VRプラットフォームでのエクスクルーシブタイトルは最後の手段であるべき

 VRプラットフォームでのエクスクルーシブタイトルは最後の手段であるべき
「Job Simulator」の開発チームOwlchemy Labsを率いるAlex Schwartz氏が,彼らのVRゲーム市場へのアプローチの仕方を語るとともに,今後はVRどこへ向かっていくのか,そしてARゲームの隆盛はしばらく先であろうという展望などを語った

 ここ数か月の間にVRヘッドセットを利用したという人であれば,Owlchemy Labsが手掛けた「Job Simulator」に挑戦してみる機会があったのではないだろうか。キャッチ―なタイトルの本作は,これまでバーチャルリアリティというメディアに触れることのなかった消費者にとってはショーケースとして最良のコンテンツであり,この3月に開催されたGame Developers Conference 2017など,VR/ARゲームのイベントや授賞式では大きく称賛されている。

 最近,Owlchemy LabsはAdult Swim Gamesと提携して「Rick & Morty: Virtual Rick-ality」というゲームの開発に着手している。GamesIndustry.bizは,この新作のローンチを前に同社のCEOであるAlex Schwartz氏にインタビューを行い,この生まれたばかりのVRメディアにおける“言語”の習得などについて語ってもらった。

 「Job Simulatorの企画を練り始めたころは,ゲームの細かいコンセプトやゲーム体験として求めているものを何度も何度も練り直しました」と語るSchwartz氏。「すべてのゲーム体験で満足が行くものにするために,どれほど修正したり一からデザインを練り直す作業が必要なのかということを,当初は想像もしていませんでした」と続ける。

 VRの環境においては,ゲームを終了するというシンプルな操作でさえチャレンジになりえる。「いつしか,どうやってハブやメニュー,もしくはゲームの中核となるべき場所に戻るのがベストなのかを真剣に考えるようになりました。それ以前には普通に行われていた2Dメニューを引き出すという既存の方法に頼りたくなかったので,VR世界で利用されている動詞とはどういったものであり,それらの“VR言語”を使ってゲーム環境の中でどのように表現することができるのか,というイテレーション工程からはじめたのです。そうやっているうちに,ジョーク交じりで“ブリトーを食べる”というアクションをメニューに導入することを思いついたのです。すでに,モノを食べるというアクションそのものはゲームに存在し,レストランのメニューのようなシステムもありました。ですから,バイキング料理のように食べ物のセレクションをゲーム世界に表示して,プレイヤーがそれを手にして食べることで,オプションメニューを操作するという仕組みを思いついたのです」

「マルチプラットフォーム化を目指す我々の思いは,単に一つの収益源に頼るだけでは,ビジネスとして成り立たなくなってしまうという事実から始まっただけです」

 VRコンテンツの開発には,新しい思考やデザインへのアプローチが必要だが,Schwartz氏は多くのゲーム開発者はその部分で怠っていることが多いと語る。「VRゲーム産業が開花したばかりの現時点では,まだまだ表現できることは限られていますし,既存のゲーム業界が作り上げてきた手法を詰め込みがちです。PlayStationやXboxプラットフォーム向けのゲーム開発の経験を,そのまま意識もせずにVRに利用するのですが,大概の場合はVRゲームとしては粗悪なものになってしまいます」

 Schwartz氏は続けて,「良いVRゲームというのは,プラットフォームの強みと動詞の種類,そして6DOF(六方向の自由度)によるプレイヤーの動きとボタン操作だけで,まずプレイヤーが何をできるのかをしっかりと考えていることが必要です。そこからゲームを組み立てていくべきだと思います」と話す。

 Schwartz氏は,現在のVRゲーム開発現場を,どのような操作が適していたのかを考えあぐねていたタッチスクリーンが登場した頃と比べるが(彼らの多くはスクリーン上にバーチャルボタンを置くことを諦めた),最終的にスマートフォンのタッチ操作の,例えばドラッグ&リリースで何かを弾き飛ばすといった「Angry Birds」のアクションや,ストラテジーゲームのマップをピンチでズーンインやアウトするといったような,誰にでも受け入れられる操作のパラダイムやジェスチャーが開発されていった。

 「そういう“VR言語”については,すでにデザインパターンはいくつかでき上がりつつあるという状態です」と解説するSchwartz氏。続けて,「例えば,片手を背中に伸ばしてバックパックからインベントリのアイテムを引き出すというようなゲームシステムは,Cloudhead Gamesの「The Gallery」が先駆となって浸透しています。これらは,実生活での動きをそのまま模したようなもので,抽象性を覚える必要がないという非常に自然なインタラクションをベースにしたパラダイムですが,私はそれがカギになると思っています。先ほど話したタッチスクリーンでさえ抽象的な操作でした。2本の指を広げたり狭めたりすることでズームできるような地図は実際には存在しませんからね。ただし,幼児がiPadに手を伸ばしてタップすることで何らかの操作ができてしまうという事例もあるように,実際には存在しない伸縮性のあるタッチスクリーン内の地図でさえ,ある意味でナチュラルな操作であると言えるかもしれませんが」と話した。

 「しかし,私たちがVRの環境下において6DOFコントローラを使って行っていることは,そのインタフェースに抽象化されていない実世界のパラダイムを適応させているということなのです。そして,この新しいタイプのプラットフォームでは,異なる背景と異なる経験のレベルを持つ多くの人々に,この新しいプラットフォームに馴染んでいく道を開いているのです。ビデオゲームの経験がまったくない私の祖母にXboxのコントローラを渡したら,彼女は何もできないままゲームオーバーになってしまうでしょうが,自分に同化してしまうワンド型のコントローラを渡してJob Simulatorの世界に誘えば,実際に卵を割ってスープを作るといったような,非常にマジカルな現象が起こるのです」

 Owlchemy Labsの成功の鍵となったもう一つの側面は,VRゲーム開発における独自の言語にスポットライトを当てるだけでなく,Schwartz氏も「馬鹿げたマルチプラットフォーム」と呼ぶ,なんとも不自然なプラットフォームへのアプローチにある。彼らのそうした哲学は,ゲームスタジオがVRに飛び込む前に始まっており,「Snuggle Truck」や「Jack Lumber」のようなモバイルのタイトルに取り組んでいた頃から芽生えていたという。

さあ,お祖母ちゃんにJob Simulatorをプレイさせてみなさい

 Schwartz氏は,「マルチプラットフォーム化を目指す我々の思いは,単に一つの収益源に頼るだけでは,ビジネスとして成り立たなくなってしまうという事実から始まっただけです」と,過去についてざっくばらんに話し,「私たちの経営を救ってくれたJack Lumberをリリースしてから,AaaaaやDyscourseを開発し,そしてついにJob Simulatorへと行き着くまでに12種類もの異なるゲームプラットフォームに携わってきたのです」と語る。

 「私たちがやったことは,すべての卵を一つの籠の中に入れてしまうリスクを回避することです。どこかのプラットフォーム向けのセールスをしたり,Hamble Bundleに参加したり,Blackberry向けにディスカウントを行うというような多方面での販売を行っていくことにより,山あり谷ありの売上推移グラフもスムーズになっていくものなのです」

 当然ながら,Owlchemy Labsはこうして培ってきたアプローチをVR市場に持ち込み,「VR界のスイス」と自称するほどニュートラルな戦略を打ち立てている。平均的なスタジオのリスク回避という観点から言って,とくに設立されたばかりのスタートアップであれば,ゲームをできるだけ多くのプレイヤーが体験できることのほうが理に適っているわけである。「VRコンテンツを利用するとき,例えば電化製品店のデモをプレイしてみるといったときには,理想としてはOwlchemy Labsのゲームが表示されるのがよいですよね」と言うSchwartz氏は,さらに「VRはまだ誕生したばかりの市場であって,消費者はVRヘッドセットのAを選ぶか,はたまたBやCの製品を選ぶかとようなチョイスがあるのですが,将来的にその選択肢は増え,さらに数年後にはAからZまでのチョイスを強いられることになるかもしれません。そういう状況の中で,もしVRゲームの開発者であるあなたの最大の目標が,品質の高い製品に自分の作品を関連付かせることであることであるならば,どうして一つの選択肢に絞らなければならないのでしょうか?」

「VRゲーム市場の未来にとっても,そして自分の会社にとっても特定のプラットフォームに頼らないという我々のような方針を採用していくべきだと思います」

 Schwartz氏は,また「つまり,すべての市場の側面に関わりたいのであれば,特定のプラットフォームでのエクスクルーシブタイトルではなく,マルチプラットフォームへの方向に舵取りしなければなりません。現状ではエクスクルーシブにしてしまうと市場の3分の1しか見込めないわけです。Owlchemy Labsにとっては,これは半分は経済的な理由から,もう半分はマーケティング戦略として生み出していった指針です。もちろん,特定のヘッドセットと独占契約を果たしたメーカーに対して悪意を感じているといったものではありません」と話す。

 すでにOculus(関連記事)やHTC Vive(関連記事)との対話で聞き出していることだが,それぞれのPC向けVRヘッドセットの開発メーカーは独占契約に対して異なる見解を持っているとはいえ,ソフトウェア開発者にとっては,最後の手段であるべきだとSchwartz氏は主張しているのだ。

 「VRは過酷な現場です。まだまだその市場は小さいものでしかありません。もし,ビジネスとして破綻するか,もしくは独占契約によって開発資金の援助を得るなどして生き残るか,という二つの選択肢しかないのであれば,独占契約を選ぶことに躊躇することもないでしょう。しかし,もし独占契約をしないで済む経済状況なのであれば,VRゲーム市場の未来にとっても,そして自分の会社にとっても特定のプラットフォームに頼らないという我々のような方針を採用していきべきだと思います」と彼は語る。

 「もちろん,VRヘッドセットのプラットフォームホールダーたちが,故意に業界を破壊しようとしているとか,そうしたビジネス戦略面での批判を展開しているのではありません。そうしたことは,まったくないと思います。ソニー・インタラクティブ・エンターテイメントが,そうした独占契約という形の資金援助をしているのは周知のとおりですし,HTCもやっていますし,Oculus VRもそうなのです。それはVRゲーム業界にとっては一般的に言って良いことであるのは間違いありませんが,私はゲーム開発者としての観点から,このあまりにも制限された小さな海域でどのように舵取りをし,徐々にヘッドセットの浸透台数が増えて十分な市場に育つまで,現時点でどのように生き残っていくのかに主眼を置いてお話ししているのです」
(※編注:記事掲載後,Owlchemy LabsはGoogleに買収されることが決まった)

 Owlchemy Labsの最新作である「Rick & Morty: Virtual Rick-ality」は,パブリッシングをAdult Swim Gamesに委託することでスタジオにとってはリスクの低い投資となった。また,VRゲーム市場の現在地においては,テレビアニメなどのコンテンツをライセンスした作品というのはまだまだ少ないことも目を引く。しかし,これがOwlchemy Labsの今後のビジネスパターンになるというわけでもないようで,同社はオリジナルのIP開発に毅然とコミットしていくとSchwartz氏は述べている。

 「Rick & Morty: Virtual Rick-alityは,アニメの内容がOwlchemy Labsのやっていることとほぼ重なっているので,分野の異なるクリエイターたちと一緒になって,こんな表現をしてみようといったアイデアを出し合うような新鮮な体験を共有できました。我々もRick & Mortyのユーモアが大好きでしたからね」と話すSchwartz氏。「新しいIPのプロトタイプを最初から作り上げるまでの期間に,我々がすでに培ったノウハウを利用してRick & Morty: Virtual Rick-alityを開発する余力を利用することができたわけです。ですから,このビジネス案件は見逃すことができませんでしたね。おそらく,フル仕様のVR作品としてリリースされるライセンスゲームの最初の例になったかとは思いますが,これまではVRの魅力を引き出せていない,ちょっとしたデモ程度のライセンスゲームが多く投入されており,VRゲーム市場の拡大にネガティブに働いていたコンテンツも少なくなかったのです」


 Owlchemy LabsがユニークなVRコンテンツの開発に忙殺されていないときには,彼らはこのまだ始まったばかりの新しいメディアに触れていない消費者へ,どのようにアピールできるのかを考えていることが多いという。その公式サイトにも,“VRコンテンツの開発者が現在直面している最大の問題は,VRゲームをプレイしたこともない人に対して,このメディアの持つ魔法をどうすれば共有できるかということで,それが我々がMR(Mixed Reality)に関するノウハウを蓄えている理由なのです”と記されている。

 Schwartz氏は,「Job Simulatorのようなプロジェクトにとっては,消費者へのアプローチは避けて通れないもので,人々に広がりの感じられる別世界に立っているかのようなバーチャルワールドの疑似体験をしてもらう必要性が生じています」と説明する。続けて,「ゲームとそのテクノロジーの歴史の中では,かつてこのような難題に差し掛かったことは一度もありませんでした。VR世界について,人々に説明するのが非常に困難であり,“本当に試してみるべきですよ,ビックリしますから”などと薦めてみたところで,彼らが実際にVRヘッドセットを装着して体験してみなければ理解できないものなのです。しかし,MRを利用してVRコンテンツを紹介するという手法は,実際にヘッドセットで体験しなくても内容を理解してもらえるような工夫ができることが分かってきました。VRヘッドセットを利用したことのない人に,ある人物がゲーム世界の中に立ってさまざまなアクションを体験している映像をお見せすると,その雰囲気をうまく伝えられたのです」と話した。
(※編注:この記事中の“MR映像”とは,VRゲーム映像に,実際にプレイしている人の映像を合成する手法のこと)

 こうしてMR映像を利用した宣伝効果が,Job Simulatorが成長していく理由になったと思います。しかし,これはどんな開発者でもできることです。こうした映像を見た人のうち1人でも多くが実際に出かけてVRヘッドセットを試せば,その大部分がVRというメディアの素晴らしさを理解できるはずだからです」と彼は続ける。「私たちの考えは,私たち自身にとって有益なことであるのは間違いありません。しかし,それと同時にほかの開発者にとって有益なことを意味しています。そうした我々の努力が,少しでも新しく参入してくる開発者たちにとって,我々ほど苦労せずにVRコンテンツの開発に着手できるようになればと考えているのです」

 Owlchemy Labsは,まだ実際にそうした活動が,どのようにビジネス面で利益を上げられることになるのか,例えば,MRソリューションを販売したり,ライセンス供与したりといったことまでは十分に練っていない。「いずれはビジネスとして成立させたいとは考えており,可能な限り多くのニーズに対応したいと思っています。我々のやり方を伝授するためには100万ドルが必要だなんてビジネスを持ちかけても,それに納得してくれる人は少ないでしょう。ですから,世界中の開発者たちがVRコンテンツを制作して,このコンテンツ内容をMR映像として消費者に効果的に見せられるようにして,ビジネス面と業界の発展のバランスを取っていく必要があると模索しているのです」

「当初,我々が自分たちでLet’s Plays of VRと題した,粗悪な映像コンテンツをリリースしていたのを今考えると噴き出してしまいます」

 Schwartz氏は,PewDiePieのようなソーシャルネットワークのインフルエンサ―たちも,このVRという新興メディアにとっては非常に重要な利点をもたらすと考えている。VRがより多くの牽引力を獲得するにつれて,特定のVRゲームがどのようなものかを動画投稿サイトなどで紹介するストリーマーたちが出現することになるからだ。「こうしたストリーマーたちは,VRのような新しいコンテンツを紹介したいと常に考えています。その最良の方法は,部屋の片隅にWebカメラを設置して撮影したプレイヤーの動きを,実際のゲーム映像に合成させるという簡単なものです」とSchwartz氏は付け加える。そして,「当初,我々が自分たちでLet’s Plays of VRと題した,粗悪な映像コンテンツをリリースしていたのを今考えると噴き出してしまいます。ストリーマーたちが,我々の提供できるMR映像のノウハウを利用していただければ,こうした問題は簡単に解決できるはずなのですが」

 「ですから,開発者としての視点で見ると,我々は単にクールなゲームを作りたいと思っているだけなのであり,それをうまくほかの人に見せることが可能なMRテクノロジーを作り上げたいと考えているのではありません。そして,MR映像を消費者としての視点で見ると,おお面白そうだよね。この映像はVRの素晴らしさをほかのものよりもうまく表現しているな,と思っていただける結果を生み出せると考えているだけなのです」

 Owlchemy LabsがWindows 10とProject ScorpioのもたらすMRやARヘッドセットが台頭することを予期して,こうしたMRテクノロジーへの技術投資を行っていることを考慮すれば,Schwartz氏らが将来的な目標としてARコンテンツへの参入に躍起になっているように見えるだろうが,Schwartz氏自身はそれを否定する。実際,彼はVRについてはほとんど無限の可能性を感じているが,ARは近いうちに解決されなければならない創造的かつ技術的な課題に直面していると信じている。

 「まず第一に,誰もが通常の環境で本当に使いたいと思える質の高いARに触れられるのは,人々が思っているよりずっと時間がかかると考えています。基本的には,実世界という背景から消費者を切り離しやすいVRは,私たちに人々がどのように交流することになるのか,もしくはどのようにVR世界の中で活動するのかについての一つのさまざまな情報を与えてくれます」というSchwartz氏。「しかしながらARは,背景となるべき黒い部分が削除されており,空間を学習しなければならないという宿命を持つ自己完結型のヘッドセットで,現実世界をリアルタイムでトラッキングするわけです。我々はまだ,ARに起きえる発熱やバッテリー,そこから起こりえるフレームレートに関する問題まで基本的なことさえ理解できていない状態なのです。ARがゲームプラットフォームとして利用できるのには,まだ5年ほどはかかるだろうというのがOwlchemy Labsの見解ですね」

 Schwartz氏は,MicrosoftやほかのARプラットフォームメーカーが,AR言語の辞書を混乱させているのではないかと指摘する。「Microsoftは,ARをアップグレードするという意味合いで,単純に“複合現実感(MR)”という言葉を使用しています。それは,おそらく多くの消費者にとって,ARといえばスマートフォンのカメラをQRコードに向けて,自動車広告を自分の部屋に出現させるといった他愛のないものにしか利用されていなかったという悪印象とは距離を置きたいという理由からでしょう」と彼は分析した。クリエイティブな観点から言えば,多くの開発者は地図のナビゲーションシステムやLinkedInのような人々のプロフィール表示といったこと以外に,ARコンテンツの将来的なビジョンについての明確なビジョンは持っていないとSchwartz氏は考えているのだ。

「ARは,まだ技術者の多くでさえそのフォームファクターを完全に理解し切っていないために,無限の可能性を秘めた青い海のように見えますが,実際にどんなアプリケーションが必要とされるのか,何を人々が欲しているのかさえ判別していないのです」

 「消費者の皆さんにVRの特質をうまく伝えるためには,MR映像以外にも素晴らしいアイデアは何十種類も考えることができるでしょう。まだ技術者の多くでさえそのフォームファクターを完全に理解し切っていないために,ARは無限の可能性を秘めた青い海のように見えますが,実際にどんなアプリケーションが必要とされるのか,何を人々が欲しているのかさえ判別していないのです」とSchwartz氏は続ける。「まだ,完全に地に足がついていない状態で,その期待ばかりが膨らんでいるような状態でしょう。インプットデバイスやゲームコントローラはどのような形状になるのかといった,ハードウェアの改良はもちろんのこと,ARヘッドセットが我々の生活やエンターテイメントを確変させることが明らかになるような実験作品がリリースされるまで,懐疑的でいることは悪いことではないと思います。HoloLenzは,トラッキング性能の良さからARヘッドセットとして消費者に出回る最初の製品になる可能性は大いにありますが,それなくして生活できないというようなものにはならないでしょう。現時点では,狭い視界領域に上乗せされた追加情報でしかありません。この視界領域を3倍にすることでさえ難題は多く存在しています」

 その半面,Schwartz氏がVRの未来について興奮してしまうのは,次世代のVRヘッドセットがどのように変化していくのかを考えているときであるという。おそらく,ほとんどの人は次の大きなステップを踏みだすVRヘッドセットが登場してくるという予感さえ感じていないだろうし,スマートフォンが革新されて,より良いポジショナルトラッキングシステムを有したVRデバイスに変化していくと考えている人もいるであろう。しかしSchwartz氏自身は,自立型のスタンドアロンユニットとして市場に定着すると見ているようだ。

 Schwartz氏は,「我々のポケットに入っているスマートフォンは,ハイエンドなCPUとGPU,そしてカメラや加速度センサーなどを搭載した800ドルもするような高性能なものですが,それがVRデバイスが通る道とは思えません。多くの人は第3のフォームファクタに向かうでしょう。スタンドアロンです」と語る。

 「携帯電話の内外のカメラを使ってトラッキングを行うことには大きな問題があります。本来,カメラは家族やペットの写真を撮るために構築されたものです。ハードウェアに直接情報を送る,レイテンシの低いトラッキング機器ではありません。SamsungのGear VRでは,電話としての機能が使われることは少なくなっていますが,ヘッドセットとして利用する際のセンサーの利用はより多くなっています。それはつまり今後VRヘッドセットのメーカーは電話機能を削除してしまい,VR専用のデバイスを構築していく公算が高いということです。それはバッテリーやプロセッサを備えた単体製品として購入できるものになります。それを頭に取り付ければ,ゲームをプレイしたり,あなたがやりたいことならどんな体験もできるのです」

 そういったデバイスが登場する時点で,Schwartz氏はVR市場が爆発的に拡大していくと見ている。「そのときは,今のVR市場の収益や販売本数の10倍,100倍の数値が突然のように見られるような状況になるはずです。この数年で,そうしたフォームファクターの戦争が起きるというのが我々の予想するところです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら