ゲームはもっと多くの責任を引き受ける必要があります

小学生の子供がGrand Theft Autoをプレイするような時代に子供向けのゲームを制作するということ,そして,ゲーム業界が受け入れるべき社会的責任についてOutright GamesのNick Button-Brown会長が語る。

 BAFTAゲーム部門の議長とOutright Gamesの会長を務めるNick Button-Brown氏は,ゲームを芸術的媒体として評価することと,収益性の高いビジネスとして評価するのは別のことだと断じる。両者について今年のE3で我々GamesIndustry.bizにじっくりと語ってくれたButton-Brown氏は,まず「Adventure Time:Pirates of the Enchiridion」と「Crayola Scoot」のようなタイトルで子供向けゲーム市場を活性化させる試みから話し始めた。

 「10年くらい前に子供向けゲームの絶頂期がありました。THQは子供向けのライセンス・ゲームを中心に非常に成功していて,同じことを目論むほかのパブリッシャと競合していました。予算はうなぎのぼり,ライセンス料もどんどん上がった結果,誰も儲からないところまで行ってしまいました(彼らはほかにやろうとしていることが1000個くらいあり,気が散っていました)。しかし,根本的に,子供向けライセンス・ゲームには商機があるにも関わらず,それ以来とくに誰も手がけていないのです」

 ファミリー向け家庭用ゲーム機のライセンス・ゲームに特化して,その空白,すなわちButton-Brown氏によるところの不当に評価が低いマーケットの隙間を埋めるため,同社は1年半前に設立された。

「Crayola Scoot」のようなゲームを出すのはごく少数の会社だけだ
ゲームはもっと多くの責任を引き受ける必要があります

 「この分野を手がけている人たちはいるものの,うまくいっていません。ライセンスを取ってきてプレイヤーを獲得し,そこから利益を得ているだけです。だからこそ私たちが子供向けライセンス・ゲームを届ける余地があると思ったのです」

 事業戦略はシンプルなものだ。良いライセンスを見つけて,子供向けゲームに関心がある優秀なデベロッパと組ませる。ゲーム業界が成熟している現状を思えば,デベロッパにとって魅力ある口説き文句になるとButton-Brown氏は感じている。

「私自身がゲーム業界で仕事を始めた頃,ゲームはすでに成熟したものばかりでした。その後,手掛けていることを自分の子供たちに見せられたらいいなと思うステージに至りました」

 「私たちは歳を重ねました」と彼は述懐する。「私自身がゲーム業界で仕事を始めた頃,ゲームはすでに成熟したものばかりでした。その後,手掛けていることを自分の子供たちに見せられたらいいなと思うステージに至りました。おそらく開発者の皆さんは同じことを考えているでしょう。私たちが一緒にやっている開発者で息子をとても大切にしている人がいますが,その息子が大好きだからという理由である特定のIPに非常に熱心に取り組んでいます。それでいいのです。そのIPに対して熱意があって素晴らしい仕事をしようと思ってくれるわけですから」

 しかし,デベロッパが作りたいゲームと,子供たちがプレイしたいものは逆転している。

 「10年前,子供向けライセンス・ゲームは18歳までを対象として販売されていました。今は違います。残念ながら11歳の子供(編注:アメリカでは11歳までが小学生という州が多い)がGrand Theft Autoをプレイしたがる時代です。子供というのはあっという間に成長しますが,まだマーケットはあります。1000万は無理でも,制作する意義がある程度には売れると思っています」

 結果として,Button-Brown氏はOutrightのターゲットを4〜11歳の年齢層と捉えている。Adventure Timeというゲームはその年齢層以外のプレイヤーも引き付けるだろうし,実際,子供向けとはいっても,もう少し年齢が上のプレイヤーたちにも受けると彼は信じる。しかし,ファミリー向けのライセンス・ゲームの市場は昔とは違う。Outrightのゲームをするプレイヤーたちも実質的にはGrand Theft Autoに向かっている。

子供向けゲームが拒否された理由の一つは,小学生の子供たちが,よりGrand Theft Autoのようなゲームに興味を持つようになったためだとButton-Brown氏は語る
ゲームはもっと多くの責任を引き受ける必要があります

 子供たちが過度に暴力的,品のないゲームをすることは,長い間,ゲーム業界を取り巻く懸念事項だった。これが,まずレーティングシステムが導入された理由の一つだ。そして,Button-Brown氏は,親がこのようなゲームから子供たちを守る責任を負うべきだと述べたが,業界自体がもっと多くの取り組みを実行できる分野の一つでもある。

「ゲームはもっと多くの責任を引き受ける必要があると思います。私たちが役に立てる機会があり,しかも繊細に緻密にやることができるのです」

 「ゲームはもっと多くの責任を引き受ける必要があると思います」とButton-Brown氏は断言した。「私たちが役に立てる機会があり,しかも繊細に緻密にやることができるのです。20年前,10年前にゲーム業界を正しい方向に向かわせたことから学ぶことができればいいなと思っています。私たちはよりいっそう社会的な責任を踏まえながらやっていくことができるでしょうか?」

 そのような領域の一つがコンテンツのキュレーションにある。Steamにあるゲームで違法だったり権利侵害だったりしない限り,何でもOKとしたValveの声明についてButton-Brown氏は異議を唱える(関連英文記事)。「責任逃れだと思います。私たちには責任があります。これは親だけに課されるものではありません。安易な逃げ口上です。成熟した市場に対応した経験を提供し,成熟した市場に見合った経験を欲しがる人たちに確実に提供することは,私たちの責任だと思っています」

 氏はまたゲーム業界が多くの注目を集めたLoot Boxの論争もある。多くの国が,この課金方法への懸念から法的解決策を模索している。OutrightはLoot Boxに頼っていないが,Button-Brown氏によれば,Loot Boxを責任を持って運営できるシチュエーションはあると語る。しかし,業界の一部が採用したよりアグレッシブな手段については,その法令違反を弁護するのは難しいとも付け加えた。

 「私たちが対応する前に物事が間違った方向に進んでしまうのをみすみす見過ごす必要は当然ありません。規制ではなく,社会的責任なのです。悪いことをやっているときは自分たちで分かるものです」

 このとき,E3のOutright Gamesのブースにいた別の参加者が,明確な法律違反をしていない限り公平なゲームだと捉える人々もいると,不意に言葉を挟んできた。Button-Brown氏はこの態度をよしとしなかった。

 「私たちは,ああいう人たちよりももう少し大人だと思いたいですね。それか,もしかすると,大人がもう少し堂々と意見を述べる必要があるのかもしれません」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら