商業VR施設の業界団体,ロケーションベースVR協会発足。小学生の利用に向けて緩和の動きも

安藤晃弘氏
 2017年7月18日,都内でロケーションベースVR協会立ち上げに関する発表会が行われた。これは,テーマパークなどでのVR体験施設に関わる業者による業界団体で,この種の施設を推進していくうえでの問題点などを共有し,関連業者が協力して対処していくための業界団体だ。
 発起人となったのはハシラスの安藤晃弘氏で,同協会の代表理事を務めている。同社はVR施設に筐体を納入しているメーカーだが,あちこちの施設で同じ問題意識を持っていることに気づいたという。これを団体の力で解決していけないかと立ち上げたのが今回の協会だ。ハシラスが5月に協会を立ち上げ,それ以外に現在ロケーションベースVRを進めている会社,これから参入予定の会社が理事として参画し,本日の発表会に至っている。

三好 慶氏
 協会の現況と組織体制については,事務局長の三好 慶氏から紹介された。
 協会設立の目的は,ロケーションベースVR事業の振興を主とし,統一規格の設定や各種課題への対処,国内外への普及にあるとされている。平たく言うと,ロケーションベースVRを普及させ,業界の利益を最大化させることが目的となる。

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 協会で行う事業としては,VRの人体への影響などに関する医学的検証や統一基準・ガイドラインの作成などのほか,キラーコンテンツやエコシステムの確立に向けた研究案件も含まれている。

商業VR施設の業界団体,ロケーションベースVR協会発足。小学生の利用に向けて緩和の動きも
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 会員には議決権のある正会員と,議決権を持たない賛助会員があり,現時点での正会員は,イオンリテール,ソニー・ミュージックエンタテインメント,タイトー,ハシラス,バンダイナムコエンターテインメント,フタバ図書,賛助会員はリクルートテクノロジーズとなっている。この春から急ピッチで設立を進めていたため,現時点では決済などが間に合っていない企業もあるようで,準備中の会社も今後随時追加されていく模様だ。一般企業については,本日から参加受付が始まっており,正会員・賛助会員を広く募集している。詳しくは公式サイトからメールでお問い合わせを。

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「13歳問題」への取り組み 


 以下は,協会設立の意義として挙げられたスライドであるが,業界の課題と言い換えてもいいだろう。VR業界の自主規制としての「13歳問題」,機材1台あたりに一人のアテンダントを必要とする運用問題,そして一人当たりの利用者が必要とする床面積の問題などだ。

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 最大の課題の一つは13歳問題だろう。家庭用のVR機器では,必ず13歳未満での使用を禁止する旨の表示が行われている。これは家庭内で長時間VR機器に接する場合の視覚機能の成長に対する懸念から設定されているものだが,テーマパークなどでは家族連れも多く,短時間の体験で家庭用と同じ基準を使う必要はあるのかといった議論がなされている。
 こういった基準は海外のロケーションベースVR施設ではまったく使われておらず,子供でもVRアトラクションを体験でき,健康被害はとくに報告されていないという。こういった規制はVRの教育用展開などでの機会損失ともなりうるもので,好ましくないと安藤氏は語る。

南里清一郎氏
 慶応大学名誉教授である小児科医の南里清一郎氏は,目だけではなく,耳,精神的発達への影響を多角的に考えた基準を作る必要があると語った。
 生まれたての赤ちゃんの視力は0.1程度だが,小学校1年くらいでは視力1.0未満は数%,この比率は中学以降になっても変わらないという。これは電気もテレビもない(目を酷使することのない)ボリビアでの調査で判明したことだそうだが,目を酷使する機会の多い日本では近視が増えており,中学になると半分以上が1.0未満である。目を使えば使うほど,使い方が悪ければ視力が落ちることが分かるという。小学校までは余分なことに使わないほうがいいのではないかと南里氏は述べていた。
 また,立体視が確立されるのが10歳前後で,12,13歳以上が安全圏とされているが,13歳がVR機器の基準とされているのは前述のとおりで,この13歳という年齢になったのは,アメリカのCOPPA(子供のプライバシーを守る法律)での保護年齢の影響もあるのではないかとのことだった。
 小学6年生くらいになると頭の大きさも大人とほとんど同じになり,瞳孔間距離もあまり差がなくなるとのことで,もう少し下げられる可能性があると見ているようだった。そのほか,年齢は学校の学年とは一致しておらず,学年内で差が出てくることは望ましくないという。年齢と学年(学校)を組み合わせた規制が望ましいとしていた。
 実際にVR機器を体験した南里氏は(ホラーものだったらしい),むしろ高齢者側の規制をつけたほうがいいのではないかと語っていた。

 このあたりはすでに独自基準で運営している業者もある。越谷イオンレイクタウンでは,13歳未満でも小学生以上で保護者の同意を得た場合,1日3回を限度にVRアトラクションを開放しているという。提供される体験は,どれも1回あたり3分未満と短時間ということもあって,これまでとくに問題は発生していないという。レイクタウンではすでに8万人分のエビデンスを取っており,同協会の独自ガイドライン作成に貢献するものと期待されている。


ロケーションベースVRの展開とその目指すもの


田中茂樹氏
 ソニー・ミュージックエンタテインメントの田中茂樹氏は,世界でのロケーションベースVRの現状を紹介していた。SME自体でも,ソニーピクチャーズのIPを使ったゴーストバスターズやパッセンジャーなどのVRアトラクションを展開しているほか,米国や中国でファミリーエンタテインメントセンター(商業施設付帯の小規模娯楽施設)が増えており,その中核を成すのがVRアトラクションだという。中国ではすでに2000以上のファミリーエンタテインメントセンターが設立されており,その他の国でもロケーションベースVRの商業展開が数多く開始されているとのこと。

商業VR施設の業界団体,ロケーションベースVR協会発足。小学生の利用に向けて緩和の動きも
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田宮幸春氏
 さらにVR ZONEを展開するバンダイナムコから田宮幸春氏が登壇し,同協会に期待するものなどについて語った。先日VR ZONE SHINJUKUを稼動させたばかりのバンダイナムコだが,開始2日め3日めにはカップルや海外からの来客なども増え,初めてVRを体験するという人も6割近かったという。同社では,今後もっと小規模な施設や海外での展開を進めていくとのこと。
 そんな同社がこの協会に期待しているのは,「自制の効いた挑戦の加速」だという。VR市場は手探りだが,可能性に満ちており,最初から規制で雁字搦めにすべきではないと氏は語る。業界全体で挑戦を加速させつつ,守るべき部分は守る。コンテンツの安全性などが確保されなければ本末転倒だからだ。
 VR市場の可能性の開拓,そしてVRの認知は1社でやるより団体でやったほうがいい。安全性・健全性に問題があったときに,いきなり国から規制が入るよりも,業界団体で自主規制を行うほうがずっとよい。これは他の協会でも同じことだ。バンダイナムコとしては,ガンガンと新しい挑戦は続けつつ,同社ならではの立場として認知や自制の部分で貢献できるのではないかとしていた。

 最後に安藤氏が登壇し,この協会はまだローンチしたばかりのスタート地点であり,これから各社で協議してさまざまな発表を行っていくことになるだろうと語る。なお,協会設立は非常に駆け足で行われたようだが,その理由としては,夏休み中に小学生でも既存の施設を利用できるようなガイドラインを出したかったからというのがあったそうだ。VR ZONEなども現在は13歳以上の利用以外はできないのだが,バンダイナムコの田宮氏によると協会でのガイドラインが出来上がればそちらに従う用意はあるという。

 安藤氏は,今後VRはどんどん家庭に入っていき,もっと一般的なものになるだろうとしつつも,その時代まで少し時間が掛かるとした。そういった場合,多くの人が初めて体験するVRはロケーションベースのVRになるだろうと,ロケーションベースVRの位置づけを示した。
 今後さらに進化し,家庭ではできないようなフラグシップのVR体験を1コインで体験できるような環境を作っていくこと,VRへの入り口として最高の体験を提供することなどがこの協会のなすべき役割となるという。VRの可能性を追求し
豊かなIPを発信していけるような環境を作りたいと発表会を締めくくっていた。


ロケーションベースVR協会公式サイト