[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは
 2018年5月7日から9日にかけて,ゲームエンジン「Unity」の開発者向けイベント「Unite Tokyo 2018」が東京都内で開催された。
 本稿では,教育の現場で実際にUnityを活用している講演者4名が,それぞれの事例を紹介したセッション「Unityを教える -教育現場でのUnity活用-」の模様をレポートしよう。


「IT×ものづくり教室 LITALICOワンダー」でのUnity活用事例


LITALICO LITALICOワンダー事業部 事業企画グループ エンジニア 加藤智紀氏
 障害福祉サービス事業を手がけるLITALICOでは,テクノロジーを活かしたものづくりを通して,子どもの個性に合わせた創造力を育む教室「IT×ものづくり教室 LITALICOワンダー」のサービスを展開している。この教室では,未就学児から高校生まで幅広い年代の子ども達を対象に,プログラミングやロボットの製作などの教育を行っている。
 本セッションの冒頭では,LITALICOのLITALICOワンダー事業部 事業企画グループ エンジニア 加藤智紀氏が,LITALICOワンダーの「ゲーム&アプリプログラミングコース」のカリキュラムや,その中で子ども達が作った作品,スタッフの育成体制などを紹介した。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 ゲーム&アプリプログラミングコースのカリキュラムでは,Scratchを入り口としてenchant.jsやProcessing,そしてUnityといったプログラミングツールを採用している。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 その中でもっとも気を遣っているのが,子ども達にプログラミングに対する苦手意識を植え付けないことだという。そのため,それぞれのレベルに合わせたツールの選択を行っており,「このツールは何歳以上向け」といったような年齢制限はとくに付けていないそうだ。
 また,「Unityを使っているからすごい」という価値観を子ども達が抱かないようにもしているとのこと。「画面表示は違えど,Scratchもenchant.jsも根本的な考え方は同じ」ということをきちんと理解させ,自信を持たせたうえでツールの乗り換えにチャレンジさせているという。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 カリキュラムにUnityを導入したときの子ども達は,使いたいキャラクターがいないため意欲が湧かなかったり,たくさんのアセットを組み込むだけでゲームとしては中途半端なものを作ったりとさまざまな反応を見せたとのこと。
 そこで「Unityを使えば面白いゲームができるわけではない」と気づいた加藤氏は,「どんなゲーム?」「なにができる?」「アレンジしよう」といった項目別のテキストや,機能別のTipsを作成し,子ども達をUnityに慣れさせていった。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

子ども達の作例。子ども達がそれぞれの得意分野を活かし,チーム内でプログラミングやモデリングなど役割を分担して作品作りをするケースもある
[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 子ども達にプログラミングを教えるスタッフの育成に関しては,今回は主に技術面の紹介がなされた。それによると,各スタッフは4日間の技術研修の中で実際にツールを使ってプログラミングにチャレンジするという。実際に自分で手を動かすため,子ども達の気持ちや失敗しやすい部分を理解できるそうだ。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは
[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 また,教室では,子ども達一人一人が今,何が足りないかをキャッチアップし,答えそのものを教えるのではなく,どうやって技術を伝えるか考えることを中心にサイクルを作っていく。
 ほかにも,お互いにノウハウを交換し合う月1回の勉強会なども行っているという。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは
[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは


小学生のゲーム開発に関する職業理解にUnityを活用


専門学校デジタルアーツ仙台 ゲームクリエイター科長 志村 淳氏
 専門学校デジタルアーツ仙台 ゲームクリエイター科長 志村 淳氏は,ゲーム開発という職業を小学生に向けて紹介する際にUnityを活用したという事例を披露。もともと志村氏は職業柄,専門学校生や高校生に向けてゲーム開発とはどのような職業なのかを紹介する教材などを手がけているのだが,今回の事例はさらに下の世代に向けた取り組みである。

 この取り組みにあたり,志村氏は「作ったゲームを人に遊んでもらう」をテーマに,小学生が実際に手を動かしてゲームを作るワークショップをやろうと考えた。
 具体的には,まず受講者に志村氏が用意したサンプルのゲームをプレイヤーとして遊ばせる。次に,そのゲーム内の数値を変更するなどある程度自由に改造させ,さらにほかの受講者が改造したゲームを遊ばせる,というもの。そこで興味を持った受講者が,自宅でさらに踏み込んでゲーム開発を学べることが望ましいため,このワークショップにUnityを採用したというわけである。

 ワークショップ用のサンプルゲームは,「分かりやすい」「失敗しにくい」「あとから応用できる」の3点を重視して用意した。ベースとなるのは,Unityのチュートリアル「はじめてのUnity」に収録されている「Roll a Ball」である。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 「分かりやすい」に関しては,例えば「ボールが赤系のオブジェクトに触れるとダメージを受ける」「主要なオブジェクトはプレハブ化し,属性込みで簡単にコピーなどができるようにしておく」「各オブジェクトの属性は,遊べば分かる」といった感じだ。
 なお,主要オブジェクトをプレハブ化することには,仮に受講者がすべてのオブジェクトを消去してしまってもすぐ元に戻せるようにしておく,という意味もある。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 また,基本的に各オブジェクトの設定は変更できないようになっているが,いじっても安全な部分だけはインスペクターの項目を日本語化しておく。これはあえて受講者には説明せず,気づいた人だけが踏み込んでいろいろ試せるようにという配慮である。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 「失敗しにくい」については,必要のない難解な部分は教えない,マウス操作で完結する,オブジェクトの親子関係は作らない,選択させたくないものは非アクティブにしておく,といったことを念頭に置いているという。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 「あとから応用できる」については,上記のとおり「Roll a Ball」をベースとしていることが大きい。すなわち,Unityのチュートリアルを介することで受講者が復習しやすく,また教える側も理解しやすくなるからだ。
 さらにアセットも,アセットストアの存在を知らなくとも中身が分かるということを前提に,基礎的なものしか使っていない。

 実際にワークショップを実施した結果は,以下の写真のとおり。このうち「操作の飲み込みが早い」に操作に関しては,現在の小学生は“3Dネイティブ”と呼べるほど3D座標への馴染みがあるという。
 また「小学生はとにかく盛る」については,やたらと画面上にオブジェクトを置きたがることを指す。一とおりオブジェクトを置いてみたあとに,もう一度やり直すというパターンが多いそうだ。その一方で,高学年になると座標の概念を学んでいることもあり,きちんと数値を入力してオブジェクトをまっすぐ並べるといったパターンも見せ始めるとのこと。
 あとは「ウケればいい」という,ある意味YouTuber的な発想であえて破綻したゲームにしてしまうパターンもあったそうだ。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 以上を踏まえ,志村氏は「Unityは本当は難しいので,小学生に理解させるには,どうやって簡単なものに落とし込むか,よく考える必要がある」としつつ,「それでもやらせてみれば,勝手にやる人が出てくる。そして,勝手にやる人のほうが伸びる傾向にある」とまとめていた。


高校・専門学校のUnity教育の実情


日本工学院専門学校 教員 荒川巧也氏
 日本工学院専門学校 教員 荒川巧也氏は,ゲームクリエイター科の講師である自身の経験から,高校および専門学校におけるUnity教育の現状を紹介した。

 まず高校生のUnity認知度については,日本工学院専門学校の体験入学者10名のうち2〜3名は知っているという状態だという。主にスマートフォンゲームなどで,ロゴを見たことがあるというケースが多いそうだ。荒川氏によると,数年前よりは格段に認知度が上がっているといえる反面,この傾向が日本工学院専門学校体験入学者よりも一般的な高校生に当てはまるかというと,何ともいえないとのことだった。

 その一方では,情報系の高校出身者だとUnityを使った制作を経験している人もいるという。
 また校内のUnity専門書やWeb上の情報をもとに,独学でゲームを作っている人も多いとのこと。最近だと,Unityインターハイや日本ゲーム大賞 U18部門へのエントリーおよび受賞を目指す人も多いそうだ。

 日本工学院専門学校では,ゲーム制作といえばUnityという状態になっており,50チームあれば48〜49チームが採用しているとのこと。その理由は,校外の他者に見せることが前提となる専門学校のゲーム制作において,短期間でクオリティの高いゲームが作れることにある。

 そうした状況下において荒川氏自身は,Unityの各機能やコンポーネントの役割を実践的に使えるように教えることを意識している。また授業で使う資料は荒川氏が作成し,時間があれば改造などを試みているそうだ。
 また,荒川氏が考えるUnityの強みは「Web上にたくさんの情報がある」ということ。実際,荒川氏自身が高校生や専門学校生に「なぜUnityを選んだのか」とヒアリングしたところ,そうした回答がもっとも多かったという。

荒川氏が担当する日本工学院専門学校 ゲームクリエイター科のシラバスの例も紹介された。Unityチュートリアルの「Survival Shooter」が採用されている
[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 荒川氏の考える,ゲームクリエイターの各職種におけるUnity教育の必要性も紹介された。
 まずプランナーに関しては“絶対必須”。これは企画を書面だけでなく実際に形にできることは,ゲームの面白さを検証する上で重要だからだ。また学生であれば,就職の際にUnityを使えることはアピールポイントとなる。

 デザイナーへのUnity教育は“必須”。これは現在のゲーム制作において,ゲームエンジンを使うことが一般的となっているため。DCC(Digital Content Creation)ツールからUnityにモデルデータなどを追加する流れを知っておくことは,デザイナーにとって大きな強みとなる。

 プログラマへのUnity教育も,もちろん“必須”。ただしプログラマの場合は,ゲームエンジンが裏で処理している数学や力学,アルゴリズムなどを追加で理解しておく必要がある。

 最後に,Unityを教える側の心構えも紹介された。それによると,学生が初めてUnityに触る導入時がもっとも大変とのこと。というのも,ある程度知識があれば絶対起きないトラブルが発生しがちだからだ。
 また,そうしたトラブルの原因が,多数のエディタ上のパラメータ設定にあるのか,スクリプトにあるのかといった判別も困難になりがちだという。

 加えてUnityに,続々と追加される新機能を積極的に学ぶ姿勢も必要だ。荒川氏は,「Unityが強力になるということは,それだけ学生の作るゲームのクオリティが上がるということにつながるので歓迎すべきこと」と語った。
 そうしたUnityの最新情報を常に追っていくのは大変なことだが,荒川氏は「Unityを教える立場の人が,一番Unityを好きでいてほしい」とまとめていた。


大学におけるUnity活用


ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン プロダクト・エバンジェリスト 簗瀬洋平氏
 ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン プロダクト・エバンジェリスト 簗瀬洋平氏は,大学においてUnityがどのように活用されているかを紹介した。

 それによると,数年前の大学におけるUnityは,インタラクティブコンテンツを扱うゼミの学生・大学院生の研究や論文に使われるのみだった。
 しかし現在では高校生の段階でUnityでゲームを制作し,それが高じて大学入学後もサークルに所属してハッカソンや制作展に参加するなど趣味的な部分から,学問的な研究,果ては国が関わるプロジェクトにUnityが必要とされることもあるなど,大学のさまざまな分野でUnityが活用されている。

高校生の作ったUnityインターハイの優勝作品も紹介された。簗瀬氏いわく,ゲームデザインやUIなどすべての点で優れており,「グラフィックスをプロが作ったものに差し替えれば市販できるレベル」とのこと
[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 大学入学時点でUnityが使いこなせる学生には,さまざまなアルバイトの口があり,「研究室インターン」もその一つ。例えば大学教授ともなると,頭の中にインタラクティブデモのアイデアが浮かんだとしても,ほかにやるべきことがあってなかなか自分では実装できない。そこでUnityを使える学生を有料で雇い,インタラクティブデモを作って研究を進めるのである。実際, 簗瀬氏のもとにも「Unityを使える学生を紹介してほしい」という依頼が寄せられるそうだ。

 また学生にとって,研究室インターンには金銭面以外にも,大学1〜2年生という若い年齢で研究室とのつながりを持てるというメリットがある。さらに作ったデモが論文に採用されたら,国際的な場に名前が出る可能性もある。

 その一方で,現在ではインタラクティブコンテンツが専門ではない分野──例えばデザインや建築,医療,心理学などにもUnityが活用されている。会場では,いくつかの事例が紹介された。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは
[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは [Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは

 それでは,学生がどのタイミングでUnityを使い始めるがいいかというと,簗瀬氏いわく「早ければ早いほどいい」。すでにWeb上にはUnityに関する情報が溢れているので,あとは周囲にUnityを使っている人がいるという状況と,「Unityを使えれば得がある」という状況さえあれば,学生達は自発的に学んでいくという。

[Unite 2018]小中学生向けのプログラミング教室から大学まで,教育の現場におけるUnityの存在とは
 したがって,教授の側としては,自身ではなく,Unityを得意な人が学生に教える場を作ればいい。例えば研究室の先輩が後輩に知識を伝授するサイクルを作る,Unityサークルの学生をセミナー講師として雇う,といった次第である。もちろん,教授自身もときどき学生に混じってUnityを学ぶ姿勢があれば,なおいい。

 そうしたUnityのコミュニティ作りと運営に貢献している学生を表彰する,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが「Unity学生アンバサダー制度」をスタートさせることも紹介された。詳細は,続報を待ってほしい。

 最後に簗瀬氏が今回のセッション全体について,「今は,子どもの頃から勉強にも遊びにも趣味にもUnityを使い,大学で活躍して社会に出て行くというパスができている」とし,「Unityは決して簡単なツールではないが,使いこなせば社会に出て行きやすい,得をするといった認知を広めていくことが,今後のUnity教育にとって重要である」とまとめていた。

Unite Tokyo 2018関連記事一覧