Climax StudiosはローリスクでVR/ARゲームを開発する

受託開発を超えて独自の事業を構築するために,Climax Studiosは小規模でインストールベースの立証されていないテクノロジーをどのように使っているのだろうか。

 仮想現実(Virtual Reality/VR)と代替現実(Augmented Reality/AR)がコンシューマ市場に第一歩を踏み出した。新しいテクノロジーに乗り遅れるのではないかと,一部の人々や企業が恐れるのは無理もない。Climax Studiosもそういった一社かもしれないが,そこには正当な理由があるのだ。

 今週のGamesIndustry.bizとの対談の中で,Climax StudiosのCEO,Simon Gardner氏は,同社のモバイルゲーム開発で初めての「遊び」について語った。モバイル市場が爆発的になる前から,Climaxは技術的好奇心でもって,すでにMoto GPやSudekiといった家庭用ゲーム機版のタイトルをモバイルのハードウェア上で実験的に走らせていたのだ。だが残念なことに,それらが事業として展開されることはなかった。

 「当時,数字を見て『これは我々が踏み込むべきものではない』と考えたのです」とGardner氏は語った。「大規模な家庭用ゲーム機のゲームを作らなければならかったタイミングでしたので,モバイルは横道に逸れるものだと思ったのです。しかし今回,私たちはVRのムーブメントを逃さないと覚悟を決めたのです」

「現在世の中には投資資金があり余っていて,人々はハードウェアのプラットフォームを立ち上げるためにプロダクトやアイデアにお金を入れたい,私たちにそこでIPを維持させたいと思っているのです。だから極めてロー・リスクなのです」

 数十年の受託開発を経て,ClimaxはVRとARを,企業価値を積み上げる絶好の機会と捉えている。彼ら独自の知的所有権を確立し,それを自費で世に出すことで,会社として前進していけるのだ。引き続きさまざまな受注業務を請け負う一方で,VRとARへのこだわりは一切妥協がない。SamsungのVRヘッドマウントディスプレイ「Gear VR」向けのゲームとしてBandit SixとBandit Six Salvoをすでにリリースし,Gunsightをちょうど発表したところだ。クリスマスまでにあと二つ,来年の初旬にはさらに三つのVRとARのタイトルをリリースしたいとGardner氏は目論んでいる。全部がGear VRのようなモバイルVRのプラットフォーム向けゲームではない。また,同社として初めてとなるRiftとViveのタイトルも数か月以内にお目見えする予定だ。

 「プラットフォームの初期段階では,予算やゲーム規模はだいぶ小さいので,競争力と小規模な投資があれば市場に入っていけるのです」とGardner氏は述べた。「ですから,AAA家庭用ゲームや(AAAの)モバイルマーケットではできなかった,外部からの資金調達や自己資金による展開が可能なのです。私たちはほとんど底辺でしたけれども,VRとARは,新しいマーケットに参入できる好機だったのです。今後,マーケットと共に成長できればと思っています」

 VRとARへの初期投資は必ずしも資金を失うということではない。Gardner氏によれば,昨年リリースしたBandit Sixはすでに収益化しており,氏が言うところの「かなり控えめな」期待を超え,現在も売れ続けている。インストールベースのVRプラットフォームとしては比較的小さいが,ClimaxのVRへの注力はビジネス的観点からも正しそうだ。

 「つまり,現在世の中には投資資金があり余っていて,人々はハードウェアのプラットフォームを立ち上げるためにプロダクトやアイデアにお金を入れたい,私たちにそこでIPを維持させたいと思っているのです。だから極めてロー・リスクなのです」とGardner氏は説明した。

 それでもまだGardner氏は,VRの波が,目新しさがなくなると死に絶えてしまう一時的な流行ではなく,業界にとって持続的なマーケットになるとは確信していない。

「今はまだ,インタラクションはかなりシンプルです。そしてインタフェースを変化させることは,おそらく初期のゲームをもはや冗長だと感じさせる大きな要因にもなってくるでしょう」

 「それについてコメントするの時期尚早だと思います。しかし,新しいプラットフォームができたり,VR経験をいっそう素晴らしいものにする新しいテクノロジーが生まれたりするだろうという確信はあります」Gardner氏は続ける。「テザリングを必要とせず,簡単に使えてフリクション(摩擦)も起きないデバイスが出てくるでしょう。VRはまだ初期段階にあり,これが本格的に進化するのにあと1年半から2年はかかると思っています。私たちは,今はまだ一人立ちするきっかけを模索していますが,熱意はあります。それはある意味,ゲームのプラットフォームというだけでなく,もっともっと幅広く人々の生活に入り込んでくるARへの足掛かりになるはずです。皆さんは,VRやARをゲームだけでなく,生活の中のもっと多くの場面で使うことになるでしょう」

 ClimaxのVRとARへの注力は,創造的にだけでなく財務的に見ても将来への投資だが,リターンは限定的になるかもしれない。

 より洗練されたアイトラッキング,ボイスコントロール,ジェスチャー認識のテクノロジーが標準化しても,基本的なインタフェースとなる今日の技術でスマッシュヒットを飛ばすようなゲームはどれも,そのままであることを求められるだろう。

 「その危険はあると思います。メーカーなどが新たにゲームとインタラクトすることでさらにその危険は増すでしょう」とGardner氏は同意した。「今はまだ,インタラクションはかなりシンプルです。そしてインタフェースを変化させることは,おそらく初期のゲームをもはや冗長だと感じさせる大きな要因にもなってくるでしょう。なぜなら,ゲームとインタラクトする新しいアイデアは変革を後押しし,新しいゲーム体験を生み出すからです」

 Gardner氏によれば,このビジネスモデルが現時点ではClimaxにとって有効であったとしても,あくまでもこれは投資であり,数年以内に市場で起きる急激な変化についていくためのスキルを学ぶプレイとみなしている。「私たちは確かにビジネスの初期段階にいます。そしてそこでは勝者と敗者が生まれ,統合が起きるでしょう。それは避けられません」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら