ウェアラブルEXPO開催,次世代MRデバイスはどんな方式か? 

ウェアラブルEXPO開催,次世代MRデバイスはどんな方式か? 
 2020年2月12日から14日にかけて「ウェアラブルEXPO 2020」が開催された。ウェアラブルデバイスの基礎技術から製品までを幅広く取り扱う展示会である。
 ゲームには関係ない技術もあるが,いずれはなんらかの形でゲームでも使われそうな技術も多い。以下では今年の展示で目についたものを紹介してみたい。タイトルにもあるようにMRデバイスを中心としているが,展示会全体として見れば,MRデバイスが中心というわけではないのでそのあたりは注意してほしい。

 なお,以下では,現実の風景にかぶせてCG映像を出すヘッドセット製品を総称してMRデバイスと呼んでいる。


MRメガネ用超小型レーザーユニット


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 この展示会のたびに紹介している気もするが,福井大学とケイ・エス・ティ・ワールドの小型レーザーユニットの試作第3弾が展示されていた。これはメガネに内蔵して網膜照射型のMRデバイスを構成する際のキーとなるデバイスの1つだ。
 半導体レーザーユニットから出たRGBのレーザー光線が,DMDデバイスでの反射を経てメガネのレンズ面に投影され,そこで半透過しつつ反射した光が目に入り,直接網膜上に映像を投影する。福井大学では半導体レーザーユニットの小型化を進めており,今回のユニットは,ほぼ(太めの)メガネのツルに入りそうなくらいにまで小型化されている。2017年に取材したときの1次試作が容積で0.561cc,2018年が0.454cc,そして今回は0.141ccである。文句なく小型化されている。

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 こんなに小さくして出力は大丈夫なのだろうかと心配する人もいるかもしれない。しかし実際には,人間の目に直接使うには,このサイズでもまだまだレーザーの強度が強すぎるのだそうだ。なんらかの方法で弱めてから利用しなければならないので効率はよくない。単純に大きさで出力が決まるものでもないようだが,低出力化,低消費電力化そしてさらなる小型化はこれからも進められるようだ。
 

ケイ・エス・ティ・ワールド公式サイト



QD Laserの網膜照射型デバイス


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 さて,こちらはレーザーを使った網膜照射型MR眼鏡の製品版である。先ほどの福井大学さんからすれば,これでは大きすぎるから普通のメガネに入るくらいに小さくするということなのだろうが,こちらは現状の技術で製品化まで進めている製品だ。RETISSA Display IIは,全体としてみればちょっとゴツめのメガネという仕上がりである。全体としては,ポータブルなMRデバイスになっており,メガネ部は有線でプロセッサ部分と接続されている。

 社名から分かるように,本来ならここは量子ドットレーザーを扱っている会社なのだが,この製品では半導体レーザーが使われている。量子ドットというとディスプレイの蛍光体として使われている例が知られているが,自発光もすればレーザーも出す多彩な挙動を示すものである。なんにせよ,今回は半導体レーザーなのだが。

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 スカウター的な形状のMRデバイスでレーザー走査式のメリットはピント合わせが必要ないことだ。着用者の視力に関係なく鮮明な映像を表示できる。視野角は26度とそれほど広くはないが,そこそこに大きめな映像が投影される。以前紹介した同社製品は,2024×600ドット程度だったのだが,今回は1280×720ドットの720p解像度のものになっていた。

 実際に体験すると,フラットな部分だと横線系の色ムラもちょっと目立ったが,概ね綺麗な映像を表示できていた。ちょっと意外だったくらいだ。2016年に2世代前の製品を試したことがあるのだが,今回のものは格段に綺麗で目への負担もほとんど感じられなかった。

 この手のデバイスではどれも同じような感じだが,位置合わせはシビアで,ちょっとずれると映像は見えなくなる。今回は標準的に眼鏡をかけた状態ではまったく見えなかったので,常時手で支えながら視聴した。位置調整はかなり柔軟にできるとのことなので,ちゃんと個人ごとに合わせれば問題はないのだろう。
 全国6か所で店頭デモも行われているようなので,公式サイトを見て近くでデモをやっているようなら,一度体験してみるのもいいだろう。

QD Laser公式サイト



スマホを使ったMRデバイス


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 NPO法人ウェアラブルコンピュータ研究開発機構ブースに展示されていた,ハーフミラーにスマホの画面を映して外界の映像と合成してしまえというアプローチのMRデバイスを紹介しよう。
 写真を見てもらうとどんな原理なのかは一目瞭然だろう。ハーフミラーと一体化されたレンズが最大の特徴である。

 スマホの画面を拡大して反射し,現実の風景と重ね合わせるという,大変シンプルな仕組みなのだが,それなりの絵が得られることと,レンズ以外のお金のかかりそうな部分は全部スマホ任せなので低コストでできるというのがウリだ。

 これ以前に,スマートフォンを使って,MR体験ができる段ボール製のゴーグル「だんグラ」というものもあり,こちらは6050円で販売されている(Amazon価格)。ハーフミラーとレンズが別なので,ミラー-レンズ-ハーフミラーとちょっと構造が複雑になっている。比べると新型レンズの効能がよく分かる。


 現在使用できるのはiPhone(6以降)のみのようだが,いちばん小さい機種に合わせて作られているそうで,より大きな画面の機種ではより視野角の広い映像が表示されるとのこと。

 物理的にちょっと大がかりではあるものの,おそらくMRの体験としては最高品質のものが得られる可能性が高い。なにせ,少なくともピーク性能に限って言えば,HololensやMagicLeapに搭載されているプロセッサより最新iPhoneのプロセッサのほうが性能はかなり高そうなのと,画面の綺麗さや視野角など多くの部分で優位だからだ。現在Unity用のSDKが用意されており,まもなくUnreal Engine用のものもリリースされるという。先日行われたハッカソンでは,Hololensとほぼ同じ動きを再現するような作品もあったという(一応,Unityにジェスチャー系のプラグインなどを入れまくればできなくもないけど,それを開発するくらいなら素直にHololensを買ってきたほうがいいだろうとのことではあった)。

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 原理的には単純なので,おそらく製品化に当たって問題になるのは,どうやって頭に固定するのかという問題だろう。一応,キットではベルトで頭部に取り付けることを想定しているのだが,スマホの重さを考えるとあまり安定しそうには思えない。

 展示されていたヘルメットへのマウント例が非常に魅力的に見えた。これは米陸軍の訓練用ヘルメットを使ったものらしいのだが,前方に付いたマウントに合わせて3Dプリンタでコネクタを作ったのだという。確かにサバゲー用のヘルメットを探してみると,似たようなものは多く見つかる(暗視ゴーグル用のマウントなのか)。このように取り付けができれば比較的安価にMR用ヘッドセットを調達できるわけだ。
 レンズキットの価格は3000円とのこと。自分たちでソフトを作らなければならないものの,Hololensまでは必要ないけど似たようなことをしたい場合にお安くできるという提案である。
 と,原稿を書いていて気付いたが,当日デモを見たのはだんグラだけだった。ハーフミラーとレンズを一体化したら向こう側の風景も拡大される……まああまり問題はないのかな? 

ホログラム公式サイト



ハーフミラーのゲーム用MRデバイス:Tilt Five


 さて,スマートフォンを使用したことでお手軽に試せるハーフミラー式のMRヘッドセットを紹介したところだが,なんにしてもちょっと大きすぎると思う人もいるだろう。ほぼ同じような仕組みでコンパクトにまとめて製品化図っているのが,ちょっと前にKickstarterでキャンペーンを行っていた「Tilt Five」だ。私も出資しているプロジェクトである。


 そのTilt Fiveがカラーリンク・ジャパンのブースで実物を展示していたので体験してきた。

 これはボードゲームでの利用を想定して作られたものであり,専用ボードが必須なのだろうと思っていたのだが,会場では反射型スクリーンと位置取得用赤外線デバイスを使って単体で動作させていた。
 製品版ではメガネ側から赤外線を出して,ボードの位置を取得する形式になるそうだが,現在は外部からの赤外線をメガネ側が検出する形式になっているという。

 メガネ自体の装着感は良好だ。形状的にはちょっと上が飛び出ているのだが,装着している側にとってはまったく気になるものではない。とくに重くもないのだが,製品版はさらに軽くなるとのことだった。
 視野角はかなり広い。これを予想以上だった。ほとんど視野の端のあたりまで広がっている。ハーフミラーを使うためか,画調はちょっと淡めだ。

 ムービーではメガネに線はつながっていないのだが,基本的にUSBでPCと接続されるデバイスである(スマホでの利用は可能)。ボードゲーム用に設計したのはよい落としどころかもしれない。複数人でこのメガネをかけてMRボードゲームが可能になっている。なんかやたら楽しそうだ。もちろん,ボードゲームしかできないというわけではなく,会場ではブロックを生成していくサンドボックス的なデモとラジコン風レーズゲームのデモが行われていた。SDKはUnityとUnreal Engineのものが用意されている。

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 メガネのほか,チャッカマンみたいな形状のスティックを利用して操作を行う。ボタンやアナログスティックの付いたコントローラにバーチャル空間とのインタラクト用の突起が出ている感じだ。
 汎用のデバイスでないのは残念だが,SDKは公開されているので,汎用で利用できなくはないのかもしれない。
 カラーリンク・ジャパンは,Tilt Fiveに使われている光学系の部品を提供しているとのことで,Kickstarterでも日本での発送はカラーリンク・ジャパンが行うことになっている。ゆくゆくは国内販売なども視野に入れているようだ。Wi-Fi機能もあるので一応確認してみたが,技適も大丈夫なはずとのことであった。

Tilt Five公式サイト



ウェーブガイドデバイス


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 網膜照射,ハーフミラー式と,2方式のデバイスを紹介してみたわけだが,今回の会場でもっともインパクトの強かった表示デバイスは,Dispelixの製品だった。このフォンランド企業は,眼鏡のレンズに相当する部分に映像を投射するデバイスのデモを行っていた。デモ機はメガネ形状というわけではないが,レンズのすぐ横に光学エンジン(これは他社製とのこと)が入っており,比較的簡単にメガネにできるはずの技術である。

 現在市販されているものは視野角30度のDPX30°だが,試作されているものも試させてもらった。こちらは4:3画面で視野角40度,16:9画面で視野角50度にもなるデバイスだった。かなり広く,しかも画像が超鮮明なのだ。まだ視野の端まで届くような大きさではないものの,非常に可能性を感じさせるデバイスである。

普通のカメラで覗き込んだところ。あまり綺麗に撮れてはいないが,この手のデバイスで覗き込んで撮影できること自体が貴重
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 使われている技術は,Diffractive waveguides。Google翻訳さんによると「回折導波路」,Bing翻訳さんによると「回折波導導導体」(どうすればこんな単語が出るんだろう)。
 Hololnsで使われているものと同等な技術である。Hololensよりも綺麗じゃないか? と,ちょっと驚いた。Hololens 2の視野角が52度とのことなので,新型はほぼそれに近い体験ができるデバイスを構成できる。
 Hololensとの違いを聞くと,明快な答えが返ってきた。Hololensは3板式で3枚の素子を重ねているのに対し,これは1枚でフルカラーに対応しているのだという。製造プロセスはほぼ一般的な半導体と同じとのことで,単純に枚数分のコストが下がるほか,画質も向上しているとのことだ。
 現在は30度対応の製品が商品化されてはいるものの,まだ具体的な価格は付いていないという。半導体と同じで量産されるようになればコストも下がる。当面は業務用デバイス向けになるだろうが,将来的にはコンシューマ向けも目指したいとのことだった。

より目に近い位置からのスマートフォンによる撮影例。非常に映像が鮮やかだ
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Dispelix公式サイト



指の動きを取れるMollisen Hand


 台湾企業Feel the Sameが出展していたMollisen Handは,
 関節部分に伸び縮みを検出するセンサー,指先に圧力センサーがあり,振動でのフィードバック機構も内蔵されている。片手ごとに10か所のセンサーが付いており,指の動きを取っている。ということは,第一関節は単独では取っていないパターンか。


 ワイヤレスであることが影響していると思われるが,映像を見ると,操作から5フレームの遅れが確認できる。そのままゲームで使うのにはちょっと厳しいが,指のモーションを取るような用途には意外とちゃんと使えそうに思われた。ワイヤードにして遅延をなくせば,VR/MR用の「手」としてかなり有望かもしれない。すでに市販されており,599ドルからとなっていた。センサーキットのみの販売も行われている。
 VRやゲーム用に使えそうな技術ではあるが,現状では指の動きを取るだけで手の位置自体はトラッキングされていない。機能的に考えると,手の位置あたりまではトラッキングされているVtuberに装着することで表現力を上げるようなことが主体となるのだろうか。

Millisen Hand製品情報ページ



e-Rubberを使った触覚デバイス


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 これはウェアラブルEXPOの出展ではないのだが,隣で行われていたロボテックスの豊田合成ブースでは「e-Rubber」による触感デモが行われていた。e-Rubberについての詳細は,こちらの記事をご覧いただきたい。

 会場では,SIGGRAPHで西川氏が体験した水風船のデモとMagicLeapを使ったMRデモが行われていたので,今回はMRデモを紹介しよう。

 親指と人差し指にそれぞれe-Rubberのベルトを巻き付け,頭にはLeapMotionを装着する。いくつかのデモが詰め込まれており,まず,空間に浮かんだピアノの鍵盤に触ると,当然音が出て押した触覚がe-Rubberで再現される。
 次に,空間にいくつか並んだスライダーのつまみをつかむと,それぞれ違う触感が体験できるというデモでは残念ながらうまくつかめなかった。これはLeap Motion側の問題ではあろうが。最後に箱の中に入った球体を取り出して握ると,それが心臓のように脈動する。
 全体に振動といえば振動なのだが,それなりに説得力のある触感として再現されている。言葉で説明するのは非常に難しい。

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 e-Rubberでは6〜7%の収縮を実現可能だそうで,カチっとした触感ではなく,柔らかいものの触感再現を得意としているという。
 いろいろ夢が膨らむデバイスなのだが,駆動電圧が1000V程度なので,昇圧できたとしても携帯用などには向かないかもしれない。

 今回使用したものはe-Rubberを10層重ねたものである。同社が目指しているのは,さらなる薄型化,つまり薄くして積層度を上げるといった方向だ。これにより駆動電圧が低くなり,伸縮率も大きくなるという。表現力が増して,扱いやすくなるわけで今後の発展にも大いに期待できそうだ。

豊田合成e-Rubber情報ページ