関西の新たなインディーズゲーム集会「Ichi pixel」レポート

 ここ数年,日本の個人ゲーム開発者をとりまく環境は劇的に発展している。作品を販売できる経路が多様化し,ゲームの展示イベントは急増。ゲームエンジンUnityやUnreal Engine 4を中心とした「週末部活」のユーザーグループが全国で発足するなど,横のつながりが目に見えてきて活性化している。
 そんななか,2016年8月22日に新しく始まったイベント「Ichi pixel」におじゃましてきたので,どんな様子なのかをレポートしてみたい。

 イベントの開催地は大阪・天神橋筋六丁目。関西の個人ゲーム開発者を中心に,プレゼンや交流を行う「ゆるい」イベントだ。

 この集まりを発案したのは,ゲームクリエイターの“なかじま氏”だ。(なかじま氏の作品については,同じくゲーム開発者の集いである「Tokyo Indies」レポート](参考記事)で紹介したとおり)関西でもTokyo Indiesと同じ方針のイベントを開催したい! という思いから関係者に声をかけ,実現に漕ぎ着けたのだという。

 今回は第1回ということだが,参加者は80名を超えた。当初は30人程度の規模を想定したそうなのだが,会場となったイベントスペースはピーク時には「足の踏み場もない」ほどの大盛況となった。そのため,写真には少々お見苦しいところがあることをお許しいただければと思う。



多様なプレゼンテーション


 このイベントの趣旨は開発者同士の交流がメインだが,会の中盤からは希望者による短いプレゼンテーションタイムが設けられている。初回であったためか,登壇者5名の発表内容はまったくバラバラだった。ゲーム開発の方法論を語るもの,自分の作ったゲームの紹介をするもの,ゲーム開発向けのサービスの紹介をするものなど,言ってみれば多彩な発表となっていた。いくつかをピックアップして紹介しよう。


●「アイディアの計算式」を語ったIQ140の男
 自称“IQ140のゲーム開発者”,まるちゅう氏は「アイディアの計算式」という題目で,ゲームを作る際のアイデア出し手法について紹介した。
 まるちゅう氏は10年以上活動を続けているフリーゲーム開発者であり,近年では「Unity5 開発講座 ユニティちゃんで作る本格アクションゲーム」(翔泳社)の著作も手掛けるなど,マルチに活動している個人ゲーム開発者だ。

 そんな彼がゲームのアイデアを出すときに意識している考え方があるという。それが「あるものの大切な何かを使えなくすると,新しい何かが生まれてくる」というものだ。

 たとえば,「車」というイメージから「ハンドル」の存在を消してしまった場合は,その車は必然的に自動運転車となる。タイヤを消してしまえば,空中に浮く車になるかもしれない。それと同じように,既存のゲームからも「大切なもの」を消すことで,新しい発想を探してみようというものだ。

関西の新たなインディーズゲーム集会「Ichi pixel」レポート
 まるちゅう氏の作品「STELLARIS」(参考URL)は,名作「テトリス」から方向キーによる操作を消したゲームだ。その状態でどうやってブロックを操作するのか? というと実はシンプルで,マウスでクリックして動かす仕組みに変更されている。

 単に方向キーでの操作からマウスに変わっただけのように思えるが,この代替によって複数のブロックを素早く動かすことが可能になり,そこから空中でブロック同士が衝突したりといった新システムにつながっていったそうだ。まるちゅう氏いわく,こうした縛りから「新しい遊びの発見」が見えてくるのだという。

 最後に,ゲームの完成というのは「足すものがなくなったとき」ではなく,「引くものがなくなったとき」である,と繰り返し主張していた。長く個人開発を続けているまるちゅう氏のゲーム開発哲学のようなものが感じられた。

●ブラウザで動く弾幕シューティングを作る!
 続いては,“さい”氏による「Touhou Project on JavaScript」(参考URL:リンク先,音量注意)についてのトークが行われた。
 こちらはその名のとおり,東方Project二次創作をJavaScriptでブラウザ上で開発してみた,という作品だ。
 実際に上記リンクから現在のバージョンをブラウザの上で遊ぶことができる。

 「Webの技術だけで弾幕STGを作りたい」という目標にチャレンジ中のさい氏は,開発中のデモンストレーションを実際に披露した。いわくパフォーマンス的には良好で,いまどきのPCならばしっかり60fpsが出るそうだ。ただし,スマートフォンでは30fpS程度まで落ち込むことがあるそうで,まだ調整をしていくという。

関西の新たなインディーズゲーム集会「Ichi pixel」レポート
 また,ElectronというGitHub製のデスクトップアプリフレームワークを利用してPC/Mac用に出力することもできるそうだ。

 さい氏によると,最近はグラフィックスであればWebGL,P2P通信ならWebRTC,VRならばWebVR……と,ブラウザ上で実現できることが増えており,いろいろと挑戦しがいのある分野になってきているのだという。

 なお,この「ブラウザで遊べる東方二次創作」は,サークル「ひまわり鎮痛剤」の名義で頒布を予定しているそうだ。年末のコミックマーケット91には完成を目指しているとのこと。

 余談だが,この会場には海外から来たゲーム開発者も10名ほど参加していたため,英語通訳者によるサポートも行われていたのだが,「東方二次創作」は「Touho fan games」,「弾幕シューティング」は「Bullet hell」で通じることを学んだ。
 今年後半になってソーシャルゲーム開発の現場でもUnityやCocos2d-jsを利用したHTML5やWebGLの話がじわりと増えつつある。日本の場合,こうした最新分野へ踏み込んでいく切り込み役は,意外と個人クリエイターが担うのかもしれない。


シンプルにタイトルの紹介を行うチームも


 そのほかのプレゼンでは,純粋にタイトルの紹介をするチームもあった。
 スマホゲーム開発者チームのおはら氏&たかはら氏は,iOS/Androidタイトルの「サムライ地獄」(参考URL)を紹介した。

 いわゆるクリッカー・タップ系のゲームなのだが,素っ頓狂な世界観とギリギリなパロディにあふれた楽しい作品だ。最近はなぜかファミコンへの移植を画策し,とりあえず箱絵だけ作ったそうだ。

関西の新たなインディーズゲーム集会「Ichi pixel」レポート

 続いてのNIGORO楢村氏は,開発中である「LA-MULANA2」のデモを披露。数々の新ギミックの動作を見ることができた。

 難易度の高いゲームとして人気の「LA-MULANA」だが,今回は少しばかり親切にしよう...という趣旨のもと,謎解きのヒントとマップの関連性が分かる(非常に見つけにくい)「紋章」のシステムや,溶岩のトラップがゲーム終盤のプレイヤー強化で簡単になることを踏まえた上位トラップ「毒溶岩」概念の導入など,やっぱりプレイヤーを殺しにくるゲームデザインをお披露目していた。

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新たに幕を開けた関西ゲーム開発コミュニティ


 本イベントで特徴的だったのが,参加者の多様性だ。関西のコミュニティとしては「関西同人ゲーム制作者交流会」(参考URL)が以前から活動しており, 筆者も3年ほど前に伺ったことがある。比べて,今回スタートした「Ichi pixel」は,プレゼンターからも見て取れるように,東方二次創作からスマホアプリ開発者,フリーゲーム開発者,Steamでゲームをリリースするインディーズゲームクリエイターなど,多種多様な形でゲーム開発に携わっている面々が集まっている。それらを横断するクラスタが集まり,各々を尊重しながら交流ができる場があることは素晴らしい船出といえるだろう。

 本イベントはしばらくの間,月1回のペースで開催されるそうだ。関西付近在住で,ゲームを作っている人,作りかけのタイトルがある人は,同士を見つけに行ってみるといいだろう。

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