Paradox Interactive:「ボードゲーム制作については多方面からアプローチがありました」

スウェーデンのパブリッシャは同社最大のIP(ストラテジーゲーム)をまさにボードゲームにライセンスする。

 Paradox Interactiveは,同社の最大のIP(ストラテジーゲーム)のうち四つをボードゲームにライセンスする(関連記事)。CEOのFred Wester氏が将来的にライセンス事業に一層力を入れていくと語った一つの実例だ。

 スウェーデンの首都ストックホルムで5月18〜20日にかけて開催されたPDXCON 2018で,Crusader Kings,Europa Universalis,Irons and Cities:Hearts of Heartsのフィジカルバージョンが制作のさまざまなさまざまな段階にあると発表された。観客のファンを大いに喜ばせたが,最も驚くべきことは,フィジカル化がこのタイミングまで行われなかったということだ。

 Paradox Interactiveの事業開発担当副社長であるShams Jorjani氏は我々GamesIndustry.bizに次のように語ってくれた。「Europa Universalisはもともとボードゲームとしてスタートし,Johan (Andersson氏,同社のクリエイティブ・ディレクター)がデジタル空間に持ち込んだものです。ボードゲームは当社内でも常に絶大な人気があります。ただ,私たちの事業がデジタル分野での成長を一途に目指してきたため,ほかのことには特化してこなかったと言えます」

「馬と結婚することはできます。重要なことですから」

 「Paradox Interactiveは(デジタルな)ゲームを作り,デジタル空間でクールなことをやる会社です。デジタル空間にそれはもう数多の素晴らしい機会がある,ということがはっきり分かるところまでようやくこぎ着けました。多方面からボードゲームを作れないかと言われました。私たちは社内で検討し,必ずしもたくさんのお金を稼ぐことにはならないが,私たちのゲームや,ゲームのプレイの仕方を拡大するとてもクールな方法ではないかと話し合いました」

 5月中旬に発表された同社の第1四半期の業績は,現在の事業の健全性を示しており,主に既存のフランチャイズの拡大によって売上と利益が大幅に拡大していた(関連英文記事)。実際, Paradoxの財務状況は非常に健全だ。だから,単にKickstarterのようなクラウドファンディングのプラットフォームを見て,明らかにボードゲームが復活しているといったことだけが(関連英文記事),同社が今このタイミングでボードゲームを追求することになった理由ではないとJorjani氏は言う。

Shams Jorjani氏
Paradox Interactive:「ボードゲーム制作については多方面からアプローチがありました」
 「PCゲームの好調さに比べれば,ボードゲームはまだまだです。規模がまったく違いますから。しかし,クラウドファンディングでの動向は,ボードゲームに大きな復活が起こっていることを示しており,それが,私たちも取り組むことになった潜在的な要因ではあるでしょう。投入できる資金があり,結果が出しやすく,5年前と比較してやりやすい状況です。なぜなら当時は,それはもう,ゲームを作ることに集中していましたから。今は会社が大きくなったので新しいことをより簡単に試せるようになりました」

 「それだけでなく,私たちのゲームもビッグになっています」と同社のCOOであるSusana Meza Graham女史は付け加え,「クールなアイデアを持った人たちが,それを実現するためにゲームをライセンスしてほしいとやってきます。でも,たかだか数年前まで私たちはまだゲームを構築していたんですから」と振り返った。

 四つのボードゲームは,それぞれParadoxからライセンスを受けた別々の会社によって制作されている。Jorjani氏によれば,どのゲームもゲームとしてのブランドのポリシーからわずかたりとも乖離しないように,そして,デジタルでのエクスペリエンスがボードゲームにぎゅっと凝縮されたものになるように,プレイテストは同社内で広く行われているという。

「あまりお金になりません。でもそういうことではないのです」

 「Crusader Kingsのボードゲームでも馬と結婚することはできます。重要なことですから」

 スウェーデンのFree League Publishingが制作したCrusader Kingsのボードゲームで遊ぶこと1時間,Paradoxがゲームの原典のスピリットをがっちり捉えることを意図しているのがよく分かった。それはゲームシリーズの中に期待するような,バックスタブ,近親婚,兄弟殺し,そしてもちろん,馬との結婚と,すべてが網羅されている。加えて,友人たちと卓上で遊べるというボードゲームならではの社会的な側面が付加されるわけだ。

 「ボードゲームというものはきわめて社会的で,それが興味深い特徴でもあります」とParadoxのCEO,Fred Wester氏は語る。「Grand Strategy(ゲーム)は,本来は社会的な要素はありません。一般的には,プレイヤー自身がEuropa Universalis IVをダウンロードしてプレイすることを決め,そこからゲームを学ぶのに10時間の学習曲線が必要というわけです」

Fred Wester氏
Paradox Interactive:「ボードゲーム制作については多方面からアプローチがありました」
 「正直,ボードゲームはあまりお金になりません。でもそういうことではないのです。デジタルとは別のチャネルに私たちのゲームブランドを構築し,プレイする皆さんに私たちのゲームを違う方法で経験してもらうことが重要なのです」

 Free LeagueはCrusader Kingsのボードゲーム制作費調達のためにKickstarterを利用しているが(参考URL),公開するやいなや即座に大成功を収めた。資金調達の目標額は50万クローネ(5万7000ドル)と設定されたが,48時間後には合計150万クローネ(17万1000ドル)以上の出資金が集まった。クローズまでまだ29日間も残っているので,最終金額はもっと大きくなる可能性がある。

 「Free Leagueは,Kickstarterをむしろプレオーダー的な位置付けで利用し,世の中でどれほど面白いと思ってもらえるかを計り知るつもりなのだと思います」とWester氏はKickstarterのキャンペーンが始まった直後に我々に語っていた。「ゲームはほぼ作り終わっていると聞いています。プロトタイプはいくつか制作されていますから,あとは製品として生産し,ほしい人たちがちゃんと買えるようにする,というところでしょう」

 「制作されたボードゲームが私たちのゲームのブランドガイドラインに沿っていること,ゲームを実際に完成させ,注文した人たちにきちっと提供できることを私たちは確認します。いやもちろん完全に保証することはできませんが,できる限りやるようにしています。ですから,真剣なパートナーとやることが大事なのです」

 最終的にCrusader Kingsがどれだけの資金を調達するかは未知数だが,Kickstarterで初っ端から世間の興味を引いたことはParadoxのゲームの安定した強さを物語る。Wester氏によれば,ボードゲームは,同社のゲームのラインナップを新しい方法で活用する一例に過ぎず,将来的にはもっと多くのものが出てくるという。

 「より多く,ライセンスの機会を模索したいと思います。White Wolfを買収する前は(関連英文記事),ライセンスにそこまで取り組んでいませんでしたが,今は自然体で私たちのビジネスの一部を担っていると言えます」」とWester氏は言う。「Crusader Kingsを例にとれば,デジタルと同じゲームエクスペリエンスを,今度はボードゲームでできるということです。素晴らしいでしょう」

 Jorjani氏はこう締めくくった。「私たちのゲームで何かをしたいという人たちは,大いにウェルカムです。社内ではできないようなアイデアでしたら喜んで話を聞きたいと思います」


※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら