフライデーでのPS4の大幅値下げを批判した。意図が伝わらなかったように感じるため,少し補足したい。PS4はソフトも協力なラインナップで魅力的な商品であり,30%以上の大幅な値下げが必要とは,エース経済研究所では考えていないということである。
 実際,昨年の11〜12月の米国の販売数量は,大規模な値下げを実施しなかったSwitchのほうが多かったようだ。今年のSwitchはマリオカート8 DXの同梱版を提供したが,極端な値下げにはなっていないにもかかわらず,販売は倍増していたわけなのである。
 エース経済研究所からすると,SIEはPS4を魅力的な商品だと考えていないように見える。MicrosoftのXbox Oneシリーズが値下げすることに対抗したとのことだが,米国ローカルでしかないXbox Oneをそこまで恐れる理由がいま一つ分からないというのが正直なところだ。

 最後に,マスメディアではSwitchの販売が今後低迷するとの懸念があったが,今のところ,そのような兆候は見られない。ポケットモンスターの発売後再び勢いを増してきたように感じる。繰り返しになるが,サードパーティのAAAタイトルでハードの販売は決まっていないということであろう。