[Unite]独占インタビュー。Xiaomi側担当者に聞く,Xiaomi-Unityプロジェクトの可能性

[Unite]独占インタビュー。Xiaomi側担当者に聞く,Xiaomi-Unityプロジェクトの可能性
 2017年5月8日,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン主催の大型カンファレンスイベント「Unite 2017 Tokyo」が開催された。先のレポート記事「[Unite]中国2億人市場にゲームを届ける! Xiaomi-Unityプロジェクト概要」 では,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン金田一氏のプレゼンからXiaomiとUnityの取り組みを紹介したわけだが,実はこのイベントに合わせて,中国Xiaomiの担当者が来日しており,GamesIndustry,bizは独占インタビューに成功した。

 今回インタビューに答えてくれたのは,Xiaomi Interactive Entertainment部の副総経理(Deputy GM)を務めるJingyan Liu氏だ。Liu氏はUnityとXiaomi提携事業の直接の担当者であり,Xiaomiストアにゲームをリリースするデベロッパに対してサポートを行っている人物である。Unityのデベロッパが中国市場にアクセスできるようになるというプロジェクトは,どのようになっているのか。本インタビューを通じて,中国Xiaomi側からの見解をお届けする。


Xiaomiとはどんな企業なのか?


Xiaomi公式サイト。スマートフォンだけでなくさまざまな電化製品を作っている会社だ
[Unite]独占インタビュー。Xiaomi側担当者に聞く,Xiaomi-Unityプロジェクトの可能性
GamesIndustry.biz:
 本日はよろしくお願いいたします。まずはXiaomiという会社について教えてください。

Liu氏:
 Xiaomi(小米科技)は中国のスマートフォンメーカーです。2010年に創業され,グローバルでは1万人の従業員がいます。Xiaomiのスマートフォンユーザーはおよそ2億人で,年齢層は若く,ゲームが好きなユーザーを多く擁します。
 我々のスマートフォンはとくにゲーマーの中で人気があり,ゲーム端末向けランキングトップテンのうち7つはXiaomiのスマートフォンが選ばれています。

 私はその中のXiaomi Interactive Entertainment部に所属し,副総経理を務めています。この部門は500人ほどで構成されており,Xiaomiプラットフォームでコンテンツを配信するデベロッパに対してさまざまなサポートを行っています。これまでデベロッパに与えた利益は,総額で3億米ドルに上ります。

Jingyan Liu氏
GamesIndustry.biz:
 デベロッパサポートをしている部署,ということでしょうか。

Liu氏:
 はい。XiaomiのSDKに関する技術サポートやマーケティング,パブリッシング支援,運営・キャンペーンなどのバックアップも行っています。例えば,「ゲーム内キャンペーンに参加するとXiaomiの最新スマートフォンが当たる!」といったイベントの提案もデベロッパと一緒に行っています。


Xiaomi-Unityの取り組みをスタートした理由


GamesIndustry.biz:
 今回の取り組みがスタートしたきっかけについてお教えください。

Liu氏:
 ご存じのように,中国の市場は海外からの進出にあたって多くの壁があります。Xiaomiとしては,その壁を何とかして,デベロッパさんに中国で利益を上げるお手伝いがしたいと考えていました。そしてなによりも,海外から優れたゲームやユニークなゲームがやってくることで,私たちのファンであるXiaomiユーザーに喜んでもらいたいという願いがありました。

 もとより,中国国内ではUnityを使ってゲームアプリを開発するデベロッパが多くいます。そして,私たちは以前からUnityの北京支社(Unity Beijing)との関係がありました。その中で,Unityを通じて海外のデベロッパと直接的なコミュニケーションを図ることができれば,できるだけ早くたくさんのゲームをXiaomiのユーザーに提供できるのではないかと考え,今回の計画が始まったのです。

GamesIndustry.biz:
 私もインディゲームクリエイターとしてもうれしく思います。中国には日本のコンテンツが好きな方が多いことは知っていましたが,アプリをリリースするのは非常に困難で,とくに個人のデベロッパはほぼ無理でした。この取り組みでその壁がなくなるのは,とてもワクワクすることです。

Liu氏:
 ありがとうございます。インディゲーム開発の方にXiaomiのプラットフォームでどんどんゲームをリリースしてもらいたいと考えています。私たちがXiaomi-Unityプロジェクトを通じて提供するサポートは,企業と個人で違いはなく,まったく同じ内容です。ただし,中国政府の税制では個人のほうが法人に比べて税金が5%ほど高くなってしまいます。

 また,収入について中国の企業とやりとりをするのに不安に感じる方もいるでしょう。収益に関しては税を控除したうえで,内訳をお渡しして,透明性を確保したいと考えています。中国の税制も複雑ですが,そこはできるだけ簡素にしたいと考えています。

GamesIndustry.biz:
 税の問題は海外リリースには必ず付いて回ります。それをプラットフォーマー側で対応していただけるのは,とてもありがたいことです。


中国国内で使えるサービスと技術サポート


GamesIndustry.biz:
 少々技術的な質問になります。リーダーボード(ランキング)を実装しようと考えた場合,iOSにはGame Centerがありますが,Xiaomiでも似たようなシステムは用意されますか?

Liu氏:
King Soft Cloud
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 はい,もちろんです。スマートフォンゲームに必要なクラウドサービスは,King Soft Cloudという関連会社のサービスを利用することができます。

 Push通知などの機能もありますが,ポップアップが出てくるようなものは使えません。私たちはユーザー体験を重視しており,あまり頻繁に通知が飛ぶことを好んでいないためです。
 そのため,プッシュ通知の機能を実装する場合は事前に申請する必要があります。

GamesIndustry.biz:
 デベロッパは端末を購入する必要はありますか? Xiaomiの端末は残念ながら日本で正規販売をされていないため,手に入れる際は個人輸入で海外のオンラインストアから購入することになるのですが……。

Liu氏:
 その点についてはUnityと現在調整中ですが,デベロッパの負担にならないよう考えているところです。我々は端末テストのためのクラウドサービスを持っています。これはXiaomiのさまざまな端末できちんと動作するかどうか,クラウドを通じてリモートテストできるシステムです。スマートフォン向けゲーム開発でよく問題になる「複数端末での動作確認」のために作ったものです。これによって,デベロッパがいくつもデバイスを買わなくても,パフォーマンステストやバグの調査などが可能です。

 まだ計画中の段階ではありますが,このサービスは中国国内だけではなく,今回のXiaomi-Unityプロジェクトでも提供する予定です。その場合は,実際のXiaomiの端末を手に入れることなく,リリースすることが可能になります。お手持ちのAndroid端末で基本的な開発を進め,リリースが近くなったらクラウドサービスでテストをする,という手順が可能になります。

GamesIndustry.biz:
 Xiaomiには独自のVRヘッドセットがあります。今回の取り組みにおいて,日本からVRコンテンツをリリースすることは可能でしょうか。

Liu氏:
 現在はUnityと協議中の段階ですが,ぜひ可能にしていきたいと考えています。Google Daydreamと同等のシステムとコントローラを私たちは用意していますし,6月か7月に新しいVR機器を発表する予定ですので,楽しみにしていてください。


中国市場にはどんなゲームが適しているのか?


GamesIndustry.biz:
 Xiaomiにとって,日本からどのようなゲームがリリースされたら嬉しいですか。

Liu氏:
 私たちは単にプラットフォームを提供しているだけですので,どんなジャンルのゲームでも大歓迎です。また,そもそもユーザーの母数が大きいので,ニッチなジャンルのゲームであっても遊びたいと思う人と必ずマッチすると考えています。
 また,日本のゲーム・アニメコンテンツを好む人も多いですから,IPモノはとても喜ばれると思います。

Xiaomiのゲームストア
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GamesIndustry.biz:
 日本のゲームアプリは大きく分けてF2Pの運営型ソーシャルゲームアプリと,個人の無料広告ゲームアプリ,そして買い切り型のアーティスティックなゲームアプリに分けられます。アーティスティックなゲームは中国でも売れ行きが見込めるでしょうか?

Liu氏:
Xiaomiストア版「Monument Valley」
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 その点はご安心ください。例えば,「Monument Valley」のXiaomiストア版は,6か月で7,000万ダウンロードを記録しました。

 運営型の大型ソーシャルゲームだけではなく,こうしたアーティスティックな手触りのゲームも人気があります。個人開発のアプリも同様です。さまざまな年齢層の人が遊べるタイプのものであれば,より受けが良いと思います。

 Xiaomiユーザーの特徴は,男女で5:5であるということです。戦闘系のテーマではなく,柔らかい世界観のゲームアプリが人気です。
(著者注:金田一氏によるUniteセッションでは,アプリ内課金の実装が必須であると発表されている)

GamesIndustry.biz:
 プロモーションに関するサポートはありますか?

