成功するモバイルの有料ゲームとはどういうものなのか

Monument Valley(モニュメント バレー)とFlorence(フローレンス)のデザイナーであるKen Wong氏が,マーケットの競争激化と彼のゲームをつなぐものを省みる。

 2014年にリリースされたMonument Valleyは驚きのヒットとなった。最初の驚きは,これがゲームデベロッパではなく,デジタルデザインスタジオのUstwoの製品であったことだ。次の驚きは,すでにモバイルの常識がfree-to-playのビジネスモデルに大いにシフトしている中で,このタイトルが有料であったことだ。

 Monument ValleyとそのDLCの成功のあと,リード・デザイナーのKen Wong氏はUstwoを離れて自身のゲームスタジオMountainsを設立し,今年2月に初めてのゲーム「Florence」(有料)をローンチした。そして3月のGDCでは,我々GamesIndustry.bizに対し,Monument ValleyからFlorenceへの数年の間でモバイルのマーケットがどれだけ変わったか,また,同社のデビュー作への反応などについて語ってくれた。

 「(評価をするには)まだ少し早いですが,Florenceの受け入れられ方は実に素晴らしいように感じています。FacebookやTwitterでは,人々の心を揺さぶっているようで,ゲームをしていて泣いた,移動中の公共交通機関で泣いてしまった,ゲームに自分自身を投影している,という書き込みをたくさん見ました。皆さんと感情的に,そして個人的につながっているかのように感じる嬉しいコメントでした」

「Monument Valleyをローンチした当時は,引き合いに出すほどの有料タイトルはほとんどなかったように記憶しています」

 同タイトルのiOSバージョンの初期の売り上げは満足のいくレベルであり,Androidバージョン(数日前に発売されたばかり)もうまくいっているそうだ。また,世間一般の常識に逆らって有料アプリにしたのに成功したという話に似ていると思われるかもしれないが,Wong氏は,最近は周辺のマーケットが大きく変わったと感じているという。

 「Monument Valleyをローンチした当時は,引き合いに出すほどの有料タイトルはほとんどなかったように記憶しています。『The Room』や『Sword & Sworcery』など多少はありましたが,大ヒットしたものはありませんでした。今となっては,Monument Valleyが発売されてから,『Lara Croft Go』などいくつかのタイトルがリリースされるまでの期間に,有料タイトルというものが広く理解されたように感じます。難しいですが,free-to-playも同様です。今はより競争が激しいように感じています」

 そのような一層競争が激しくなった分野でMountainsがどのようにゲームを作っているのかについて,Wong氏はUstwo時代のやり方に思いを巡らせていた。それは,ゲームを作ることに特化していないスタジオがゲームを作るために生見出した手法だった。

 「当時,Ustwoのゲームチームは,アプリやインタラクティブなマルチメディア体験のチームが稼いだ収益で活動していました」とWong氏は述べる。「ですので私は,彼らに理解・認識でき,評価されるものを作る必要があるように感じていたのです。結果としてそれによってゲームや,そしておそらくアプリのDNA,または,グラフィックスデザインやモーションデザインについて,異なる考え方をするようになったのだと思います。そしてそれはゲーム業界の枠を超える考え方につながりました。例えば『そもそもモバイルゲームとは何かを再考してみよう』といった感じです。当時のそのような考え方は,Mountainsがどのようにゲームをデザインすべきかを教えてくれるものなっています」

FlorenceはMonument Valleyとは違って見えるかもしれない……
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 「Florenceでも同じ考え方でした。モバイルデバイス,スマートフォン,タブレットでやりましょう。いったん頭を白紙に戻して,さあ,それらで何ができるでしょうか? 我々の手元には何がありますか? タッチスクリーン,マイク,ジャイロがあります,それらを使ってどのようにゲーム体験を作り上げることができますか? といった感じです。こういう考え方は,家庭用ゲーム機やPCのゲームを作る場合には取らないでしょう。すでに多くのオーディエンスを抱えているとか,仕事にお決まりのパターンがある場合も違ってくるでしょう」

 Florenceの現代的な恋愛のナラティブやアニメ的なビジュアルのスタイルは多くの賞賛を集めているが,当初はそこにフォーカスしていなかった。むしろ,チームはインタラクション・デザインの新しい領域を模索することに重点を置いており,すべてはそこに端を発するとWong氏は語る。

 「私たちは実際のところ,ゲームのコアメカニクスを探していました。ほかと違う,私たちができる新しいコアメカニクスとは何でしょうか? 私たちがやってきたのはジグソーパズルです。タッチスクリーン上でエレメント(要素)をドラッグすることができますから,私たちはそれでジグソーパズルを作ることができました。それは,あまり検討されてこなかったものであり,なかなか思いつかないものです。それをどのように使えるでしょうか? 実際の世界ではできない素晴らしいデジタルパズルを作るか,もしくはストーリーを作れるでしょうか? それらのオプションから私たちがたどり着いた答えは,ジグソーパズルがつなぎ合わされる,もしくは壊れていくことを物事の隠喩とした恋愛のストーリーを紡ぐことでした。もしパズルのピースが欠落したり,つなぎ合わせられない場合は何が起きるでしょうか? ある関係性における異なる瞬間をパズルのピースで象徴するにはどうすればいいでしょうか? それらのアイデアが生まれたとき,ストーリーは自然にできていき,私たちはそのストーリーを深めるために時間を割きました」

……しかしWong氏は,一般に思われている以上に両者は似ていると考えている
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 彼らがそのコアメカニクス探索の過程で発見したことの多くは,完成した製品にはっきりと表れている。ゲームのデザインとプレイヤーのインタラクションに意味を与える方法は確かに巧妙だが,ここである特定のシーンをじっくり描写するのは得策ではない。だんだん離れていくカップルのパズルのピースを見ることは,人として愛情が薄れ,離れていくということにぴったりな隠喩だが,そのようなシーンはいずれにせよ強く心を打つ。

 「何が起こっているのかをまだ説明できないのかもしれません」とWong氏は語った。「それは例えば,ある歌についてなぜそんなに素晴らしいのかを友達に説明しようとするようなものです。『こんな感じで,超かっこいいところがあって,こう感じさせられるんだよ……』と言ってもうまく通じず,結局その曲を流して聞かせるような感じです。プレイしたことがあるゲームと非常によく似ているのであれば,書いたほうが簡単かもしれません。例えば,もし,チームを組んでやる新しいシューティングゲームだったら『これはあのゲームみたいだけど,ここが違うんだ』と説明できます。しかしFlorenceで,私たちはある意味,前例のない未知の領域にいるので,インタラクティブ性の背後にある意味を探っている状況だと言えます」

 「私は『感覚』という言葉について多くのことを考えています。このインタラクション(相互作用)があなたに与える『感覚』は何でしょうか? イメージや音楽と連動させてインタラクションをするとき,どのような感覚的な刺激をもたらすでしょうか? それらをすべて結びつけて,あなたを,現在もしくはかつてのパートナーといたのと同じような場所に連れていけたら,あなたは『ああ,まさにこんな感じだ』と言ってくれるでしょう。ある意味,ドキュメンタリーの力です。戦争や旅,Appleが製品をどのように設計したかなど,何か非常にリアルと感じるものを見たとします。時間は圧縮されていて,実際はせいぜい30分か1時間程度であったとしても,心の中でそれは豊かなストーリーになります。なぜそうなるのかよく分かりませんが,そういうものなのです」

 FlorenceとMonument Valleyの二つのゲームは,そのストーリーに留まらず,ストーリーを伝えるために使われるインタラクションまで,ぱっと見,かなり異なる。しかしWong氏にとってあまり違いはないという。

 「つなげて考える人もいれば,そうでない人もいます」と彼は語った。「興味深いことです。ほとんどの人はこの二つのゲームの間に関連があるとは考えませんが,私は,ポジショニングや価値観の点では多少なりともあると思います。いずれも勝つかどうかではありません。スキルが大事なのでもありません。プレイヤーに,素晴らしい,価値ある時間を与えるかどうかです。短くとも,素敵な時間の使い方です。また,あらゆる場面で初めて見るものがあり,繰り返しはありません。そういう意味でとても似ていると思います」

 二つのゲームには少なくとももう一つ,論じうる類似点がある。

 「多くのゲームデザインは外的報酬に寄っていると思います」とWong氏は語った。「あなたがこのインタラクションをするのは,ポイントや武器やゴールドの報酬がもらえるからです。それを除き,ランダムな要素を入れるのをやめた場合,その行為自体がやりがいのあるものである必要があります。ゲームとは違って,本を読んでいてある章を読み終えたとしても,ポイントもスターも得られません。素敵な物語を読んで,次の章ではどんなストーリーが展開するのだろうとワクワクすること自体が報酬でしょう。ゲームでそれをやってはダメでしょうか? つまりゲームをやってポイントを得ることではなく,ゲームで遊ぶこと自体をごほうびにできると思うのです。ただ,ちょっと違うアプローチが必要だとは思いますが」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら