Brad McQuaid(EverQuestのデザイナー)「私はゲームじゃなくて世界を作りたいんだ」

EverQuestのゲームデザイナーはなぜMMOだけに従事しているのか ― そしてなぜこのジャンルはいまだ死んでいないのか

 Brad McQuaid氏は多くのキャリアをオンラインRPG関連で築いている。とくに以下の3作だ。

 最初は,1999年にゲームを変えるほどのヒットを飛ばしたEverQuestで,このタイトルは現在もまだ運営中だ。次にくるのはVanguard: Saga of Heroesだ。初期のひどいレビューをものともせず,7年間生き延びている。現在,氏はクラウドファンデングされたファンタジー作品Pantheon: Rise of the Fallen参考URL)に取り組んでいる。このプロジェクトをEverQuestでやってきた仕事の上に構築できればと氏は願っている。

 デベロッパにとってひとつのジャンルで働き続けるというのはあまり普通ではない。しかしBrad McQuaid氏の例に限っては,意識的な ― 決定ではなく ― 選択だった。先月(※元記事掲載は9月29日)ケルンのDevcomで,「炉辺会議」のような会話で,この勤続年数の長い開発者は「ずっとMMOで仕事を続けたいと思っているだけ」だと言明し,我々はそれがなぜか知るために情報交換をした。

Visionary RealmsのBrad McQuaid氏
Brad McQuaid(EverQuestのデザイナー)「私はゲームじゃなくて世界を作りたいんだ」
 「私にとって,ちゃんとしたMMOはゲーム以上のものなのです」と氏はGamesIndustry.bizに語った。「それは世界です。私は没入したい,ファンタジーやSFの世界に逃げ出したいと思っています。(MMO開発者たちは)とてもとても初歩的なホロデッキ(※スター・トレックに登場する仮想空間を作るデバイス)の基礎を作っているのです。人々に1930年代を再現させたり,新しいバーチャルワールドを構築したり ― それがMMOのなんたるかです。MMOは創世記となるのです」

 「なぜなら,それらは現実の人間とソーシャル要素を含んでいるからであり,なぜなら,それらはそれほどの没入的だからです ― 将来VRがやってきたらさらに凄くなるでしょう ― 私はそれに夢中になります。そこでは私はゲームをしているとは考えないでしょう。私は実際にそこにいるのです。そしてそれこそが私の興味をそそるのです」

 「私はいまだにほかのゲームもプレイしています。iPadでタワーディフェンスをやったりしますが,自分がゲームをやっていることは知っています。しかし本当にいいMMOをプレイしているときは,まさに本当に素晴らしい映画を見ているように,その場にいるのです。あなたはそこに座っていることを忘れてしまうでしょう。なぜなら,あなたはMMOはあなたをその世界内に運ぶからです。それが,ほかの多くのゲームには無理で,MMOには実現できることであり,私が個人的にやりたいことのすべてです。私は世界を作りたいのです,ゲームではなくて」

 見上げた心がけだが,MMOジャンルは死んでいないのか? BlizzardのWorld of Warcraftと高さを争うタイトルは存在せず,この10年間で数え切れないほどのタイトルがサービスを終了した。力強く続いているFinal Fantasy XIVやEve Onlineのように,いまだに際立ったところを見せるものも存在するとはいえ,ハードコアMMOを開発するところは稀である。Free-to-Playやモバイル用に単純化されたものであれば話は別であるが。

「(MMO開発者たちは)とてもとても初歩的なホロデッキの基礎を作っているのです。人々に1930年代を再現させたり,新しいバーチャルワールドを構築したり ― それがMMOのなんたるかです。MMOは創世記となるのです」

 「私はそういう認識はゆっくりと変わっていると思います。そして我々は,そういった意見を帰るための最前線に立つことを決めました」とMcQuaid氏は語った。「これがまさにいま起こっていることです。私は偉そうなことを言っていると思われたくはありませんが,'90年代 ― Diabloが登場してみんなRPGは死んだと言っていた時代に戻りたいのです」

 「人々は,RTSや古いスタイルのMMOは死んだ,誰もが簡単なゲームを望んでおり,集中力が続く人はおらず,誰もがただ跳ね回りたいだけだと考えています。ええ,いまではそれは真実かもしれません。ゲーム空間はEverQuestの頃から1桁拡大していますが,それは,もっと複雑で,ソーシャル要素があり,挑戦的なゲームを望むプレイヤー集団がいなくなったという意味ではありません。おそらくパイが広がったので,彼らの比率が下がったのでしょう。しかし,彼らはまだそこに存在します。そして現在孤立しており,取り残されていると感じています」

 こうして氏は「行き届かない市場へリーチする大きな機会」としてのPantheon の取り組みを説明した。加えて「私が超絶カジュアルなMMOを造りたいと思ったとしたら,― そんなことはありませんが ― それはDestinyに対抗するか,そんな感じのものになることでしょう」

MMO的な側面と,Destinyのようにより取っつきやすいゲームメカニクスはMcQuaid氏と彼のチームにとっては市場をひとつにするものだ

 BungieのSFシェアワールドシューティング ― そしてTom Clancy's The Divisionといった類似のゲーム ― も,MMOにとどめを刺したものだと論ずることができるだろう。FPSのメカニクスは総合的なMMORPGシステムよりも遥かに取っつきやすく,プレイヤーたちはいまだに同時に何百万人もの仲間のGuardianたちと交流している。レイドやストライクを通してアイテムを充実させていくことに重点を置くのはWoWのボス戦やインスタンスに似ているとしても,伝統的なMMOと比べたときのDestinyのビジュアルの魅力はあまりにも明白だ。

 McQuaid氏は,Pantheonのようにニッチ層とハードコアユーザーを狙ったタイトルでは直接競争する必要がないことを強調した。しかしそれは,それらのゲームが現在どのようにマーケティングしてきたかに関して重要な違いを浮き彫りにしている。Destinyが短時間ながら強烈なトレイラーでプレイヤーを獲得できるのに対して,MMOではもう少し深いところが要求される。

「Pantheonは20秒のビデオでぱっと伝わって,視聴者が「OK,よく分かったぞ」となるようなゲームではありません」

 「もしあなたがPantheonを2分間にまとめたビデオをMMOのゲームプレイや戦略的な戦闘に詳しくない人に見せたとしても,ゲームプレイの奥深さを伝えるのは困難でしょう」とMcQuaid氏は語る。「短時間になにもかもが高速で起きるような映像を見たとしても,ビジュアル志向の人たちは魅了されることでしょう。ですから,ええ本当に大変です」

 「やらなければならないのは,プレイする人の獲得であり,プレイしてくれるインフルエンサーの確保,Twitchなどで多くの観客を抱えているプレイヤーの確保です。これが我々がフォーカスし始めている方向です。なぜなら,この方法でならば,我々が提供するゲームプレイの奥深さを理解させるための時間を十分に取れるからです」

 この方法なら,氏が最後にMMOをリリースしたときと比べるとワールド内はまったく違った場所になる。2007年のVanguardのデビューでは,現在繁栄しているYouTuberコミュニティやTwitch配信者,そしてその他のインフルエンサーからの恩恵は受けられなかった。これらのものはPantheonが利用しているものでもある。ビデオは提示しても,開発日誌らライブストリームなどを通してMcQuaid氏のチームにPantheonの体験を伝えていく機会を与えている現在ほどは目立たなかった。これにより,氏が熱心に手を伸ばしている孤立したMMOプレイヤーたちにリーチしやすくなるだろうか?

 「イエス。さらに新しい人たちに」と氏は語る。「我々はCohhCarnag氏と一緒に大規模なTwitter配信を行いました。彼は視聴者からの質問に答えており,また彼はよりディープなゲームプレイについて説明ができ,視聴者にはこのようなコミュニケーションを続けてそれを理解するだけの時間がありました。ですので,これはよりいっそうのチャレンジとなりました。しかし我々にはほかに選択肢がなかったのです ― 我々が作っているようなゲームの種類では。これは20秒のビデオでぱっと伝わって,視聴者が「OK,よく分かったぞ」となるようなゲームではありません」

Pantheonは「サービスが行き届いていないユーザー」つまり業界の陰に取り残されたMMORPGファンに語りかけている

 現在では,すべてのMMO作成者にとってビジネスモデルはもうひとつのチャレンジだ。Star Wars: The Old RepublicからWildstarまで,このジャンルの多くのタイトルはFree-to-Playへの以降を余儀なくさせられている。EverQuestのゲームデザイナーは,すぐに氏が「Free-toPlayに対して何の反感も持っていない」ことを指摘した。しかし,氏はサブスクリプションモデルの揺るぎない信奉者であり続けている。このモデルはいくつかの巨大なMMOを非常にうまく支えていた。

「一晩で20から30ドルないし50ドルは吹っ飛ぶでしょう。私はいまだにサブスクリプションはお買い得だと思っていますが ― あなたは(プレイヤーに)納得してもらわなければなりません」

 1999年のEverQuestがリリースされたときには,すべてがうまくいっていた。しかし,2017年ではMMOには,人々に月額料金を納得させるのに,単なる競合相手以上の課題を抱えている。現在のエンターテイメント業界はサブスクリプションモデルであふれている。Netflix,Hulu,Spotify,Apple Music,Xbox Live,PSN,Amazon Prime,そして携帯電話の支払い……と枚挙に暇がない。これだけたくさんの毎月の支払いに直面した状況で,デベロッパはどれくらいそれに上乗せできるものだろうか?

