E3インタビュー: PlayStation Jim Ryan氏が語るSIEの戦略

ソニーにおけるインディーズの不在,Xboxとの戦い,メインストリームのゲーマーにリーチすること,そしてなぜ任天堂の復活は誰にとってもよいことなのか。

 それはいずれにせよ起こる運命だったのだ。

 これまで行われていたE3のプレスカンファレンスはサプライズで彩られていた。その後,ソニーは衝撃の連続よりもアップデート中心のイベントを提供することとなった。

 E3 2017におけるPlayStationのショウケースには,多くの人々が気づいたことよりももっと深みがあった。

 実際,我々は同社による60分の簡潔な放送でフィーチャーされたゲームよりも多くについて知っている(関連記事)。しかし,それもまだ主要なラインナップにすぎない。「Sony Computer Entertainment Presents」という単語 ― ファーストパーティの作品を意味する ― はショウケースの行程で12回繰り返された。そして,それらのほとんどは今後の18か月にわたってリリースされることになる。

Jim Ryan氏
E3インタビュー: PlayStation Jim Ryan氏が語るSIEの戦略
 我々に見せなかったのは,ソニーがクリスマス商戦で新しいXbox One Xと戦うための隠し玉で何を用意しているのかだ。そして,PS4がより幅広いプレイヤー層に広まっているように見せることで,復活した任天堂をどうやって打倒しようとしているかについてだ。

 そこで,我々は同社のグローバルセールス&マーケティングを掌握するJim Ryan氏にこれらについて話を聞いた。

GamesIndustry.biz:
 今回はこれまでとまったく違ったプレスカンファレンスでしたね。Shawn Layden氏の短い言葉を除いてほとんど重役が登場しませんでした。デベロッパも出ませんでした。わずか1時間の長さです。なぜこんなふうにしたのですか?

Ryan氏:
 それは実際には驚くほど難しいことでした。私が思うに,我々は昨年は大きく進歩しました。しかし,今年はそれが最小限だったと思えるくらい極端な状況でした。そこで人が話す時間を短くして,ゲームを見る時間を長くしたんです。そのほうがいいですから。なにも不思議はありません。時間も短いほうがいいでしょう。1時間を超えるようになるとみんな飽きてきますから。ゲームだけを見ましょうよ。

GamesIndustry.biz:
 いくつかのゲームは,出てくるまでにかなり時間がかかっているように見えますが,どうして時間がかかったのですか?

Ryan氏:
 どのゲームのことでしょうか?

GamesIndustry.biz:
 例えばDetroit(Detroit Become Human)です。

Ryan氏:
 ということは,あなたはパリで見ていますね。そう,2015年10月です。

GamesIndustry.biz:
 Days Goneとスパイダーマンはどちらも昨年出ていますよね。しかしまだ道は遠いようですが。

Ryan氏:
 ちまたではこれらのゲームは時間がかかっていると思われていますよね。そういう話を聞くのも初めてではありません。しかしこれについては,とても「罪状どおり有罪」とはいえません。我々はオーディエンスが疲れないようにと慎重に気を配っています。2年前に見たものでリリースされていないものはもう残ってないと思います。

GamesIndustry.biz:
 まだいくつかあるように思います。Dreams or Wild(※詳細不明)で話を聞いてからしばらく経つのですが,Death Strandingはきっと長い時間がかかっているのだろうと思う作品の一つです。

Ryan氏:
 Death Strandingは本当に……あれは明らかにソニーと小島秀夫監督との関係の表明でした。その時期にああいった形で,声明としてちょっとした新映像を発表したのはまったく正当なことだったと思います。
 過度に防衛的になっていたと言っているのではありませんよ。

「Unchartedとグランツーリスモを同じ年,しかもどちらもホリデーシーズンの3か月以内に出します。こんなことはこれまでありませんでした」

GamesIndustry.biz:
 E3の発表にはいくつも違った戦略があることは理解しています。いくつかの会社は次の6か月以内に発売されるゲームを発表しますし,遥か先に出るものをチラ見せするところもあります。どちらの戦略であっても議論の余地はありそうです。ただ,すぐに出てきそうなタイトルの発表はほとんどなかったような気がします。Xbox One Xがこのクリスマスには登場します。何をもって迎え討ちますか?

Ryan氏:
 それはもう,グランツーリスモSPORTとUncharted: The Lost Legacy(アンチャーテッド 古代神の秘宝)でしょう。Unchartedとグランツーリスモを同じ年,しかもどちらもホリデーシーズンの3か月以内に出します。こんなことはこれまでありませんでしたが,かなりよい感触を持っています。

GamesIndustry.biz:
 Uncharted: The Lost Legacyはフルゲームと位置づけていますか?

Ryan氏:
 これは40ユーロですからね。70ユーロではありません。ですので,これはUncharted 4ではありません。しかし,もっと安価なDLCでもないのです。ゲームプレイは数時間になりますし,データディスクではないので,これを楽しむのにUncharted 4は必要ありません。

E3でのソニーの発表ではファン好みのPS2ゲーム,Shadow of the Colossus(ワンダと巨像)のリメイクなどいくつかのサプライズがあった

GamesIndustry.biz:
 E3でバズっていたワードは「4K」だったように思います。でもソニーの,そしてこの点ではXboxもそうでしょうが,フォーカスは(4Kではなく)マスマーケットにもっとどんどん広げていくことではないのですか?

Ryan氏:
 そうですね。野望というのはいくつかの異なる軸から計られなければなりません。でもあなたのコメントは根本的には正しいと思います。消費者の数をゼロから5000万人にするのは,ある特定のグループの人々との対話に過ぎませんが,5000万人から1億人に達するには,それとはまた異なる人々との異なる対話になります。もし許されるなら,この時点でPlayLink (スマートフォンをコントローラとして使う一連のPS4ゲーム)について話しておくのがいいでしょう。それはE3の全体感にあっていない,またデモの点からいっても,あの場には適していません。ですが,ゼロから5000万人へ,そして5000万人から1億人にゴールポストを動かすという観点で私たちはとてもエキサイトしているんです。

GamesIndustry.biz:
 では,プレスカンファレンスでPlayLinkについて言及がなかったのは,PlayLinkで行う予定のサポートを示していないということですか?

Ryan氏:
 いえいえ。実際,明日,米国ソニーの幹部と会いますし,私たちは極めて真剣に取り組むつもりですし,有意義なマーケティング活動も行われるでしょう。PlayLinkのプラットフォームで最初のゲームとなるThat's Youは7月上旬にローンチされます。このゲームは夏の間はPlayStation Plusに入れます。そのほうが,潜在的に何百万人もの人々がサンプルを試し,楽しんで,このゲームが少し違うものであり,PlayStation 4から現在までで慣れ親しんできたものではない,そして実際ちょっと面白いものであることを分かってもらう機会になるのではないかと感じているからです。

 その後,年末に向けてあと四つのゲームをリリースします。私たち自身のスタジオからは5タイトルをアナウンスしました。サードパーティとも実に有意義な会話をしています。一部のゲームオーディエンスがインタフェースとしてのワイヤレスコントローラDualShockに対して反感を持つことを我々はかなり興味深いと感じています。

GamesIndustry.biz:
 私たちはPlayStationがこれを家庭用ゲーム機サイクルの途中でやっていると思っています。ほとんどの人がEyeToy(アイトーイ),SingStar,PlayStation Move,Wonderbookなど,すでにアクセサリを所有しているという事実からPlayLinkは恩恵を受けています。

Ryan氏:
 それはいい観察ですね。高価で混乱もきたす特注の周辺機器のような敷居の高さはないのです。人々は,これらのものの使い方を知っています。ゲームの価格は19ポンドにする予定で,そこで儲けようとは思っていません。さあ,どうなるでしょうね。

「もし,かつてWiiをやっていたけれど,その後ゲームから遠ざかっていた何百万人の人々が戻ってきてお店にSwitchを探しに行くのなら,私はそういう人たちにPS4を売ってみたいと思います」

GamesIndustry.biz:
 この幅広い市場をターゲットにするにあたり,Nintendo Switchのタイミングは潜在的な難題をもたらしませんか? 結局のところ,マスマーケットへのアピールは任天堂の強みですから。

Ryan氏:
 非常に興味深い質問ですね。彼らが入ってくる範囲で,そして,「盗む」という言葉は少し品がないですが,彼らはもっとカジュアルな思考の消費者,PS4のターゲットであった可能性のあるような人々を持っていっています。明らかに,狭い意味では,私たちにとってメリットはありません。しかし,業界のエコシステム全体を見た場合,復活した任天堂が戻ってきて,有意義な勝負をする ― 彼らがE3で見せたものの多くが大変良かったと聞きました ― それは業界にとって,また業界にいるほぼ全員にとってメリットであることにほかなりません。いずれ分かることでしょう。もし,かつてWiiをやっていたけれど,その後ゲームから遠ざかっていた(多くの場合,数年間に及びます)人々の一部,それでも何百万人になりますが,その人たちがゲーム市場に戻ってきて,お店にSwitchを探しに行くというのなら,私はそういう人たちにPS4を売ってみたいと思います。

PlayLinkは,メインストリームのオーディエンス向けにPS4の魅力を高めるためのソニーの取り組みだ

GamesIndustry.biz:
 さまざまなものが公開されたE3で人々が話題にしていたことの多くは,むしろそこで公開されていない事柄でした(笑)。ソニーが実際に見せなかったことの一つはインディーズゲームでしょう。昨年もあまり見せていませんでしたね。今,明らかにインディーズゲームがPS4で盛り上がっていますが,なぜ見せなくなったのですか?

Ryan氏:
 たった1分で10のインディーズゲームを見せるビデオコラージュはほぼ無意味であることに気づいたからです。そのような短い時間では,ゲームについて何も知ることはできません。無駄な時間だと見なされるでしょう。

 かつてPS4の初期の頃は,私たちがインディーズについて真剣であり,インディーズとあれこれやっているという声明を出す時間と場所がありました。そこからインディーズゲームのNo Man's Skyなどが頭一つ抜け,道を切り開いて行きました。ご存じのように,今はプラットフォーム上に数千のインディーズコンテンツがあります。そして,私たちがE3のメディア・ショウケースのステージでグランツーリスモやPlayLinkなどと一緒にインディものを発表しないということを選んだのは,重要視していないとか,存在を無視しているとか,まったく心配していないということではありません。2013年とか2014年に話すのは良かったと思いますが,今現在の話題ではないのです。今であれば,例えば,VRについて話したいと思うのです。

GamesIndustry.biz:
 確かにかなりの数のVRプロジェクトを見せてくれました。

Ryan氏:
 かなり慎重に検討しました。私たちはVRを取り巻く「コンテンツはいったいどこにあるのか」という世間の会話に気がついていました。そういう意味ではこのイベントではかなり良い仕事ができたのではないかと思います。

GamesIndustry.biz:
 その話の一部は,現時点でほとんどのサードパーティにとってはVR市場が実際には存在しないという(VR市場はほとんどのサードパーティは入れるものではない?)懸念から来ています。あなたが示したコンテンツは有意義な方法でVRの取り込みを加速すると確信していますか?

Ryan氏:
 私たちはまだVRについて学んでいる段階だと思います。もし1年後にまた会えるのなら,この質問に対してもっと良い回答ができるはずです。完璧な答えではないでしょうが,私はもっと多くのことを知ることができると思います。私たちはVRへの理解という点ではまだ初期段階にあります。VRがResident Evil 7(バイオハザード7 レジデント イービル)の成功にここまで重要な役割を果たすとは考えてもいませんでした。PS4でそのゲームをプレイしたあとに,VRでもプレイした人はのパーセンテージは2桁に達しました。どちらもきっちり10.1%ではありませんよ。それは私たちにとって大きな驚きでした。フルモードかフルモードの一部分か,グランツーリスモかDOOMかElder Scrollsか……それらはVRの需要を加速させるかもしれない。または,より短い形態のものになるかどうか。私たちにはまだ分かりません。まだ断言するのは時期尚早です。

GamesIndustry.biz:
 PS4 Proの発売以来,ProはPS4全体の売上高の20%を占めています。これらは新しい消費者ですか? またはPS4からアップグレードしてきた層ですか?

Ryan氏:
 両方です。Proを購入した人のおよそ40%がアップグレードでした。それは月ごと,国ごと,そして1年のうちのタイミングによってもさまざまに変わりますので,ざっくり言えば,という感じですが。

GamesIndustry.biz:
 ということは,Proは新しい消費者層を引き込むことができているということでしょうか。

Ryan氏:
 はい,しかし,これに対する歪みは,正しい需要を喚起しなかったということです。PS4 Proは発売以来,ずっと在庫切れでした。きちんと供給できるようになってきたのは最近のことで,我々もようやく感覚が分かってきたところです。こういうダイナミクスは供給の制約がある状況では潰されてしまうものです。我々は今後3〜4か月間でさらに多くを学ぶことになると思います。

GamesIndustry.biz:
 Microsoftが独自の4Kマシンを導入した今,ソニーもそれを強く推進する計画ですか?

Ryan氏:
 競合計画について話すことは決して賢明なことではありません。確かに,PS4として販売されている5台のうちの1台はProであるとことを踏まえると,クリスマス商戦ではとても重要な部分を占めることになりそうですし,その割合は増えると予想しています。出荷し,供給が制約されている場合,販売できるものがないので,あまり話をしたくない場合もあります。私たちはこのクリスマスには在庫状況は安定すると予想しており,多くのPS4 Proを販売することを楽しみにしています。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら