AIゲームの誕生から20年「アストロパーティー2019」レポート

 2019年1月15日,モリカトロンは同社代表の森川幸人氏が制作した「アストロノーカ」20周年を記念したイベント「アストロパーティー2019」を都内で開催した。会場には,多くのアストロノーカファンが詰め掛け,有料イベントであるにも関わらず超満員で120名ほどが同作の20周年を祝った。3部構成で行われたイベントの模様をお伝えしたい。


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 アストロノーカは,1998年にエニックスから発売されたPlayStation用の農業シミュレーションゲーム(?)だ。プレイヤーは,宇宙の農家となり,畑で野菜を育てていく。種の植え付けや収穫といった作業はもちろんだが,品種改良をして野菜コンテストに入賞することがゲームの目標となっている。一方で,畑を荒らす害獣「バブー」を撃退するために,畑の周りにトラップを設置していくあたりがメインコンテンツとなっていた。この部分は,指定された電力量の枠内でさまざまな種類のトラップをどう配置してバブーのアルゴリズムに対応していくかが問われるパズルゲームだ。
 バブーは撃退されていくうちに,だんだん賢くなり,トラップが利きにくくなる。そのゲームAI改善の手法として遺伝的アルゴリズムが使われていることが大きな特徴となっている。

 イベントの冒頭に行われた第1部では,本作のゲームデザイナーである森川幸人氏,本作のプロデューサーだった齊藤陽介氏,アシスタントプロデューサーだった成沢理恵氏が登壇して,開発当時の模様を思い起こしつつゲームを紹介しつつ,このイベントが開催されるに至った過程などを語っていた。

 「ドラゴンクエストX」などでお馴染みの齊藤氏は,これまで多くのゲームを手がけてきているが,プロデューサーとして最初に手がけたコンシューマゲームが本作であり,思い入れは深いようだ。
 成沢氏は,当時エニックスで他ゲームのアシスタントプロデューサーをしていたという。同社のデバッグチームが非常に楽しそうにアストロノーカをプレイしていたのが印象的で,打ち合わせについていったのがきっかけとなり,本作に関わるようになったとのこと。アストロノーカのオンライン版ともいうべき「コスモぐらし」ではプロデューサーを担当していた。

 ちなみに,イベントではあちこちで「デバッグチームが……」といったエピソードが語られることが多かった。デバッグじゃなくて詰めトラップバトルしてたとか,みんな楽しそうにやっていたとか,とはいえ無茶苦茶優秀で,なにか恨みでもあるのかという量のバグ情報を毎日送ってきていたとか,当時のデバッグチームはみんな出世してるとかなどなど,デバッグチームも本作の開発ではかなり大きな役割を果たしていたようだった。
 スライドで示されていた当時のインタビュー記事の中にも,数個のトラップでバブーを撃退し,思い通りに進化させていけるほど,デバッグチームはこのゲームを極めていたという話が掲載されていた。



アストロノーカの開発はいかに始まったのか


 アストロノーカはいろんな点でかなりユニークなゲームなのだが,そもそものところで,なぜこのゲームが開発されたのか,本作の開発のきっかけが紹介された。なお,本作の発売は1998年だが,開発はその2年前から始まっているとのこと。

 最初は,齊藤氏が最寄り駅の電話帳で調べて「一緒にゲームを作ってください」と連絡を取ったことに始まるという。それに対して,森川氏が応えた結果がアストロノーカとなる。

ザ・プレイステーション誌に掲載された当時のインタビューの一部。スライドが表示されて一拍置いてから会場がざわついた。「これ誰?」
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 森川氏は当時ニュースなどでも話題になっていた「夢の島問題」にゲーム的な要素を見出していたという。

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 夢の島というのは新木場周辺の地域の名称で,元々埋立地であり,かつては都内のゴミが集まるゴミ捨て場として知られていた。そして当時はそこから大量のハエが発生して周辺に広がることが一つの社会問題として取り上げられていたのだ。品川保健所は殺虫剤を散布して防止を図るが,生き残ったハエは相変わらず翌年も増え続ける。しかも昨年の殺虫剤に耐性を持ったハエが発生しており,結果として,毎年より強力な殺虫剤が投入されていくことになった。そしてハエの害よりも殺虫剤の害が問題視されるようになり,新たな夢の島問題を形成するに至っていく。
 森川氏はこういった「進化」の要素を取り入れたゲームを作りたいと思っていたようだ。

 齊藤氏のオファーに対して,森川氏が最初に提出したという企画書(提案書)が紹介された。表紙には「ASTRO-NOUKA(仮) アストロ農家」というタイトルが見える。なお,初期の名前は「ハーベスト」だったそうなので,これより以前にも文書化されていないレベルでの話はあった模様だ。日付を見る限り,1996年3月19日のことである。

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 初期設定によると,恒星KITAKANTOUの第1惑星MAEBASHIを巡る第2衛星団OKADA-SONの内部にある周辺農業衛星23号HANARE-YAMAが舞台となっている。1997年6月4日の世界観設定資料によると,恒星の名前がソンブレロとなっており,惑星は第1から第8(マエダ・バシリエビッチ星:通称マエバーシ)に変更され,舞台となる衛星も「ろ-23」となっている。

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 プロデューサーの齊藤氏はこれから図などを切り張りして,社内向けのプレゼン資料を制作している。齊藤氏が作ったその社内用資料も紹介されていた。
 手描きの資料では,このゲームの目玉(ウリ)を2つ挙げていた。曰く「タネの交配(新種の作成)」と「宿敵バブーの進化(トラップバトルにおける駆け引き)」である。このように,ゲームのウリとなる部分を社内会議でアピールして予算を確保するのだそうだ。そして見事齊藤氏は予算を勝ち取ったようだ。

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 とにかく,敵がだんだん賢くなってトラップを突破していくゲームの企画書が無事に通ってしまったわけだが,当時の森川氏はAIについて詳しかったわけではない。元々氏は,ウゴウゴルーガなどのCGを作っていたグラフィックス畑の人であって,ゲームAIについては素人であった。というか,AIのゲームでの活用は世界的に見てもまだほとんど行われていなかったので,どこにも詳しい人などいなかった。

 企画が通ってしまったので,森川氏はあわてて本屋に行って,片っ端からAIの本を買って半年かけて読んだという話が,以前のイベントで行われていた。その甲斐あって20年経ってもゲームAIの第一人者だ。

 前代未聞のAIを使い,おまけに農業がテーマのゲームという企画を思い起こし,「齊藤さん,よく通しましたね」と森川氏。齊藤氏は,森川さんは箱庭を作るのが得意な人であり,そこにゲームというモチベーションを保つものを取り入れればきっと面白いものに仕上がるだろうと確信していたという。
  
 そして開発が始まる。プログラム部分はシステムサコムが担当することが決まり,関係者用の開発用BBSが作られたそうだ。1996年6月12日のことである。
 そのログの一部が公開されたのだが,設置された翌日には,齊藤氏による「つらいです……」といったコメントが見える。当時並行してやっていたほかのゲームの作業のことだそうで,昼間は仕事をして夜中にデバッグをしてと,合間に1時間ずつしか眠れないようなことが語られていた。当時のエニックスのプロデューサーは朝までデバッグをしていたらしい。

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 会場では実機によるプレイの模様が紹介され,登壇者からゲームに関するさまざまな話題が散発的に飛び出した。

 双眼鏡でバブーの情報を調べるところは,森川氏が最初に絵に描いた部分だそうだ。だいたいこんな感じのゲームを作りたいという出発点になったシーンだという。

 やってきたバブーがトラップでやる気をなくして撃退されていく過程が示されたが,表に出ているパラメータだけでなく,バブーによってトラップの好き嫌いもあって,嫌いなトラップがあるモチベーションが下がるのだそうだ。
 齊藤氏は,本当に最後の最後まで調整を続けていたと感慨深く語っていた。1個だけ最後までバグが取りきれず残っており,それがいまだに頭の片隅にあるのだそうだ。アストロキングあたりで,通常のプレイをしていれば問題ないそうなのだが,とにかくやっぱりデバッグをしていたらしい。自分が作っているゲームをプレイするのは当然の話だが,取り組み方が尋常ではないようだ。

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●当日,会場で提供されたアストロノーカスペシャルメニュー
いずれも森川氏の監修で作られている
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アストロノーカのAI


 第2部のゲームAIの話題では,ゲストとして,スクウェア・エニックスのリードAIリサーチャーである三宅陽一郎氏が加わり,遺伝的アルゴリズムを中心とした実装についての話題でトークが行われた。

 アストロノーカは,無茶苦茶売れたというわけではなかったようだが,ゲーム自体の評価は高かった。しかし,どの評価を見ても,AIの部分については触れてもらえず,森川氏には密やかな不満があったようだ。
 既存のゲームでは,パターンが限られているのに対し,プレイヤーに応じていくらでも進化して対応していく仕組みを構築できたことについては,森川氏自身もかなり凄いものを作ったという自負があったようだ。しかし,ゲーム業界ではまったくそのあたりが評価されなかったという。
 そんななか,ただ一人「AIいいですね」と言ってきていたのが三宅氏だったとのこと。

 三宅氏は,いまだに遺伝的アルゴリズムを使ったゲームとしては頂点にあると,アストロノーカを絶賛していた。このゲームが出た1998年当時は第2次AIブームで,AIを使ったゲームもいくつかは出ていたのだそうだが,パッとしたものはない。
 本作では,ゲームデザインとAIが完全にマッチしていることを三宅氏は高く評価していた。
 こういったゲームを家庭用ゲーム機という限られた資源の中で動かすには,ゲームのこととAIのことを両方知っていなければ作れないのだそうだ。「シーマン」など,ある程度評価されているAIゲームは,この両方を理解している作者が作ったものだという。ゲーム要素とAI要素を小さなメモリ内に収めることは難しいのだそうだ。最近では組織が分業化されすぎ,ゲームデザイナーとAIエンジニアの距離が遠くなっているので,AIゲームが作られにくくなっていると三宅氏は指摘していた。

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 一方で,人工知能学会ではアストロノーカは高く評価されており,学会誌に論文が掲載されていたりもする。MITでゲームAIの研究が始まるのが2000年頃からだったということで,それ以前からゲームAIの論文が掲載されていたというのはかなり画期的,さらに言えば,森川氏のアストロノーカこそがゲームAIの起源だったということになるらしい。
 最近でもAI関連の話で取り上げられることがあることからか,アストロノーカは毎年5000本くらいずついまだに売れているのだそうだ。ちなみに,PlayStation StoreでPSP版,Vita版,PS3版として販売されている。

 AIの実装自体についてのあまり詳しい話はなかったのだが,ゲームの珍しい資料が公開されていた。下の図で示されたバブーの行動フローは,製品版でもほとんど変わっていないという。

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 アストロノーカで使われている遺伝的アルゴリズムとは,一定の評価軸に沿って,機能を改善(進化)をさせていく手法の一つだ。その実装に遺伝子モデルが使われている。
 どういう風に実装するかなどは置いておいて,原理的な部分はそう難しくない。染色体の交差あたりまでは高校で習っているはずなので,たいていの人はさほど苦労なく理解できるだろう。
 バブーの動作に必要ないくつかの要素を1次元の染色体上にマッピングしておき,一定の評価基準で優秀な固体2つの遺伝子を組み合わせていく。そのときに偶発的な交差や突然変異などを取り入れて,元の固体に近いところでバリエーションを増やし,環境への適応度をテストしていく手法となる。多くの試行錯誤を行いつつ,状況に適応したものだけを残すので,世代が進むほど最適化が進む可能性が高くなる。

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このあたりのスライドはCEDECで行われた講演の資料なので,興味のある人はCEDiLからスライドそのものをダウンロードしてみるといいだろう。イベントでは表示されなかった遺伝的アルゴリズムの説明やアストロノーカでの実装について知ることができる
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 役に立つ人がいるかどうかは不明だが,初期バブーのパラメータが公開された。バブー1〜9までの9種類の初期パラメータが表でまとめられている。1〜9までそれぞれ「最も弱い」「やや弱」「標準」「強い」「賢い」「とても賢い」「体制強い」「最強」「粗暴」といった特徴づけがされている(少なくとも初期試料では)。
 これらの初期パラメータも,トラップバトルでの学習と突然変異などの結果,ゲーム中はかなり変わったものになっていく。

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 続いて表示された遺伝子座の表では,先ほど挙げられていたパラメータがそれぞれ何bit割り当てられているのかなどが示されている。前述のように遺伝子はビットパターンで定義されている。
 表内の数値が興味深いところだが,たとえば体重などをセットするにも,5kgをbitパターン(2進数)で&b00000101などのようにするのではなく,bitごとに割り当てられた係数の合計値として表現する方式なのが分かる。1bitめは0.1なのでここが1だと0.1kgを加え,2bitめも1ならさらに0.5kg,3bitめも1だと-0.5kg……と総和を取るわけだ。これは,遺伝子が組みかえられたときに,極端な挙動を起こさないようにするためだろう。

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 割り当てられたbit長を合計すると遺伝子の大きさが分かる。計算すると,624bitになるのだが,CEDECの講演資料に512bitだと書いてあったので,ここからさらに変化があったのだろう。

 「突然変異確率の変動関数」と書かれたスライドは,ゲームの状況による突然変異の発生頻度を変える仕組みのようだ。

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 偏差率というのがいまひとつよく分からないが,ΔAは親同士の各遺伝子値の差の絶対値を,その値が取りうる幅で割って正規化したものでさらに総和を取ったものとなっている。値の変化の度合が示されるのは間違いない。要するに親が似通っていると偏差率は小さくなる。
 その偏差率に対してグラフのような突然変異率が設定されており,親同士が似ていると子供も必然的に似てしまうので,突然変異率を上げるように設定されてるようだ。

 進化率? と書かれたスライドは,森川氏もなんのグラフだったかよく分からなかったらしいのだが,基本パラメータと力の関係が示されているように思われる。アストロノーカでは「腕力」と「叩く力」や「アゴの力」と「かじる力」などは別モノで,それぞれで別の遺伝子が定義されている。

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 体重のみが増えたときのグラフを見ると,押す力が体重に単純比例し,叩く力や蹴る力,かじる力は弱い比例関係にあり,ジャンプ力は体重が上がると下がっている様子が分かる。
 身長だけの変化だと,蹴る力はやや強くなっていくのに対し,叩く力が減っているのが面白い。体重が同じで身長だけ伸びているので,腕力はひ弱になっていくのだろうか。
 なんとなく,実行時にそのままパラメータに掛け算される補正値のような気がするのだが,進化率ではないかとされているあたり,特定のパラメータがほかのパラメータの進化率に影響を与えているということかもしれない。突然変異率ではなく進化率とされているあたり,正や負の方向に意図的に進化させる仕組みもあるのだろうか。

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その他の謎な資料
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●AIゲームのデバッグ
 ゲーム開始時点でのバブーの基本パラメータは初期値で統一されているが,状況に応じて環境に対応できるように進化していく。つまり,ユーザーごとにバブーのパラメータが違うため,このゲームをデバッグしていくというのは非常に難しい作業になる。

 アストロノーカのBBSに残るログでは,当時のデバッグ体制の模様も窺えるのだが,文字ベースでフィールドの図を描いてバブーの挙動を記述するというものとなっていた。昔懐かしい感じの図だ。
 遺伝的アルゴリズムでは,このような事情があるためいまだにデバッグ手法は確立されていないとのことで,アストロノーカのデバッグ記録は,それなりに貴重な記録ではあるようだ。

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 バブーは行動の結果から採点が行われ,優秀だった遺伝子を選んで次世代に引き継いでいく。その判定の際の項目も公開されているが,そこで挙げられていたもの以外に,体力が多く残っているほど高い評価になるといったものもあり,デバッグ陣はトラップを設置せずにバブーを素通しさせて,あまり優秀でない個体も最優秀であるかのように判定させることで,強くなりすぎたバブーの進化を一時的に戻すような攻略法が開発されていた。
 齊藤氏は,ある意味「食べさせていい野菜は食べさせると攻略が楽になる。バブーとの共存がテーマのゲーム」だったのだと説明していた。

 こういったゲームを作りにあたって,当時のマシンではとにかくメモリとの戦いが熾烈であったという。最終的に512bitとなって遺伝子も,これ以上多くするとパンクしてしまうのだそうだ。

 慣れてくると,ビット列を見ただけでもだいたいどのような状況か分かってくるというが……。ちなみに,スライドのビット数は,数えると104bitだった(13バイト)。先ほどの途中バージョンと思われる遺伝子座の表からは,遺伝子の身体的特徴の部分が11バイトなので,(おそらくアゴの力を16nit追加した)その部分なのだろう。そのほかの機能ブロックだと,これに近い数字になるブロックはない。
 しかし,bit位置で係数もバラバラなので読むのはかなり大変なはずだが……。

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開発スタッフによる秘話と多彩な資料公開


 際3部は,当時の開発者が集まって資料を見ながらトークを行うという体裁で進められ,舞台には総勢9人が並んだ。齊藤氏と成沢氏,森川氏のほかに,当時マネージメントと進行をやっていた坂本和也氏,シナリオとテキスト全般を担当した野間口修二氏,アーティストの白佐木和馬氏,トラップ担当兼TA的な役割だったという宮本茂則氏,音楽を担当した神保直明氏だ。

左から齊藤陽介氏,成沢理恵氏,坂本和也氏,野間口修二氏,神保直明氏,白佐木和馬氏,宮本茂則氏,森川幸人氏,三宅陽一郎氏

 まず説明されたのは,当日会場で流されていた曲についてだった。このイベントのためになにか実演はできないかと齊藤氏から打診されていた神保氏は,ビッグバンド(十数名程度のオケ)での演奏用に当時の曲をアレンジし始めたとのことだが,「予算はない」と言われたので,やむなくアレンジ中の曲を打ち込みに変えて当日披露したのだとか。

 そんなこんなで,以下当時の貴重な資料を写真を中心に紹介してみたい。

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 最初は,現在4万7000円の値段がついているという当時のサントラCDの写真だ。アストロノーカのパッケージイラストの世界観をクレイモデルで立体化したものが写されている。
 当時,週刊子供ニュースでこういったクレイモデルをよく作っていたとのことだが,時間が経つと表面がひび割れてくるので,霧吹きで水をかけたりいろいろ大変だったという。

 続いて,今回発掘されたというパッケージのイメージイラスト原画(原本)が紹介された。これは白佐木氏の手によるものである。
 
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 パッケージイラストでは,原案がいくつか紹介された。かなり多くの案を出して選んでいたようだ。農家のイメージを重視したものが多い印象である。なお,農家の壁にあるブリキの看板はイラストでも2つに描かれているが,ゲーム内でも多用されたモチーフとのことだった。
 また,特殊パッケージを使うことも想定されていたようで,ブリキ製パッケージ,紙製パッケージのイメージや宇宙農家登録カード,農協バッチ,種袋といったオマケグッズのイメージも公開された。ちなみに,特殊パッケージは予算的に無理だったようだ。

パッケージイラスト案
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特殊パッケージの案も
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 続いて紹介されたのは,森川氏が最初に提出したという企画書の原本だが,その内容については,すでに紹介済みなので,ここではアストロノーカの世界観設定の部分のページを挙げておこう。
 基本的な設定は,テキストを担当した野間口氏が作成していていたそうだ。ここで紹介しているスライドでは, 時代設定は「23世紀」とされていたのだが,オンライン版の続編的ポジションとなる「コスモぐらし」では26世紀となっている。これは野間口氏が,いろんな仕事をしているうちにズレが生じた結果だとのことだ。「宇宙だし1世紀くらいいいか」というのが積み重なった結果であるとのこと。

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Mac上で動くトラップのシミュレータ。当時はこれでトラップを作っていた。森川氏は,トラップバトルの部分を再現するこのプログラムをスマホなどに移植できればと語っていた
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●宇宙野菜の変遷
 最終版の宇宙野菜の数々だが,それがどのような過程で作られたのかが資料で示された。最初期のものとして提示されたのは,3Dで作られたゲームのイメージだった。可愛い系の要素はなく,このテイストでやっていたらずいぶん違ったゲームになっていただろうと思われる。しかし,いったい誰がこの3Dモデルを作ったのかは,会場でも結局分からなかった。

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 初期の宇宙野菜のイメージは,かなり普通の野菜寄りに思える。

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 そこから,かなり宇宙的? なデザインに変わっていく。その段階のイメージイラストでは,数多くのラフ案が確認できる。宇宙野菜のデザインは天川ひとみ氏が中心になっていたようだが,スライドのアイデアイラストには白佐木氏のものも交ざっていたようで,最初はいろんなアイデアを出し合って,独特な宇宙野菜の方向性が絞られていった模様だ。

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 デザインの変遷を見ると,途中で少しグロい方向に迷走していたことが指摘されていたが,全体的には適度に奇怪な宇宙野菜路線で作られていたことも分かる。

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 下のスライドが最終的な宇宙野菜たちだが,PlayStationではポリゴン数が限られていたので,その制限化でデザインするのがなかなかキツかったとのことである。

最終的に完成した宇宙野菜たち
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 オープニングムービーの絵コンテも紹介された。白佐木氏の作成したもののようで,「第1稿ですね」と指摘していた。ほかの登壇者たちはあまり多く関わっていなかった部分なのか,反応は薄めな感じか。ただ,齊藤氏は「凄く大変だった記憶が……」と,ちょっと渋い顔でつぶやいてたのが印象的だった。

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 絵コンテに続いて,ビジュアル系の資料が公開された。まずは主人公キャラのデザインだ。
 ムービー用とゲーム用のキャラクター発注は別別々だったそうで,「真面目に描いてますよね」と白佐木氏がコメントしていたので,こちらはムービー用か? 設定がやたら細かい。白佐木氏は「手描きですよ。ぞっとしますね」と時代を感じさせるコメントをしていた。

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 ゲーム内には出てこない主人公の顔が設定されていたことに驚いた人も多いようだ。謎な笑顔のおっさん姿であった。これは当時の社内でもかなり問題視されていたらしい。

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 続いて作業ロボットであるピート君の設定だ。こちらも無駄に細かいのだが,この設定に意味はあったのかという質問に,ゲーム内で一応頭が開くシーンはあること,ローディング画面でピート君が歩くシーンがあることなど,一部は使われているとのことであった。歩くシーンは白佐木氏が直接描いているので,設定を作る意味はなかったというオチも披露されていたが。

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 さらに宇宙ステーションや巨大宇宙船など,オープニングムービー関連の設定が紹介された。またもや白佐木氏は,Illustratorも使わずに宇宙ステーションを作図するようなことはもう無理だと語っていた。宇宙ステーションの設定も無駄に細かい。巨大宇宙船のデザインでは,かなり時間がかかっていたようで,すみませんと齊藤氏に謝っていた。

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 小惑星への降下用ロケットなどでは,古典的なSF映画をイメージした演出が多いとのこと。カプセルが膨らんで家になるなどといった,いろいろなSF映画のオマージュがいろいろ詰め込まれているという。ただ,なんのオマージュだったのか,いま見ると元ネタが分からなくなってしまったものもあるようだったが。

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 そのほか,ライバルキャラや宇宙船,宇宙農協のマークデザイン案,バブーたち,さまざまなトラップなど,さまざまな設定が公開されていた。

●ライバルキャラなど
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●バブー
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●トラップ
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 次に雑誌掲載などの紹介が行われたのだが,ゲーム誌に記事が載るのは当たり前なので,ここでは新聞の記事だけ取り上げておこう。

 当時はスポーツ紙にゲームのコーナーがあり,そこで取り上げられたわけだ。あまり知られていなかったようで,独特なデザインやいかにもな見出しに壇上でも大うけしていた。

 また,毎日中学生新聞の記事では,悟東あすか紙の開発現場の漫画レポートになっていた。壇上にいるスタッフも漫画に登場している。

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 そして,成沢氏が担当していたコスモぐらしの資料が紹介された。「野菜を交配させると家具ができる」など,生産要素も充実したオンラインゲームではあったが,時代を先取りしすぎていたよね,という声が登壇者から多く聞かれた。
 コスモぐらしで1000点ほどあるアイテムのそれぞれにフレーバーテキストを付けていったという野間口氏は,本当に大変だったと漏らしていた。生涯で一番仕事をしていた時期だそうだ。
 ちなみに,コスモぐらしは,合併前のエニックスとしての最後のゲームタイトルだったそうだ。

 その時期,バブーがテレビ朝日の「ワガまんまキッチン」のマスコットキャラとなったことから,番組内でアニメ「バブーファクトリー」を放映したりと,バブーは多くのグッズ展開なども見せていた。バブーのカードゲーム(?)などもあったそうだ。

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 最後に紹介されたいくつかの森川氏による手描きメモでは,ゲーム制作中のさまざまな要素に対する走り書きのようなもので,メンデルの法則や遺伝での優性劣性判定で使うと思われる優性値の式などが並んでいる。

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 最後の1枚として表示された図は,おそらくグッズとして発売されたというカードゲーム関連のメモだ。カードに書かれたコードで占いができるとかだったので,それを使ったバブー占いのことや「カードのつながり(相性)」などといった文からして,この関係だろう。しかし,それ以上の展開も示唆されているように見える?
 会場では「あの犬はなんだ?」と話題になっていた。個人的にはゲームCDとシードCDというのが若干気になる。CD-ROM1枚丸々野菜を詰め込むのか,CDを種として扱うのか? 

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 アストロノーカの今後について,齊藤氏は,個人的には(続編なり新作なりを)やりたいという見解を示していた。わざわざ公言するくらいなので,それなりに可能性なりプランなりはあるのだろうか? 今後の展開に期待しよう。