 「途方もなくいいゲームを作る必要がありますね」とMcQuaid氏は言った。
 「説得力のあるコンテンツを作らなければなりません ― これはNetflixやほかのものについても当てはまります。もし彼らがThe Defendersを出してなければ私は契約しなかったでしょうね」

 「これについて考えるとき,映画を見に行くといくらかかって,奥さんとディナーに行くといくらかかりますか? それは一晩だけのことですが,20から30ドルないし50ドルは吹っ飛ぶでしょう。私はいまだに(サブスクリプションモデルは)お買い得だと思っています。ただ,あなたは(プレイヤーに)それを納得してもらわなければなりません」

 World of WarcraftやFinal Fantasy XIVそして多くのほかのMMOのように,Pantheonも一定のキャラクターレベルまでは無料体験ができるハイブリッドモデルを提供する予定だ。プレイヤーが限度に達すると ―まだ決定されていない正確な詳細 ― 彼らは継続するためには契約する必要がある。これもゲームマーケティングのひとつだ。

 「事前に契約するように要求した場合,プレイヤーはなぜだと問い,彼らにもやりたいと思うかどうかが分かりません」とMcQuaid氏は語る。「しかし,もし2週間ほどゲームをプレイしてゲームを好きになったら,彼らは定額モデルに課金してくれることでしょう」

オリジナル版EverQuestは現在も遠泳を続けており,ある種のプレイヤーは伝統的なMMORPG体験を味わうことに熱心だ

 どんなMMORPGにとっても成功の鍵はアクティブなユーザーベース,長期にわたってプレイを続けてくれる忠誠心の高い人にある。これはゲームのソーシャル要素に大いに依存している。ここにMcQuaid氏は大いに注目しており,その有機的な関係はデベロッパーに対する感情に関わりなくプレイヤー間に築かれるという。

 しかしながら,現在のスタジオには傍観しているような余裕はなく,友情が構築されることを願っている。McQuaid氏がPantheonで出した答えはマッチメイキングのインタフェースだった。それはプレイヤーに好きなだけ個人情報を記入して自分と似たプレイヤーを探すことができるものだ。

「プレイヤー任せにしておくことはできません。初心者プレイヤーというのは我々が直面している最も重要な課題でもあります」

 「それをプレイヤー任せにしておくことはできません。我々は積極的にならなくてはいけないのです」と氏は語った。「ソーシャルグループMMOでの初心者プレイヤーというのは我々が直面している最も重要な課題でもあります」

 「基本的に(Pantheonは)World of Warcraftとは対極にあります。そちらではインスタンスに行こうとしたとき,ランダムの束にテレポートして,みんなで走り抜けて消えていきます。おそらくあなたは一言も話さないんじゃないでしょうか……。我々は,あなたが本当に友達になれる人々をオンラインで簡単に探せるようにするために,できる限りのことをするつもりです」

 氏は,冗談交じりに,どのようにPantheonのマッチメイキングが動いているのかと,某有名出会い系サイト(※eHarmony)のシステムの間での前提類似点を指摘しつつ,そのシステムを「pHarmony」だと引き合いに出した。我々は,もしほかのデベロッパが出会い系サイトから学ぶようになったらどうするのかと聞かずにはいられなかったが我慢した。

 「ええ,似てるんですよ」とMcQuaid氏は説明した。「あなたは同じことに興味のある人を探しています。いつプレイして,どんなプレイをするのか。そうすれば,その大部分を占めるソーシャルゲーマーを見つけられるでしょう。彼らはゲーム以外でも関心のあることについて話しています。一部の人は違いますが,彼らはロールプレイをしたがっていたりゲームに集中してたいと思っているだけなのです。しかし,それぞれの趣味について話したがる人もいます。それはすべてプレイヤー次第です。しかしながら,彼らは,我々がマッチングを見つけやすくできるように多くの情報を提供したいと思っています」

 Devcomでの会話でMcQuaid氏は,ほかのデベロッパが考慮すべき事項についての自身の貢献を指摘した。もちろんこのジャンルに限ったことではないが,それは特定のユーザーにフォーカスし ― 氏の場合は見捨てられたMMOファンだ ― すべての人にアピールするようなものを作るという誘惑に抵抗することだ。

 もちろん,小さなスタジオやインディ開発者にとってこれは本質的に危険に思えるかもしれない。広くアピールするゲームのほうが開発費を回収しユーザー数を拡大するチャンスはずっと大きい。それに対して,ニッチをターゲットにすることは,目標とする限られた集団内でより高い認知(と購買率)が要求される。McQuaid氏は今回の対談で述べたようなことを繰り返すことで,その不安を和らげている。

 「収益モデルはゲームに合ったものでなければなりません」と氏は語る。「もしあなたがゲームをデザインするなら ― ここではモバイルゲームということにしましょう ― 多くの人を参加させることが必要になり,できるだけ多くの人々にゲームを露出させなければなりません。なぜなら,マネタイズできるのは一定の割合にすぎないからです。ご存じのように,何人かは多めにお金を使ってくれますので多くの人がゲームをプレイできるようになるのです」

 「しかし,もしあなたが長い時間をかけてプレイする価値のあるゲームを作っているなら,ターゲットにするユーザー層を絞り,それを維持するために彼らにとってベストなゲームを作ることに時間を費やすべきです。お金を払ってくれる3%か5%のだけでなく,プレイヤーはどれもみんな重要です。 とくにあなたがサブスクリプションモデルを使っているなら,彼らを維持すること,彼らをハッピーにすること,そしてそれをゲーム以上のもの,どちらかといえば家(Home)にすること,それが重要です」

※なお,Pantheon: Rise of the Fallenのクラウドファンディングは現在もこちらで継続中である

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら