DLC:「長い間そばにいてくれるだけでも本当に価値があります」

DLC:WandersongのGreg Lobanov氏は無名なころからIGFの候補になるまでの道について語ってくれた。Frank Gibeau氏はZyngaのLoot Box確率開示での立ち位置について教えてくれた。Will Wright氏は子供たちがプライバシーに対する新しい概念を持っていると語る。

GamesIndustry.bizの取材ではいつも,記事の本筋の内容からは外れるのだが,興味深いネタというのがある。しかし,それらはレポートする価値がある。これを公開しない仕事としてゴミ箱に捨てるよりは,我々はさまざまなトピックに洞察を加えるコラムとして作り直して提供したいと考えた。これらのコラムの正確なフォーマットはまだ固まっていないが,我々はこれに「DLC」のラベルを付けて発表することにした。


自分の曲に合わせて踊る


 2019年は,Greg Lobanov氏にとってよいスタートを切った。Wandersongのデザイナーである氏は,自分の音楽アドベンチャーゲームがIndependent Games Festivalの優秀ナラティブ賞にノミネートされていることを知った(関連英文記事)。そしてオーディオ,ビシュラルアート,さらに大賞の部門で選外佳作となっていた。これはその後の,Game Developers Choice Awardsでオーディオ部門の選外佳作へと続いている(関連英文記事)。

 それらすべてに加えて,SteamでのWandersongのユーザーレビューは全世界的にほぼ肯定的であり,このことからValveに怪しいタイトルのフラグをつけられ(参考URL),トレーディングカードやグローバルなアチーブメントといったストアの基本機能のいくつかがロックされてしまったのではないかとデベロッパは考えた(Valveはのちにバグだったことを認め,フラグを解除している:参考URL)。

 Lobanov氏にとってこれはいつものことではない。氏はたくさんのゲームを過去に作っている。しかし注目を集めたり,Wandersongのような賞賛を得ることはなかった。我々が,氏のゲームの発表直後である昨年10月にインタビューを行ったとき(関連英文記事),Wandersongが個人的にどれほど大きな出発点になるのかを語ってくれた。氏はWandersongの制作に3年をかけている。しかし,それ以前には年単位で小さなプロジェクトのリリースを続けていた。

Wandersongの主人公のように,Lobanov氏は粘り強さから恩恵を受けている
DLC:「長い間そばにいてくれるだけでも本当に価値があります」

 「私は本当にこの一つのプロジェクトに投資してきたというところでしょうか」 とLobanov氏は語る。「いつも大作アドベンチャーやストーリーRPGをやってみたいという興味はありました。しかし,私が本当に無名なころは,一つのプロジェクトに多大な時間を費やすようなことは続けられる状態ではなかったのです。より小さなゲームを作るという決定は,ある種の意識的な方向転換です。なぜなら,私はお金や多くの経験がほしかったですし,名前を売ろうと思っていました。Wandersongを作ることになったとき,私はゲームを始動するのに十分なコミュニティのファンベースを持っていました。そして我々は合理的にうまくやりました。私は時間を費やすことができ,より大きな,私が本当に作りたかったプロジェクトを作れるくらい十分蓄積できていたのだと感じています」

 「いつも幸運だったように感じます。ゲームごとに状況は違いますが,それらはすべてそれぞれの方法とそれぞれの理由でお金を生み出してくれました。しかし,1つか2つの方法でそれは持続可能なものとなりました。私は家賃を払うことができ,資金不足になることなくWandersongに取り組むことができたのです。大きな数字について話しているわけではありません。私はゲーム業界の下水溝にいるネズミのようなものです。数百人の人がゲームにお金を払ってくれれば,1年分の家賃などを支払えるのですから。少し誇張はありますが,私の言いたいことは分かるでしょう。私にはサポートする大部隊もおらず,家族もなにもいません。私はただできる範囲でゲームを作っているだけです」

 ゲームを出すごとに,Lobanov氏は次のゲームに応用できるなにか新しいモノを学んでいた。新しいタイトルは以前のものより洗練されていた。コンバージョン率が非常に高いのかどうかは知らないが,人々は繰り返し,氏の作品を購入した。ときどき誰かがゲームを見つけ,「ああ,あなたは10年前に私が高校生だったころ好きだったゲームを作った人だ! まだゲームを作り続けていて,私がこの新作をこんなに好きになるなんて信じられない!」

 小さなゲームで一度にファンを増やしていくのは消耗戦になりかねない。しかし少なくともそれは信頼性の高いものとなる。

 「長い間そばにいてくれるだけでも本当に価値があります」とLobanov氏は語る。「それは分かりきったことかもしれませんが,そばにいるだけで,私は友達を作れ,ゲーム開発者と友達になりました。十分長い期間周りにいるだけで,私のことや過去のゲームのことを聞いたことがある人もいるかもしれません。それから得られる経験はあなたをよりよいデザイナーにもします。同時に『ブランド認知』みたいなものもされますが(笑)」


みんなの曲に合わせて踊る


Empires & Puzzlesでは, Boldtuskのような4つ星ヒーローを入手する確率を教えてくれるが, Boldtusk自体の入手確率は分からない
DLC:「長い間そばにいてくれるだけでも本当に価値があります」
 先月ZyngaはEmpires & PuzzlesのデベロッパであるSmall Giantを買収した(関連英文記事)。その際にZyngaのCEOであるFrank Gibeau氏とインタビューする機会を得た。

 インタビューの前準備として,我々はGoogle PlayストアでEmpires & Puzzlesのユーザーレビューをいくつか眺めていた。すると平均でもほとんど★5つのレーティングになっているのが分かった。ネガティブなレビューはありふれた不平を述べているものだけだ。マネタイズがきついとかLoot Box式のシステムでハズレ率が高すぎるとかいったものだ(Empires & Puzzlesはヒーローレベルごとの確率を開示しているが,特定のヒーローごとの確率は開示していない)。

 それに照らして我々はGibeau氏にLoot Boxについて聞く機会を得た。とくにZyngaがユーザーにもっと詳細な確率を開示することがあるかどうかについてだ。氏は「Zyngaのゲームの大半では,Loot Boxは収益の多くを占めているわけではありません」と語ったが,加えて次のような情報を提供してくれた。

 「我々はAppleやGoogleのパートナーと協力してできる限り多くの情報をユーザーに提供しています」とGibeau氏は語る。「Loot Boxの確率開示については,我々はまさに業界標準なところにいます。私の視点では,プレイヤーへの情報を増やすのはよいことだと思います」

 Gibeau氏は会社の意思決定を業界標準に併せているが,Loot Boxが昨今大きな懸念を集めている理由の一つに,業界全体を通した標準が欠如していることが挙げられる。Appleのようなプラットフォームホルダー(関連英文記事)とESAのような業界団体(関連英文記事)はある程度開示を主張し始めている。しかしLoot Boxにまつわる業界の慣行を精査している規制当局を沈静化させるに足るものではない(関連英文記事)。


最近の子供たちが聞いている曲は……


DLC:「長い間そばにいてくれるだけでも本当に価値があります」
 別の分野の規制当局は最近ますますプライバシー問題に関心を寄せている。Facebookやほかのソーシャルネットワークでのプライバシー侵害に多くの懸念が寄せられている一方で,パブリッシャはゲーム業界がサービス提供のためにプレイヤーデータを収集し利用していることについて,もっと注意を払う必要がある。

 たとえば,伝説的なゲーム開発者であるWill Wright氏(Sim City,The Sims)は現在Proxiに取り組んでいるが,それは「あなたの思い出とゲームでのインタラクションをベースとした人工知能シミュレーション」と形容できるようなものとなっている。前月,我々が氏の担当するMasterClass(※各界著名人によるオンラインビデオ教育サービス)でのゲームデザインコースについてインタビューしたとき(関連英文記事),現在制作中のProxiのようなゲームでのプライバシー問題について聞く機会を得た。

 「それは地上に住む人すべてのとっての懸念です」とWright氏は語り「私は,そこに大きな世代格差があると思っています。我々の世代にとってプライバシーは何らかの意味を持っていました。現在育ちつつある子供たちにとっては,これは奇妙で変な言葉なのです。彼らはそれを本当には理解していません。彼らはFacebookやソーシャルメディアで自分のやったことすべてを共有しています」

 Proxiに関して言えば,Wright氏によると,このゲームでは,どの部分がプライベートで誰にも共有されない部分なのかが,どの部分を選んで公開できるのかが実に明快になっているという。このような明快さは,ユーザーによるゲーム内での一定の信頼が要求されることから必要になってくる。

 「私が人々に本当にしてほしいことはシステムに開放されています」とWright氏は説明する。「これは基本的に,彼ら自身を振り返る鏡のようなものになることを願ったものです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら