GTMF会場に参考出品されていたEIZO CG3145はHDRディスプレイのリファレンスとなるか

GTMF会場に参考出品されていたEIZO CG3145はHDRディスプレイのリファレンスとなるか
 GTMF 2017のシリコンスタジオブースでのHDRディスプレイの展示について紹介してみよう。HDRディスプレイをめぐる状況については以前まとめていたので,そちらも見ておいていただきたい(関連記事)。
 さて,ゲームで多用されるHDR10方式の最大輝度は1万cd/m2だが,一応の基準とされる1000cd/m2でさえ実現するのはそう簡単ではない。
 現在,家庭用液晶テレビのハイエンド機種については最高輝度1000cd/m2をクリアしている製品があるものの,ゲーム制作の現場で使うには少々大きすぎ,カラーキャリブレーションなどで不安がある。家庭用テレビに比べてPC用ディスプレイのHDR対応は遅れており,PC用の規範となるようなHDRディスプレイの登場が待たれていた。それに近い製品として期待されているのがEIZOが発売予定のColorEdge Prominence CG3145だ。その試作機がシリコンスタジオブースに展示されていたのだ。

 現在HDRマスターモニターとしては,ソニーの業務用有機ELディスプレイBVM-X300が知られているが,有機ELディスプレイは全体的に高輝度になると,過熱を避けるために全体の輝度を落とす調整が入ってしまう。一方,液晶を使ったEIZOのCG3145ではフルのHDR映像を出し続けることができるのがメリットだという。
 従来,液晶ディスプレイはバックライト次第で明るい絵を出すことは得意としているのだが,明るいバックライトを使うと,黒い部分が白浮きしやすいという欠点があった。そこで,最近のHDR対応テレビではバックライトLEDの数を増やして「ゾーン制御」を行うことで,暗いところではバックライト自体を暗くして,明るいところだけ最大輝度のバックライトにしてと,最大輝度と最低輝度を両立させるような制御が行われるようになっている。とはいえ,かなり細かくゾーン制御をしても,明るい点があるブロックではどうしてもそれ以外の点も明るくなり,明るい点から周囲への明るさ漏れが発生してしまう。
 EIZOでは,LEDのゾーン制御は行わず,1000cd/m2の高輝度を出せるバックライトを全開にしたまま,液晶だけで暗い部分は暗いまま光を遮蔽しているのだという。想定されるコントラスト比は100万:1だ。画面を少し上方向からよく見ると,画像エッジに微妙なブレが見えたりすることから,おそらくは4Kの液晶パネルを複数枚張り合わせているのではないかと思われる。

 昨年のCEDECのシリコンスタジオブースでは,EIZOのHDRディスプレイによるHDRデモが展示されていたのだが,明るい部分は綺麗に出ている半面,暗い部分も明るく浮いているという,液晶ディスプレイらしい弱点も見えていた。しかし,今回出展されていた製品は,かなり黒部分を抑え込んでおり,完成度は劇的に向上していることが分かる。12月に発売される予定だが,現在の仕上がり状況は70%程度とのことであった。これから追い込みでさらに完成度が上がっていくのだろう。
 また,元々寿命の短さが懸念される有機ELを,超高輝度でフルに使い倒すと寿命は1年程度になってしまうようだが,液晶ならば「3倍はもつ」とのことだった(液晶というよりバックライトLEDの寿命のようだが)。
 高輝度LEDをフル回転ということで,背面には4基の空冷ファンが搭載されている。消費電力もそれなりになるはずだ。

 展示されていたデモは,SDRで普通に制作されたゲームをシリコンスタジオでSDRのアセットのまま,HDRで出力するように変えただけのものだという。つまり,おそらくは輝度なども不正確で実はあまりいいHDR用デモではないのだが,見た目には実にHDRとして説得力のあるデモになっていた。金属の光沢や水面の輝き,蛍光色で飛び回る蝶などが鮮烈に描写されていたのだ。正確なデモを作ると自然に見えすぎてイマイチHDRの威力が感じられにくいのだが,デモ用ではこういう極端なモノのほうが適しているのかもしれないと感じた。

GTMF会場に参考出品されていたEIZO CG3145はHDRディスプレイのリファレンスとなるか
 実は,このデモでは部分的には1000cd/m2を超える信号も出ているとのこと。ディスプレイの表示できる最大輝度を超える信号はすべて最大輝度でつぶれてしまうわけだが,絵作りの段階でどの程度の部分が飛んでいるのかを確認する機能がディスプレイ側に備えられていた。プロ用ディスプレイならではの機能であろう。
 実際にディスプレイ側のデバッグ機能も見せてもらったのが下の写真だ。信号レベルで1000cd/m2を超えている部分を紫や黄色に置き換えて画面に表示してくれるという機能で,ここでは紫に置き換える処理が指定してある。強いハイライト部分や輝く蝶の部分が紫色に変わっていた。ちなみに,蝶については,黄色のままで1000cd/m2を超えていた。輝度1000cd/m2以上の部分がすべて白飛びするとは限らないわけだ。

蝶の羽根の部分が1000cd/m2を超えているので紫で表示されている
GTMF会場に参考出品されていたEIZO CG3145はHDRディスプレイのリファレンスとなるか

 こうした1000cd/m2を超える部分についてはどうすればよいのか。放っておくべきなのか,輝度を圧縮すべきなのか。シリコンスタジオでは,輝度と階調性をできるだけ保ったまま,ディスプレイ側の性能を最大限に引き出す形で出力するという独自機能を搭載しており,そのデモも見せてもらった。トーンカーブの上端部を少し曲げて調整する感じだ。実際のトーンカーブをオーバーレイした画面では,1000cd/m2を超えたところから1000cd/m2に切り捨てるのではなく,最大輝度が1000cd/m2になるようにカーブの上端を滑らかにつないでいることが分かる。正確な階調にはならないが,高輝度部の階調差をつぶさずに出力しようという意図の処理だ。1000cd/m2をターゲットに作ったゲームを350cd/m2のディスプレイでプレイされると,制作者の意図した絵にはならないだろう。その場合,ディテールがつぶれてしまうのを是とするか,輝度が下がってしまうのを是とするか。情報量を取るか正確さを取るかは一長一短なので,好みや状況で使い分けられるのがベストだろうか。

右がSDR(100cd/m2),左がHDR(1000cd/m2)のトーンカーブ。上端部分が滑らかに曲げられている
GTMF会場に参考出品されていたEIZO CG3145はHDRディスプレイのリファレンスとなるか

 これまではHDRコンテンツを作る側でさえ,なかなかちゃんとしたディスプレイは入手できなかったのだが,この製品が登場すればHDRディスプレイのリファレンスとして君臨することになるのだろう。
 とはいえ,価格もかなり高くなりそうなので,クリエイター1人に1台というのはよほどのところでないと無理である。EIZOとしても会社に1台,最終確認用に導入してもらえればといった感じで考えているようだ。コンシューマ向けPCディスプレイも今後HDR対応のものが出てくると思われるが,正直言って予想より動きは鈍い。CG3145はそこへの一歩となるが,HDRコンテンツの制作環境が普及するにはもうしばらくかかるのかもしれない。

ColorEdge Prominence CG3145製品情報ページ