【月間総括】市場は緩やかに縮小か? 苦戦するスマートフォンゲーム

 今月は,スマートフォンゲームについて触れたい。半年前には,スマートフォンゲームを主力とするメーカーの業績が悪化しているという話をした。
 この4-6月期,エース経済研究所がフォローまたは継続的に接触している企業群では再び悪化した企業が多かったように思う(下表参照)。

(出所)決算資料よりエース経済研究所
【月間総括】市場は緩やかに縮小か? 苦戦するスマートフォンゲーム

 まず,大幅に悪化したのはミクシィである。モンスターストライクは登場から5年めに入っており,ピークアウト感が強まっている。会社側はプロデューサーの交代,6周年イベントに向けた施策の強化などを行っている。一時的な回復の可能性は否定しないが,長期的に維持できるかは分からない。
 そう考える理由は,ガンホー・オンライン・エンターテイメントが昨年の大感謝祭で月間アクティブプレイヤーを回復させたものの,その後は再び下降トレンドとなっており,4-6月期は前四半期比で33%の大幅減収となっていることがあるためである。

 コロプラは,営業利益がわずか100万円で,前四半期比,前年同期比ともに99%の大幅減益である。周年イベントに依存する傾向が高まっており,イベントがない四半期は利益率が大幅に悪化している。来期以降,「ドラゴンクエストウオーク」などのIPタイトルの改善を狙っている。
 馬場社長は,新しい遊びを実現するとしているが,エース経済研究所では,コンシューマゲームと違いスマートフォンはI/O(インプット・アウトプット)インタフェースを簡単に変えることはできないため,かなり困難なチャレンジだと見ている。
 また,新規IP「最果てのバベル」でランキング操作を狙った不正が発覚した。決算説明会での説明から,実際のランキングに対する影響はほとんどなかったと考えられるが,イメージが悪化したのは確かだろう。

 ボルテージは,赤字が継続している。スマートフォンゲームの中でも,市場規模の小さい女性向けに特化した構造になっており,同社の利益率が高いことが認知され,参入企業が増えた結果,経費の節減に努めているものの,競合が激化して黒字化には至っていない。

 サイバーエージェントは,前年同期比では昨年リリースしたタイトルが好調で増収増益だが,前四半期比は減収で,やはり市場全体の下降トレンドが影響をしている。
 現状では大きな問題は見当たらないが,高い成長は期待しにくくなっている。

 最後に,DeNAである。「メギド72」は着実にプレイヤー数が増えて健闘しているものの,既存のタイトル,とくに携帯電話時代から続くブラウザタイプのゲームの落ち込みをカバーしきれていない。なお,「メギド72」については,3月の「俺らイケメン」のBGMがプレイヤーの間で話題になり,好調が続いているようだ。アップストアのランキングでもイベントごとにランキングが上昇している。


 面白いのは,イベント・アイテムとは直接的な関係がないBGM「俺らイケメン」に対して,プレイヤーが課金するという行動である。前回,この話に触れた時点では,どういう背景でこのような現象が起こったか判然としていなかったが,現時点では,いわゆる「おひねり:元々は歌舞伎の用語で良かった演技に対する祝儀」であったと考えている。
 正直なところ,ゲームで,このようなイベント外の課金が可能とは考えていなかったが,プレイヤーがBGMや非デジタル演出で課金する可能性があると示したことは「メギド72」の功績と言えるだろう。

 また,同社は任天堂やポケモンとの協業タイトルを進めている。DeNAの業績悪化傾向に歯止めがかかるかは両社との協業タイトル次第である。
 しかし,任天堂とDeNAは同床異夢の関係にあるように見える。任天堂のスマートデバイスタイトルは,IPの認知つまり広告とすることが第1目的である。一方,DeNAは業績の拡大としているので,戦略目的が一致していない。これがここまでの障壁になったと見ている。「マリオカートツアー」では,これが改善できるだろうか? 両者の目的が一致しないと難しいと思える。
 一方,「ポケモンマスターズ」は期待できそうだ。「ポケモンGO」の世界的なヒットを見れば分かるように,すでにポケモンのIP認知は大きく進んでおり,ポケモンは収益を追求できる立場にある。これはDeNAの戦略と同一であり,成果を上げやすいだろう。事前登録が500万契約を突破しており,プレイヤー数が世界的に伸びれば大きなヒットになる可能性があるだろう。

 さて,まとめである。国内事業者から見たスマートフォンゲーム市場は,全体的に緩やかに縮小しており,業績も徐々に悪化している。しかし,スマートフォンゲームタイトル個別で見た場合には,各社とも大部分を占める広告費の節減で極端な収益性の低下は見られていない。
 この結果,各社ともに危機感が非常に薄い印象だ。企業が変わるのは業績の悪化時であり,現状のやり方を変える必要があると考えている企業は少ない。
 エース経済研究所では,このような経費節減による利益率維持策は長期的には継続が難しいと見ている。各社ともいずれさらなる対応を迫られることになるだろう。