Epic Gamesが見るモバイルVRの白昼夢

テクニカルディレクターのNick Whiting氏が,Googleの立ち上げた新たなDaydreamプラットフォームについて語った

 Googleが主催したI/O 2016での基調講演において,Epic GamesのCTO,Kim Libreri氏がUnreal Engine 4がGoogleのモバイルVRプラットフォーム「Daydream」をサポートすることについてアナウンスするとともに「Dungeon」というゲームデモでその機能を披露した。この機会に,このプラットフォームがVRの開発者およびその未来について,我々はEpic GamesのテクニカルディレクターであるNick Whiting氏に話を聞いてみた。

Q:
「Daydream」のようなモバイルVRプラットフォームが,VR業界においてどのような意義を持つと思いますか?

Nick Whiting氏:
 より開かれた市場を切り開くのではないかと思います。最近,タクシーの運転手と私の職業に関する話題になって,彼が「Samsungのスマートフォンに買い替えたから,あのGearVRをプレイできるね」なんて話し始めたのです。かなり一般にも浸透してきているのを痛感しましたね。最近は誰でもスマートフォンをポケットに入れて持ち歩いていますし,Daydream対応機種は1〜2年もすればデスクトップVRのアプリよりも大きな市場になっているかもしれません。スマートフォンのスペックも大きく向上し,よりアクセシブルで開かれた市場になるわけです。デスクトップVRはハイエンドなPCが必要ですし,PlayStation VRはPlayStation 4が必要になります。これはつまり,市場が限定されているということで,皆がスマートフォンをポケットに入れて持ち歩いている状況とは大きく異なります。

多くのゲーム開発者はOculusやVive,PlayStationといったハイエンドなVR体験ができるゲームを作ろうとしていますが,それはやはり,これらのプラットフォームはゲームにぴったりだからなのです

 それが素晴らしいのは,たくさんのさまざまな興味深いアプリケーションを生み出す市場を開拓するだろうというところです。必ずしもゲームだけではありません。他分野の市場やニッチ市場も広範な消費者基盤をアピールしてくるでしょう。人々は真面目なアプリケーション,建築ビジュアライゼーションであるとか,クルマのカスタマイズであるとか,健康トレーニングといった安全なアプリケーションを使うようになるでしょう。新たな消費者層を掘り起こすので,それは本当に大々的に大衆化されることになります。

Q:
 ゲーム開発者たちは,異なるVRプラットフォームについてどういう見解を持っているのでしょうか?


Nick Whiting氏:
 それは開発者によって違いますね。多くのゲーム開発者はOculusやVive,PlayStationなどでハイエンドなVR体験ができるようなゲームを作ろうとしていますが,それはやはり,これらのプラットフォームはゲームにぴったりだからなのです。その一方で,エンターテイメントや映画といったゲーム以外の業界でもアプリケーションを市場に出そうと興味を持っています。とくに建築のビジュアライゼーションや生産業などでは,さまざまな場所に持ち運べるモバイルVRを好む傾向がありますね。外出や屋外での作業にハイエンドPCを携帯するのは難しかったのに,Daydreamがそれを可能にするわけですから,これまで以上の業界が参入を興味を持っているというわけです。

Q:
 エンターテイメント業界という話をされましたが,バーチャルリアリティはゲームとほかのメディアの境界線をあやふやにし始めているように感じさせます。実際のところはどうなのでしょう?

Nick Whiting氏:
 それは,多くの人が新しいメディアの登場に興奮しているような状態だからかもしれませんね。VRヘッドセットを被れば,テレビやこれまでのメディアでは不可能だった,その世界の中に没入していくようなマジカルな雰囲気を堪能できます。ですから,多くの開発者たちがその能力を引き出そうとしているのでしょう。とくに,映画業界はそういう傾向にあり,これまでに蓄えてきたビジュアライゼーションのノウハウを活かしたり,その市場をさらに広めていくためのツールという観点で,観衆たちがさらに興味を覚えるようなアプリケーションを制作しようとしているのです。VRは実際,それに非常に向いているメディアであると思います。これまでも3D環境の世界を作ってきた彼らですから,VRというメディアに移行するのもたやすいのでしょう。

多くのVRプレイヤーが初めてVRアプリの開発経験を積んだのがGoogle Cardboardであり,認証プロセスがなかったというのが功を奏したのです

Q:
 最近,VRがメインストリームになるためにはあと数年かかるといった時間的な話題がよく挙がります。モバイルVRプラットフォームは,そのプロセスを早めることができるでしょうか?

Nick Whiting氏:
 Daydreamなら可能であると考えます。多くのVRプレイヤーが初めてVRアプリの開発経験を積んだのがGoogle Cardboardであり,認証プロセスがなかったというのが功を奏したのです。Googleは,VRの現状を非常に良く理解していると思います。Google Cardboard系のヘッドセットにはストラップが付いていないのは,現行のスマートフォンの最低の奨励スペックが十分なものであはなく,パフォーマンスの面で長時間にわたって利用できるものではないことを認識していたからでしょう。


 しかしDaydreamでは,ハードウェアに認証プロセスを加えることによって,プレイヤーがVRを遠ざけてしまうのではなく,何度も利用できるようなものにしようという最低ラインを設定することになります。モーションコントローラを追加することでVR体験をさらにマジカルなものにするようなインタラクションも可能になるでしょう。VRヘッドセットを初めて装着したときは数十秒は楽しいかもしれませんが,ふと下を見ると足元が見えてしまって興ざめてしまうということもありえるわけです。

 ですから,目の前のゲーム世界とインタラクションを容易にさせるモーションコントローラはDaydreamプラットフォームのVR体験をより良いものにする重要な要素であり,より多くの人が何度も体験したいと願い,自分から新しい体験を探しに行くようになることで,市場も大きくなっていくのだと思います。

Q:
 VR市場の未来はどのようなものを想定されていらっしゃいますか?いつメインストリーム化し,市場も成熟していくのでしょう?

Nick Whiting氏:
 私が預言者だったらその質問にもお答えできると思うのですけど,実際のところはさまざまな要因が絡み合っていて特定するのは難しいのです。しかし,Daydreamは,Google Cardboardのように一度体験すれば興味を失ってしまうようなVR体験ではなく,さらに素晴らしい体験をより多くの人に手っ取り早く体験してもらえるプラットフォームですから,市場のメインストリーム化を早めるのは間違いないと思います。より多くの人が自分から新しい体験を探しに行くようになることで,より大きな市場が開かれていくはずです。


※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら