Unity 2020以降のロードマップ発表

 2020年3月26日,Unity Technologiesは,今後のエンジンロードマップを発表した。
 1月末に公開されたUnity 2019.3で,Uniteで公開されていたような新機能の多くが搭載され,HDRPも正式版となった。さらにUnity 2020.1もβ公開されている。ではそのあとはどうなるのか? Unityの今後の方針が語られていた。

 同社が4つの柱として挙げていたのは以下のものである。

  • 信頼性と性能
  • クリエイティブワークフロー
  • スケーラブルなクオリティ
  • オーディエンスへのリーチ

 詳しくは公開されている動画を見てもらえば話が早いのだが,ここではそれぞれについてのトピックを拾ってみよう。



信頼性と性能


 まず,アップデートの頻度は,年3回をベースにすることになるようだ。Unity 2019ではすでに3つのバージョンが公開されているが,今後発表されるUnity 2019.4をもってLTS(Long Time Support)版とし,完成版という位置付けにするようだ。
 Unity 2020ではそれが全部で3回となり,Unity 2020.1がα版,Unity 2020.2がβ版,Unity 2020.3をもってLTS版とする公開サイクルが予定されており,それはUnity 2021でも踏襲される模様だ。このように段階的に公開して信頼性を上げていく。途中版では多くの新機能は開発中なので,それなりにトラブルも出てくるだろうが,それを嫌うならLTS版を使ってねという方針だ。
 どうでもいいが,α版というのは本来社内開発版のことであって,外部に出した時点でβ版とみなされるのが普通だ。Unity 2020.1はUnity 2020のα版という位置付けだが,現在はそれがβ版として公開されている。Unity 2020のα版のβ版というややこしい関係になっている。

Unity 2020以降のロードマップ発表 Unity 2020以降のロードマップ発表

 そういったリリース方針に加えて,より実践的なデモで新機能をテストして完成度を上げていくという。すでに公開されているFPSサンプルやMega City,DOTSによるTPSデモに加えて,大規模オープンワールドシューターが開発されているとのことだ。
 これらのデモは新機能の実験台と実践的なサンブルという意味合いを持ち,今後Unityで同種のゲームを制作するときに大いに参考にされるのだろう。

Unity 2020以降のロードマップ発表


クリエイティブワークフロー


 具体的に今後登場するであろう新機能をまとめておこう。

 今回はエンジンとエディタ部のアップデートに関するロードマップということで,ワークフロー改善についてが最も力が入れられていた。

●2D
 2D関連では,以前のUniteで紹介されていた機能以上のものの紹介はなかった。すでに搭載されている部分とプレリリース扱いになっている2Dライティングなどをこのまま進めていき,将来的にはさらに性能を上げていくという方針だ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●プログラミング
 プログラミング関係では,なんといってもビジュアルスクリプティング環境の導入が注目される。ノードベースのビジュアルスクリプティングツールで,C#の知識なしで扱えるものとされている。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●エディタ関連
 エディタ関連では,高解像度ディスプレイ対応や高速化が進められている。現在,シーンビューでの作業中にプレファブを編集できる機能などがプレリリースされているが,次世代ではそれをさらに進めて,シーンやプレファブ,その他のアセットを独立して編集できるマルチドキュメントワークフローが実装されるという。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●QoL改善
 やや大仰だが操作性改善と捉えておけばいいだろう。ヒエラルキービューやインスペクタでのカット&ペースト機能が,現在プレリリースされている。さらにUnity 2020ではエディタ内に表示されている要素をドラッグ&ドロップで入れ替えるなどの機能が導入される模様だ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●アニメーション
 アニメ―ションでも多くの機能が導入されているが,将来的には,低レベル層がDOTS田泓となると同時に,高レベル層のアニメーショングラフなどが順次DOTS対応に置き換えられていく模様だ。アニメーションに限らず今後は,とくに意識しなくてもDOTSベースのものになっていくのであろう。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●ライティング
 HDRPが正式版となり,非常に高レベルなライティング環境が利用で気うようになった。2020.1ではライティング設定を使い回せるライティング設定アセットなどが追加されている。今後は,GPU Lightmapperが搭載され,これまで以上にベイク時間などが短縮されるものと思われる。またGI関連処理がDOTSベースのものに置き換えられることになるようだ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●ワールド構築
 Unityが買収したProBuilderやPolybrushといった会社の技術が取り込まれた結果,Unityはアセット作成能力でも優秀なツールとなっている。さらに今後はC#ベースの新たな地形作成ツールが導入される模様だ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●Visual Effects
 Shaderグラフの導入で大きな進化を見せたUnityのビジュアルエフェクトは,Unity 2020でさらなる安定性を求めてバグ取りが行われている。将来的には,エフェクト用のC#APIが整備されていくという。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●UI開発
 UIはUnity 2020でビジュアルな操作環境が整備されていき,さらにその先ではCSSの整備やトランジション,アニメーションといった要素の導入,ベクトル系の描画システムが導入されていく予定となっている。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●AI関係
 AI関係では,AIのサポート機能付きのツールのほか,機械学習でのシミュレーションを効率化するための並列実行機能がプレリリースされており,今後はC#用の機械学習ツールキットや,最近買収したArtEngineによるサポートツールが導入されていくという(関連英文記事)。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●オーディオ&ビデオ
 ゲーム内での音声/ビデオの再生/録画などに関わる部分は,DOTS化が進められており,性能を上げていく模様だ。今後は,上層部に開発者向けのAPIを整備していくようだ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●カメラ
 Cinemachineで大きく飛躍したUnityのカメラシステムだが,それも今後はDOTS化されて,さらに性能を上げる模様だ。

Unity 2020以降のロードマップ発表


スケーラブルなクオリティ


●アセットの扱い
 Unity 2020ではWndows上でアセットが更新された場合に,それを検知して同期するといった仕組みが搭載されている。さらに今後はアセットのインポートをまとめてやるのではなく,必要になったときに必要な分だけを読み込むような仕様になるようだ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●ユニバーサルレンダリング
 ライトウェイトレンダーパイプラインは,性能は維持したままなんやかんやと機能拡張が行われつつ,軽くて速くて高機能なユニバーサルレンダーパイプラインになった。Unity 2020では要望により複数のカメラが追加され,バグ取りが進められている。将来的にはアンビエントオクルージョンやディファードレンダリングなどが加えられ,さらに汎用なレンダーパイプラインとなっていくという。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●HDレンダリング
 HDレンダーパイプラインは,Unity 2020.1で仮想テクスチャのストリーミング機能を実装しており,さらにShaderグラフにも対応していくとのこと。今後はデバッグ機能を追加し,やはりこの部分もDOTS化が行われるようである。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●物理演算
 独自のUnity Phisicsで大量のオブジェクト扱いやすく処理できるようになり,Unityの物理演算処理は一大転機を迎えている。今後はラグドール処理やジョイント処理などを加えて,アニメーションと連動したキャラクター制御でも使えるものにしていくとのことだ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●ネットワーク
 現在,Unity傘下のMultiplayによるオンラインゲームホスティングが可能になっており,DOTSのサンプルTPSではNetCodeと新たなUnity Tranportが公開されている。将来的には,サーバー側をDOTS化したりTransportに暗号化機能を加えていくという。

Unity 2020以降のロードマップ発表


オーディエンスへのリーチ


●モバイルプラットフォーム
 すでにモバイル分野でのUnityのシェアは相当なものだが,さらに開発効率を上げるためのデバイスシミュレータをプレリリース中だ。今後は,ユニバーサルレンダーパイプラインの改善を進めていくとのことだ。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●Project Tiny
 超軽量Unityとして知られるProject Tinyでは,今後あらゆる部分で改善と拡張が予定されている。サブセット版のUIが提供されるほか,プレイアブル広告などで使えるように,単一のHTMLファイルとして出力できるようにしていくという。

Unity 2020以降のロードマップ発表

●XR関連
 XRデバイス間の機能差を隠しつつ,さまざまな操作を標準的に処理できるようにするXR Interaction ToolKitは,現在プレリリース中だ。別のデバイスでもだいたい同じことができれば,特定のターゲットデバイスが手元になくても,だいたいのところまでは開発を進められる。今後はレンダリングエンジンの性能を上げて,XR体験をよりリッチにしていき,開発者向けの導入コンテンツやテンプレートを整備していくとのこと。

Unity 2020以降のロードマップ発表

 UnityではDOTSや新物理エンジンなどで,エンジンの根本的なところからの革新が進められており,Unity 2020か2021では,あまり使い勝手を変えずにすべてがDOTSベースで動くようになっていくのだろう。加えて,待望の純正ビジュアルスクリプティング環境や傘下の会社によるツールとサービスによって,できることの範囲は大きく広がり,敷居は下がって新しい展開を期待できる。
 なお,ロードマップの発表は4月1日にも予定されているので,気になる人は公式Blogを確認しておこう。

Unity公式サイト