2016ゲーム業界動向まとめ:2016年度のモバイルゲーム市場は,不安定な先行きを示しているのか?

この記事はGamesIndustry.bizの年末年始企画の一環であり,年間を通して最も注目すべき話題を分析しています。
2016年度にトップチャート入りした新作ゲームアプリは「Pokemon GO」のみだったったということは,この市場がしばらく経験している成長鈍化を意味しているとともに,東アジアのパブリッシャ勢の台頭を示している。

 これまで数年にわたって新しいアイデアを煮詰める場所となり,それまで無名だった小さなゲーム企業を業界のスーパースターに仕立て上げてきたモバイルゲーム市場は,2013年頃を機に停滞し始めている。ほんのわずかなゲームや会社がモバイルゲーム市場を占有し,市場の規模そのものは年率で20%も成長しているというのに,2014年と2015年度の収益は一部のメーカーでしか享受されないという状況だった。

 とくに2015年度は,モバイルゲーム市場が鈍化した一年であった。トップチャートに君臨したゲームアプリは世界規模で似通っており,どれも1年以上も前からマーケティングされていた長寿のヒットタイトルばかりだったのだ。

「これはモバイルゲーム市場にとっては非常に良いニュースである。新作がヒットして,一部のゲームアプリによる占有を揺るがすだけの可能性がまだ残されているということだ」

 今年は少なくとも,グローバルなトップ10リストには新しい血が入りそうだ。Nianticの「Pokemon GO」が,Apple StoreとGoogle Playのデータをトラッキングする App Annieの月間発表でナンバーワン・デビューすることは意外なことではなく,少なくとも昨夏の長い期間にわたって,同社はSupercellやTencentといった大企業を収益レベルで追い落とし,世界最大のモバイルゲーム企業に成り上がっていた。もちろん,Pokemon GOは2016年のグローバルトップ10にランク入りした唯一の新作というわけではない。一年の始まりと共にリリースされたSupercellの「クラッシュ・ロワイヤル」もデビューと共に大ヒット作となり,今年いっぱいを通してほぼトップ10にランク入りを続けていたゲームアプリだ。加えて中国企業のNetEase(網易)も,9月にローンチした「陰陽師手遊」がグローバルチャートで第6位となり,収益ベースではトップ企業にランクインした。

 これはモバイルゲーム市場にとっては非常に良いニュースである。新作がヒットして,一部のゲームアプリによる占有を揺るがすだけの可能性がまだ残されているということだ。悪いニュースとして考えるのであれば,Supercellも網易も,毎年多額の収益を得ているモバイルゲーム市場の巨人たちであり,Nianticでさえおそらくはゲーム業界では最も人気あるIPの一つである任天堂のポケモンを利用するしかなかった。もうそろそろリリースされる予定の「Super Mario Run」も,任天堂がマネタイゼーションで欲を出しすぎて失敗しない限りは,残り2週間でもトップ10入りする可能性はあるだろう。しかし,それは結局,任天堂というゲーム業界の巨人がモバイルゲーム市場に根を下ろした1年として記憶されるにすぎない。


 こうした作品のデビューを除いては,トップチャートになお連ねるゲームアプリは非常に聞き慣れたものばかりだ。2016年の人気ソフトになったのは,ミクシィの「Monster Strike」(2013年ローンチ),Supercellの「クラッシュ・オブ・クラン」(2012年ローンチ),Machine Zoneの「ゲーム オブ ウォー: ファイヤー・エイジ」(2013年ローンチ),そして「モバイルストライク」(2015年ローンチ),そして網易の「Fantasy Westward Journey」(2015年にリリースされた2001年のPC向けMMORPG)だ。トップ10とはならなかったが,「クラッシュ・ロワイヤル」や「パズル & ドラゴンズ」も人気は高い。「クラッシュ・ロワイヤル」と「Pokemon GO」は,2016年にリリースされた,たった二つのヒット作品だ。

 こうして2016年のモバイルゲーム市場から学べる教訓は,2015年度からはそう変わるものではない。モバイルゲーム市場でのゴールドラッシュはすでに終わってしまったのだ。上記の作品群から見ても分かるように,今年のヒット作はすでに市場にリリースされてしばらく経過しており,十分な予算で開発やマーケティングキャンペーンが行われたゲームアプリがほとんどだった。「モンスターストライク」は日本のゴールデンタイムのテレビでも広告が打たれていたし,「パズル & ドラゴンズ」やコロプラの「白猫プロジェクト」,そしてCygamesの「グランブルーファンタジー」などもテレビを賑わした。Machine Zoneのマーケット部門は,俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーさんをメインキャラクターに添えたさまざまな広告を,毎日目にしない日はないというくらいアチコチに掲載するという壮大な広報キャンペーンを繰り出しており,Supercellは「クラッシュ・ロワイヤル」や「クラッシュ・オブ・クラン」で膨大な予算を使ってゲームのプロモーションを続けている。

「この上層に食い込むために,高いマーケティング予算を投じていくことなど,スタートアップのメーカーでなくてもほとんどの企業にとっては無理なことである」

 こうしたストラテジーは非常に効果的なのは疑いなく,モバイルゲーム市場の上層を高い壁を使って取り囲んでしまっている。この上層に食い込むために,高いマーケティング予算を投じて(関連英文記事)いくことなど,スタートアップのメーカーでなくてもほとんどの企業にとっては無理なことである。「Pokemon GO」はほとんど広報も行われないまま成功した例がとも言えるが,30代以下の若者たちであればいくつもの思い出を持っているであろう,20年以上の歴史を持つブランドの認知度を考慮せずにはいられない。

 一部のヒット作の安定性がモバイルゲーム市場全体での沈滞につながっているという感覚は,2016年度の開発メーカーの収益ランキングを見ても分かることだ。7月にトップとなり,8位に落ちる10月までランクインし続けたNianticを別にすれば,グローバルパブリッシャの上位はすべて前年から変わりはない。SupercellとTencentの双璧に加え,2月に大手のKing.comを巨額買収し,20位以下でしかなかったランキングから這い上がってきたActivision Blizzard,世界的なエリートブランドと呼んでよいだろう網易とミクシィがトップ5のパブリッシャだ。第2陣に居並ぶのは,人気のアニメシリーズなどをゲーム化して多くのラインアップを誇るバンダイナムコゲームス傘下のディースリー・パブリッシャ,韓国で人気のメッセンジャープラットフォーム「Kakao」を持つことでも知られるネットマーブル,自社のメッセンジャープラットフォームでゲームアプリを量産しているLINE,そして「パズル & ドラゴン」のクリエイターであるガンホー・オンライン・エンターテイメントである。


 2016年度の動向から見えてくることもいくつか紹介しておこう。第一に,昨今のモバイルゲーム市場においては,伝統的なパブリッシャは必ずしても成功ばかりしていないということだ。Activision Blizzardが,モバイル部門でトップランキング入りに必要とした金額は,King.comを買収するために必要だった5.9億ドルだった。バンダイナムコゲームスは,自社開発のゲームアプリによってトップ10に居場所を勝ち取った唯一のパブリッシャである。伝統的なゲーム市場のパブリッシャの中では,このほかにはスクウェア・エニックスとElectronic Artsがモバイルビジネスで成果を上げている数少ない企業であり,ときおりトップ10に顔を覗かせることもある。

 スクウェア・エニックスはとくに興味深さが際立つパブリッシャであり,モバイルゲーム部門とコンシューマ機向けゲーム部門をうまくタイアップさせて,双方にとって利益のあるようなモデルを築き上げている。「ドラゴンクエスト」のモバイルゲーム版は2016年度中期のPlayStation 4版のローンチのタイミングに合わせて成功しているし,「ファイナルファンタジー XV」のモバイル版開発の発表はゲーマーたちにコンシューマ機版の到来に向けて準備させた効果があっただけでなく,今後も相乗効果を高めていくであろう。これは,「スーパーマリオラン」以降のの任天堂がモバイルゲーム市場で追求していくべき方向であると思われ,スクウェア・エニックスの成功は,任天堂がモバイルゲーム市場と「Switch」をどのように扱っていくべきかの指針となるはずだ。

「モバイルゲームは,そのジャンルの多様性という意味では幅広いものではなく,それだけでに大きな環境変化で生き残る耐性を持っていないというのも決して理論の飛躍ではないだろう」

 東アジア市場は,この一年も大きく成長し続けている。トップチャートには中国のTencentと網易が存在しており,TencentがSupercellを買収したこと(関連記事)によって,同社は世界最大のモバイルゲーム企業の座を不動のものにしている。また,日本のモバイルソフトウェア企業もトップ10に名を連ねているだけでなく,第二層にはバンダイナムコゲームス,ガンホー・オンライン・エンターテイメント,スクウェア・エニックス,コロプラ,そしてソニーといった企業も存在する。その他に東アジアからは韓国のNetMarbleがランクインしている。Tencentに買収する前には,Supercellはソフトバンクの傘下にあったことを考慮すれば,トップ10企業のうち北米をベースにしているのはActivisionBlizzardとMachine Zone,そして日本のIPによって成功したNianticだけということになるわけだ。

 こうしてみても興味深いと思われるのは,Activision Blizzardにしても,Machine ZoneやSupercell,そしてNianticについても言えることとして,欧米のモバイルゲーム企業はアジア地域を含めてグローバルに成功しているのに対して,アジアのパブリッシャは必ずしてもそうではないということである。中国の企業は中国で成功し,日本は日本で,そして韓国は韓国で成功しているのだ。モバイルゲームの海外市場での展開を考慮するとき,これら3地域でパブリッシングの機会を逃すというのはリスクの高いことであるが,それと同時に,こうしたアジア企業は海外での成功に頼らなくてもグローバルでトップ企業になることができるというのは,これらの地域におけるローカル市場の強さを物語るものである。


 このほかにもトップパブリッシャのトップランキングで注目しておくべきことはある。このランキングでは,現在,2種類のパブリッシャに大別することが可能だ。1〜2本の大成功で驚異的な成長をしたパブリッシャ,そして誰でも遊んでいるというようなゲームではないものの,それなりの収益のある佳作を並べた分厚いポートフォリオを持つパブリッシャだ。前作は,「キャンディ・クラッシュ・サーガ」のActivation Blizzardと「モンスターストライク」のミクシィ,「Pokemon GO」のNiantic,「パズル & ドラゴンズ」のガンホー,そして「白猫プロジェクト」のコロプラといった企業である。このカテゴリーに属していたものの,今では複数の大成功作品を持つに至ったのは「クラッシュ」シリーズのSupercellと,「モバイルストライク」の前に「ゲーム・オブ・ウォー」シリーズを成功させているMachine Zoneといったところか。

 その一方で,後者のカテゴリーに属しているのは,Tencentや網易,バンダイナムコゲームスやスクウェア・エニックスなどである。このいくつかのメーカーは,他社とはケタ違いの収益を上げているのは無論であるが,これらのメーカーは単作のヒットに頼るのではなく,幅広いゲームアプリの展開で収益を上げているのには変わりない。考え方によっては,そのほうが手堅いビジネスであると言え,いくつものヒット作を続けてローンチしていくことによって,失敗作が出たときのリクスを下げていくことになる。それに比べれば,後続のヒットを生み出せていないActivision Blizzardやガンホーはランキングを維持するのに苦労している様子である。

「Pokemon GOは,コンバットだけのRPG,短いセッションを続けるパズルゲームや自動化されたストラテジーゲームなどの無数のライト級タイトルに埋もれた不毛の砂漠の中に注ぎ込まれた新鮮な飲料水となったのは疑いない」

 さらには,中間的なヒット作の消失というコンシューマ機向けゲーム市場で起こっている近状は,モバイルゲーム市場のパブリッシャもしっかりと見据えておくべきことであろう。巨額の収益を上げているほんの一握りのタイトルを占有してしまうという状況は,収益性だけでなくマーケティングの面でもバランスを崩してしまう可能性を持つ。中小のパブリッシャは良い作品を作っていても,そもそも消費者の注目を浴びるだけのマーケティング予算で,どんどんと水を開けられてしまうわけだ。
 これが,AAタイトルともいえる中間的な市場を消失させた大きな理由であるのは疑いなく,「Overwatch」や「League of Legends」といったAAAを超えるAAA+タイトルに追いつけるだけのゲームが登場しない理由にもなる。モバイルゲーム市場で,このパターンが繰り返されるという確証は今のところないものの,今後のモバイルゲーマー層の拡充に限界が見え始めるようなことがれば,その時にはもはや後戻りはできない状況になっていると言えるかもしれない。

 現在のグローバル市場でどのようなモバイルゲームがプレイされているのかというトレンドも分析しておくのに越したことはないが,アジア市場で非常に収益を上げているローカル向けコンテンツの引き続きの重要性について度外視すれば,それほど大きな変化は2016年度には起こっていない。「Pokemon GO」はともかく,現状で注目できる作品は2014年や2015年中に遊ばれてきたゲームとそれほど変化は見られない。実際に,ほとんど多くのゲーマーたちが,今年はそれ以前にリリースされたゲームに熱中している。これは,その没入性という意味では成功したクリエイターたちを称賛すべきことであるものの,長期的な市場の健康値という観点で考えると,憂慮すべきことでもある。

 “消費者の疲労”は,映画や文学,音楽などの市場を見ても無視できない現実であり,ゲーム産業も現在までは右肩上がりで成長してきたものの,人々の興味が他に移って停滞していくことは十分にありえる。モバイルゲームは,そのジャンルの多様性という意味では幅広いものではなく,それだけでに大きな環境変化で生き残る耐性を持っていないというのも決して理論の飛躍ではないだろう。人々の興味は移ろいやすいものだし,同じような新作ゲームをプレイする気も起らないまま,多様性のないモバイルゲーム市場に関心をなくしてしまうことは大いにありえる。

 「Pokemon GO」の成功はポケモンという知的財産によるところが大きいのは確かだが,重要なのはそのIPがゲームのスタイルとうまく結合したために(関連記事),これまでモバイルプレイヤーたちが体験したことのないゲームに仕上がっていたということだ。このゲームが長期的にヒットしていくゲームになるかどうかは現時点では不明であるが(関連英文記事),「Pokemon GO」は,コンバットだけのRPG,短いセッションを続けるパズルゲームや自動化されたストラテジーゲームなどの無数のライト級タイトルに埋もれた不毛の砂漠の中に注ぎ込まれた新鮮な飲料水となったのは疑いない。問題なのは,Nianticの前作を見る限りは,ポケモンというIPなくしてはおそらく誰も,そんな革命的な存在に気付くこともなかっただろう。

 モバイルゲーム市場の最上層の周りに建てられた壁が高すぎるということは,この分野を劇的に革新させるだけの能力を備えた唯一のスタジオが,ますますほんの一部の大ヒット作を生み出せるスタジオだけに限られてしまうということでもある。2017年度も収益性の高いゲームが存在し,大ヒットするような新作も出て来るのは間違いないだろうが,このような市場の停滞が続くのであれば,今後は投資家やゲーム開発者たちは市場の停滞や下降の危険性を慎重に認識しておくべきであろう。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら