ドイツのケルンでゲーム技術カンファレンスdevcom開催。第3回devcomの開会式とそのハードな日程をレポート

ドイツのケルンでゲーム技術カンファレンスdevcom開催。第3回devcomの開会式とそのハードな日程をレポート
 2019年8月18日から19日(現地時間)にかけて,ドイツはケルンのケルンメッセにてPCゲームの技術カンファレンスであるdevcomが開催されている。
 このカンファレンスは今年で3回めとなる比較的新しいものだが,Gamescomと日程が隣接しており(2019年のGamescomは8月20日から始まる),会場もGamescomと同じケルンメッセだ。加えて運営組織としてもGamescomとの連携が強固なものとなっている。

 カンファレンス本体の開催期間こそ2日間と短めだが,1日あたり9トラック・6〜8セッションとその内容は濃い。またインディーズゲームの展示コーナーも充実しており,とてもではないが1人でその全貌を把握することは不可能と断じれるくらいには大型のイベントとなっている。
 個別のセッションについては今後注目セッションをレポートしていくが,まずは開会式の模様と,会場およびカンファレンスの雰囲気を中心にお届けしたい。


「技術カンファレンスに参加する」ことを問う開会式


Head of devcomのStephan Reichart氏
 開幕をdevcomボランティアによる合唱で飾った開会式では,Head of devcomのStephan Reichart氏による挨拶が行われた。

 この挨拶の中でStephan氏は「昨年も『世界中で想像できないような事件が起こりました』と挨拶しましたが,今年も同じ言葉を言わねばなりません」と語って会場を沸かせつつ,我々がまさに「かつてないような社会的・政治的・経済的試練に面している」ことを強調した。そしてそういう時代であるからこそ,世界を少しでもよくしていこうという個々人の働きが重要になると語る。
 もちろん,それだけではよくあるお説教めいた言葉にすぎない。だがStephan氏は「ゲームは何百万人もの人に遊んでもらい,考えるきっかけとしてもらえる」と指摘する。このゲームが持つ力を活用することで世界をよりよい場所へと変えていくという理想は,そこまで途方もない夢とは言えないだろう。

ボランティアスタッフは全世界から200人に上るとのこと
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 またStephan氏は挨拶の最後を「会場で新しい人に会い,互いに考えていることを話し合い,新たな友人となって,devcomとgamescomの1週間を楽しみましょう」と呼びかけたが,個人的に筆者はこれもまた非常に重要な指針であると感じた。
 というのも技術カンファレンス参加者はしばしばセッションで新しい知見を得たり,あるいは「ネットワーキング」と語られる活動を通じてビジネス上のつながりを増やしたりすることに対しては積極的だが,「新しい友人を得て議論する」ことにはそこまで積極性が感じられないことがあるからだ。

 これはこれで,カンファレンスに出席するビジネスマンとしては正しい方向性(とくに海外に出る場合は旅費も宿泊費も高額になる=投資する金額が大きくなる)であり,聴講レポートを書いたり名刺交換に勤しんだりしていれば,そんな「無駄な時間」を使う余裕はどこにもないのもまた事実だ。
 しかし「同じカンファレンスの参加者」という草の根レベルでの知見・情報交換に一切参加しないというのは,筆者の目からすると一種のフリーライダーにすら思えてしまうことがある。
 というのも登壇者に直接取材すれば,講演で語られる彼らの知見は,開発現場で得られた経験だけを踏まえたものだけではなく,このような技術カンファレンスにおける草の根の交流から得られたものもまた少なからず影響していることがわかるからだ。カンファレンスは会場の会議室だけで行われてるのではなく,会場全体,さらには会場がある街全体で行われているのだ。

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 ここにおいて,草の根レベルの知見交換に参加せず,ただその成果物だけを「講演」という商品を通じて「購入」するという姿勢は,完全に否定されるものではないにしても,諸手を挙げて称賛されるものでもないように思える。
 カンファレンスに登壇して発表することだけが,「カンファレンスにおいて知見を発信する」ことではない――そして自分からは何ら発信することなく,「最新の知見」を得て黙って帰る参加者が,ほかの参加者からどういう目で見られるようになるかは言うまでもない。Stephan氏が示す「会場で新しい人に会い,互いに考えていることを話し合い,新たな友人となろう」という指針は,「技術カンファレンスに参加する」ということに対する,シンプルかつ核心的な指針なのだ。

インディーズゲームのブースも用意されている。このような場でゲームを遊びながらの知見交換も「カンファレンス」の一部
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充実するもハードなスケジュール


 さて,Stephan氏はその挨拶のなかで「世界をよりよくする」メディアとしてのゲームという論点を語っている。そしてその挨拶が示すように,devcomの講演には一定の傾向が見て取れる。

物語系のセッションでは「My Child Lebensborn」のSarepta Studioからの発表もある。詳細はのちほど
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 まず最初に気がつくのは,「物語をいかにして語るか」についての講演が非常に多いということだ。ざっくり見たところ,1日を通じてどこかのトラックでなんらかの物語系講演がある――いわばGDCにおけるNarrative Summitがトラックを分散して開催されている状態だ(正直なところ1トラックに収めてほしかった気持ちはある)。
 同様に,ゲームデザイン系の講演も多めだ。これは物語論と一緒に語られるセッションもあれば,ゲームデザインの良し悪しをどう評価するかといったところに注目するものも複数見られる。
 組織運営に関する講演もかなり多い。「いかにしてチームをよい状態に保つか」というノウハウを語る講演は複数存在し,また「リモートオフィスを前提とした制作スタイル」といったかなり具体的な講演(1時間枠)もある。
 意外なのはモバイル系の講演が充実していることだ。ヨーロッパはアメリカ・日本・中国のモバイル御三家に比べると明らかに市場規模が小さいが,にも関わらずモバイルのマーケティングやゲームデザインに関するセッションはかなり充実している。
 また,GDCで言えばAdvocationに該当する,社会とゲームの関わりについて語られるセッションも目立つ。最も興味深い例としては「物語をいかに語るか」のセッションを兼ねた「戦場ジャーナリストが自分の知見をゲーム開発の現場で活かす」セッションだろう。これ以外にもゲームの暴力表現やゲーム文化の社会的地位向上に関する講演が見られる。

 一方でこれらに押され,純粋な技術系の講演はやや少なめかもしれない。
 プログラミング・AI関係の技術講演はほとんどない。Dolby Atomosで一部屋とっていることもあり,サウンド関係のほうが多いかもしれないくらいだ(カンファレンス運営側が,サウンド技術講演向けに音響設備が充実した部屋を1つ用意した結果,サウンド関係の講演がほかよりも充実しましたという例は,それなりに見る)。

一部,Twitchでのストリーム配信もある
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 また会場設備とプログラム構成にも特徴がある。
 会場の中心となるのはケルンメッセのHall 11.2だ。これはケルンメッセにあるほかのホール同様に巨大なホールだが,ここに特に衝立もなく,5つの講演ステージが分散して用意されている。大きなホールに複数の講演ステージを作るということ自体は日本でも珍しくないが,衝立の類が一切ないというのはケルンメッセの広大なホールを活用すればこそということだろう。
 とはいえここで5人の登壇者がそれぞれマイクを使って講演すると反響で大変なことが起こるのは間違いない。そこでdevcomでは「聴講者にそれぞれ無線レシーバー(同時通訳で使うタイプのもの)を渡す。レシーバーのチャンネルをステージ番号に合わせると,登壇者の話がしっかり聞ける」という力技での解決をしている。参加者がある程度まで限られていればこそ可能な方法だろう。
 なおHall 11.2の5ステージ以外にも独立した閉鎖型のホールが2つ,部屋が2つ用意されており,聴講者数が多くなりそうなセッションは閉鎖型のホールが割り振られている(こちらでは一般的なカンファレンスと同様,マイク+スピーカーでの拡声となる)。

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Hall 11.2に設置された5つのステージ
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 しかるに個人的にdevcom最大の特徴かもしれないと感じたのは,プログラムの過酷さだ。
 devcomはセッションルームがコンパクトにまとめられている(1部屋を除き,移動距離はほとんどない)こともあってか,セッションとセッションの間の「休み時間」が存在しない。例えば13時から14時までの枠があったとすれば,次のセッションが始まるのは14時だ。
 もちろん登壇者もそのあたりの事情は理解しているので,講演の多くは45分程度で終わり,15分の「休み時間」(兼・部屋移動時間)ができる。だがそこから質疑応答が盛り上がったり,あるいはそもそも講演者が「全力の早口で喋ったけど無理でした」的なスライドを用意していた場合――聴講者にとっては大変なことになる。

セッションはおおむね満員御礼になる。椅子が足りないときはボランティアスタッフがセッションの途中で椅子を追加することも。ある意味でフレキシブル
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 もっとも完全に休憩時間が存在しないわけではなく,ランチタイムとティータイムに30分の休憩が設定されている。大事なことなので繰り返すが,休憩時間は30分である。またティータイムは閉鎖型ホール2つが休むだけで,ほかは休まない。
 救いとも言えるのは,コーヒーと水が無料配布されているほか,ランチのサンドイッチは1人1袋まで無料(林檎つき),またそれ以外にランチタイムには無料のホットドッグ配布(倫理観が許す限り実質好きなだけ食べてよいシステム)があることだろう。味には問題がないので,「無料だけど食べる気にはなれない」といった悲劇も起きない。

飲み物と食べ物の補給ができるポイントは複数設置されていた
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 とはいえ「全力で行く」とほとんど休みなく7〜10セッション(10時から18時まで)を聴講することになる。1日10セッションは人間の集中力の限界を超えていると思われるので,参加者は適宜「このコマは自主休講!」という決断を下すのが無難だろう。
 また開会式の挨拶にあったように「会場で新しい人に会い,互いに考えていることを話し合い,新たな友人となろう」を実践するならセッション終了後のパーティに参加するのがベストだが,このパーティは2日ともだいたい夜の8時?9時に始まって深夜1時ごろまで続く。過酷である。

開発者に必要なものは「体力」


 総じて言えば,「日程は素晴らしくハードだが,充実した技術カンファレンス」ということになるだろう。ケルンは観光地であるため物価が高めではあるが,devcomに参加する2日間はケルンメッセに貼り付きになって,水とコーヒーとホットドッグと林檎で過ごすことになるだろうから,そのあたりも安上がりだ。
 またdevcomが終わったらそのままgamescomに突入するため,gamescomのビジネスデイに参加できるのであればdevcomから連続して参加するというのは,かなり魅力的かつ効率的なプランといえる。ただしこれは日本でいうと「CEDECを2日ぶん聴講した翌日から東京ゲームショウが始まる」というスケジュールなので,「本当にそれをこなす体力はあるのか」という点だけは真剣に考慮すべきだろう。こなせるなら,間違いなく素晴らしい1週間が待っている。

gamescomまでぶち抜きで参加できるのは間違いなく魅力
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