Liu氏:
 まず,優れたゲームがリリースされたときは,App Storeと同じ「フィーチャー」の仕組みがあります。アプリストアには一般的なダウンロード数ランキングのほか,「ゲームニュース」という特別なコラムを用意しています。これからリリースされるゲームの情報を記事形式で紹介しているコーナーなのですが,専任の編集者がおり,デベロッパと共にゲームのハイライトやアピールポイントなどを一緒に考えて記事を作っていきます。
 また,リリース前にXiaomiのエディターから良いゲームだとお墨付きをもらえれば,リリースの一か月前から「予約」のサービスを受けることもできます。ユーザーがストア上で予約すると,リリース時にすぐ端末に配信される仕組みです。
 そして,XiaomiのストアはSteamのように,ユーザーがダウンロードしたアプリの履歴から,おすすめのゲームを表示するキュレーションシステムも備えています。
 App StoreやGoogle Playよりも,さらに一歩進んだ取り組みを行っているのが我々のストアです。

Xiaomiの薄縁端末「Mi MIX」とストアの様子(セクシャルなアプリが幅を利かせるのは日本の事情とあまり変わらないようだ)
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中国政府チェックで許されるコンテンツの内容とは


GamesIndustry.biz:
 Xiaomiストアにリリースするにあたって,ゲームの表現に関して禁止されていること,注意すべきことは何でしょうか。暴力表現や,セクシャル表現にどのような審査基準がありますか。

Liu氏:
 まず,中国ではゲームをリリースする前にタイトルごとに政府への認可番号申請が必要です。これはUnityと協力してXiaomiが申請を行いますが,無論いくつか注意してもらう点があります。一つは政治問題,二つめは賭博・ギャンブル表現。三つめはポルノ表現です。そして,暴力的な描写も抑えるべきでしょう。

GamesIndustry.biz:
 日本のソーシャルゲームでは,美少女的なセクシャル表現が過剰なタイトルが多く見られます。そういうものに関して,例えば「水着は駄目」などのガイドラインがあると嬉しいのですが……。

Liu氏:
ビキニ以上は着ててもらわないと……と困った様子のLiu氏
 そうですね,おっしゃることは分かります。難しい問題ですが,日本とは違って,ビキニ以上のものを身につけてもらわないとだめでしょう。キャラクターの表情やしぐさにセクシャルなイメージがある場合も,政府の審査に引っかかる可能性があります。
(編注:iOSでも出そうとすると世界的にダメです)

 そして,残念ながら私たちはガイドラインを持っていません。なぜなら中国政府がそうした基準を持って対応しているわけではないからです。

 私が皆さんに言えることは,まずはそうした表現規制を心配せずに,作りたいものを作ってほしいということです。政府の確認に提出する前に,Xiaomiのスタッフが内容確認を行います。そこで審査に通らなそうな箇所があれば,まずその時点でデベロッパさんに相談します。もちろん,政府の確認中に万が一引っかかった場合も,そのやり取りにおいてはXiaomiが間に入り,デベロッパの負担をできるだけ減らしたいと思っています。

GamesIndustry.biz:
 サポートについては,デベロッパ側は英語ができれば大丈夫でしょうか。

Liu氏:
 はい,ポータルサイトやメールなどのやり取りはすべて英語で大丈夫です。そして,近いうちに日本語で対応できる体制を作りたいと思っています。今まさに北京オフィスで日本語のできるスタッフを募集中です!

 ポータルサイトは7月からオープンしますので,ぜひアーリーアクセスにも登録してもらえればと思います。私たちXiaomiは,日本のデベロッパが中国の市場に進出し,収益を上げることを最大限お手伝いしたいと考えています。ぜひ一緒に中国の人たちに新しいゲームを届けることができればと思います。

GamesIndustry.biz:
 ありがとうございました。


Xiaomiインタビューを終えて


 今回のインタビューでは,Xiaomiが提供するデベロッパへの厚いサポート体制を知ることができた。中国市場という,まだまだ未知の分野にアプリをリリースする我々にとっては,心強いことこのうえない。

 おそらく最後の壁として立ちはだかるのは,日本国内の電波法になるだろう。現在,Xiaomiのスマートフォンは日本国内で正規販売していない。海外通販でグローバルモデルは存在するものの,日本国内で通信を行うために必要な「技適」を取得していないため,国内では電源すら入れられない状況だ。
 Xiaomi-Unityプロジェクトは日本だけではなく世界同時にスタートするものであるため,ここは日本国内のデベロッパにとって大きな足かせになるだろう。

 当分はXiaomi端末が日本国内で正規販売される見通しは薄く,そのため,当面は国内で購入できる近いスペックのAndroid端末を使って開発し,実機テストはXiaomiが提供するクラウドサービスを利用するスタイルになると考えられる。

 また,Xiaomi-Unityのサービスを利用するにあたって,Web上の契約書はデベロッパ自身でしっかりチェックするべきだろう。中国のパブリッシャは,えてして独占契約を求める傾向にある。「Exclusive」という単語には要注意だ。ビジネス文化的には埋めにくい差はあるものの,そこはユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのスタッフのサポートに期待したいところである。

 ともあれ,日本のアプリクリエイターにとってはまたとないチャンスとなるプロジェクトには間違いない。Xiaomiストアを狙うデベロッパは,オープンの7月に向けて今からUnity IAPやUnity Adsの実装を進めておくとよいだろう。

Xiaomi - Unity Developer Portal