第3回ウェアラブルEXPO開催,リストバンドのバイタルデータ取得は新次元に

 2017年1月18日,東京ビッグサイトで「第3回ウェアラブルEXPO」が開催された。ウェアラブル機器と関連技術の展示会は年々規模を拡大しており,今回は東京ビッグサイト西ホール2階の半分を占めるまでになっている。

 ウェアラブル機器というとARタイプのHMDなどを連想する人が多いと思うが,情報表示型のメガネ端末はすでに産業用では実用段階に入っている感じだ。ゲームで本格的に使えたり,電脳メガネ的な展開を期待するにはHoloLenzやGoogle Glassを待たなければならないかもしれないが,さまざまな基礎技術はできあがりつつある。



普通のメガネと変わらないデザインのHMD実現か


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 では今回の展示で目に付いたものを紹介してみたい。
 アイウェア系の展示は会場のあちこちで見られるが,あまり新しい展開はない。すでに実用化が進んでいて,ソリューションが紹介されているような段階だ。そんななかで福井大学の超小型光学エンジンは今後の展開が楽しみな研究だった。
 照射型のメガネ型ディスプレイを普通のメガネと変わらないサイズ,デザインで実現しようという試みだ。照射型のシステムでは光源の光をMEMS(DMD)に照射してメガネレンズに反射させ,網膜まで届けるわけだが,その光学エンジンを超小型化している。三方から照射される小型のRGB半導体レーザーの光路を1本にしてDMDに当て,DMD表面のミラー制御で画像を作り出す。ここまでの部分が,下の写真のように従来品と比べて格段に小さくなっていることが分かる。今後制作予定のモノはさらに小さくなる。

左上が普通の光学エンジン,右が試作版の小型化された光学エンジン,左下はこれから開発される予定のエンジンのモックアップ
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 なお,小型化しても画像の解像度などに変化はないという。小さい分,省電力化は図られるが,画像の明るさ自体は変わらず,目への負担は減ると,いいことずくめの内容だ。
 まだ試作機も展示されていない状況だが,光学エンジンだけなら1,2年で実用化,メガネに組み込んで製品化までだと4年くらいかかりそうとのことだった。今後の展開に期待しよう。


スマートグラス型HMDで独自路線を進むエプソンは,昨年末発売されたBT-300と並んで,その商用モデルとなるBT-350を参考出品
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こちらはボストンクラブによる着脱が容易なneoplug式HMD。現在,クラウドファンディグFAAVOさばえで,neoplugの資金調達が行われている(参考URL)。専用フレームや対応HMD「Vufine+」などをセットにして5万円だ
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フィジオテックによるアイウェア型のアイトラッキング機器
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身体の状態を計測する衣服


ミツフジの着衣型生体センサー
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 展示として目立っていたのは導電性繊維を使ったバイタル(生体情報)センサー付きの衣服だ。最初は繊維が展示され,昨年はさまざまな衣料製品が出てきて今年はさらに広がっているといった感じだ。昨今では心電図を取るソリューションはいろいろ出てきているのだが,金属電極やフィルム電極よりも着心地を重視したものが増えてきている。これらの製品では肌着を着るだけで心電図が取れるようになっているという。
 銀を使った繊維を軸に製品を展開していたミツフジの場合だと,洗濯などで劣化は発生し,連続使用は3か月くらいが目安になるとのこと。医療用などでの利用なら十分実用段階といえるだろう。
 トレーニングウェアに心拍計を組み込むような製品はあちこちにあり,もはや目新しいところはない。精度や使い勝手,付加機能などでの差別化が望まれる。

東洋紡のCOCOMIは伸縮性のあるフィルム電極を布に圧着するタイプのソリューションで,これを使った心電計付きアンダーウェアは,ジェル式の電極と同程度の精度で心電図を測定可能という
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 それらとはちょっと違った衣服系もある。写真は服の動きから体の動きを計るという,関西大学と帝人のソリューションだ。この手のものは,曲げると抵抗が増す系のセンサーを縫い込んでいるものがほとんどだったのだが,これは繊維自体が圧電素子となっている紐を縫い込んでいる。ゴルフの肩などの動きを見るシステムでは10個のセンサーが使われているとのこと。写真のように多少余裕のある状態でも大丈夫とのことで,スイングフォーム矯正などに活用される。それなりの精度が出ているようだ。
 同様の紐を使った別の応用例として紹介されていたチョーカーでは,首に巻きつけることで脈拍や食事の際の嚥下などが検知できるとのこと。
 チョーカーもそうだが,そういう繊維を「組み紐」の形で使うことで,類似のセンサーとは違った特性を与えられるというのも興味深い。紐の組み方で縦方向や横方向に指向性を持たせた感圧≒動きの検出ができるのだ。



運動量計,そして心拍計のさらに先へ


 スマホのおかげで加速度センサーなどが小型・低価格化したために,それらを使った活動量計を仕込んだリストバンドなどが一時海外で多く出ていたのを覚えている人もいるだろう。ただ,それは何年か前に流行った潮流だ。最近では,皮膚に光を当てて,透過光の変化で血液の流れ=脈動を計る技術が一般化したことで,腕に取り付けるタイプの活動量刑はほとんどが脈拍や心電図の計測に対応してきている。今回はそこからさらに一歩先に踏み込んでいる例をいくつか紹介したい。

 まずは基本となるところでMIO SLICEからだ。これは活動量計と心拍数を組み合わせてPAI(Personal Activity Inteligence)という独自の指標を使った健康管理を行うリストバンドだ。心拍数を主な基準として運動負荷を計測し,PAIという単位で数値化してくれる。を1日に必要な運動量は100PAIとされている。激しい運動時でも,心電計と比べて95%の精度を誇るという。ソフトウェア的な部分が主眼となるシステムだが,ハード的な部分で言えば現状の技術動向では現時点のベースラインといった感じの製品だ。

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 さらに台湾Maxwell Guiderの製品では光学的に測定した血液の流れから血圧を推定する機能が加わっている。会場の掲示ではさらに血糖値も計れるとなっているのだが,パンフレットなどには血糖値の項目はないので,なんとなく間違いではないかと思われる(基本的に心電計であり,計れそうな気がしない)。心拍数,心電図,心拍変動などの基本的な情報からストレスや体内年齢,脳梗塞のリスクなどを算出する機能も備えている。精度や信憑性はともかく,野心的な製品といえるだろう。

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 米NANOVIVOのブースでは,白色光を皮膚に照射して透過光から体組成を割り出し,水分量,脂肪,コラーゲン,抗酸化物質,蛋白質などの割合を表示し,体調の管理ができる製品が展示されていた。

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 ウェアラブル製品ではないのだが,同時に出展されていたのは光を当てて透過光で吸収スペクトルから物質を割り出すという装置だった。この手のものでは世界最小になるという。デモでは,見た目には透明な液体なのだが,レンズの上に乗せるとスペクトルを解析してシクロヘキサンだと表示されていた。さらに薬の錠剤を置くと,その成分が表示されるというミラクルなシステムだ。そのような技術をウェアラブル機器に展開したのが先ほどの製品となるわけだ。この技術なら血糖値の測定も可能なのかもしれない。

 このように,さまざまなバイタルデータが取れるようになると,ゲームの入力情報としての活用も期待できるかもしれない。


無電源で動くウェアラブル機器


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 SII(セイコーインスツル)のブースでは,電源を使わないウェアラブル機器が提案されていた。その原点となるのは1998年に発売された「体温で動く腕時計」SEIKO THERMICだったという。その発展版として開発されたのが,微弱な電力を3万倍にブーストする「CLEAN Boost」というデバイスだ。会場ではその実装例がいくつか示されていた。

 まず,発電菌を利用したソリューションである。発電菌とは見たまんまだが発電を行う細菌だ。とくに珍しいものではなく,田んぼなどに普通にいるものらしい。それらが作っている電気を地中から取り出して使ってやろうというのが,デモの内容である。茨城の田んぼから直送されたという泥の中に金属棒が立っているのが分かるだろう。水槽の下部には電極が入っており,発電菌による電力を集めて,ある程度電力が溜まるとセンサーの情報を無線で発信するシステムになっている。デモでは手袋にもう一つの電極が取り付けられているが,どちらかというと固定設置で使われそうなシステムだろう。

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 もう少し分かりやすいのが太陽電池を使ったシステムだ。太陽電池を使った脳波計付きサンバイザーをつけて発電し,バイザーに付けられた脳波計と紫外線センサーの情報を無線で送信する。そのほか体に貼り付けて,汗に含まれる乳酸に反応して発電する酵素によって運動中に無電源でセンサーの情報を送るシステムなども展示されていた。
 一般ゲーマーにももう少し馴染みがありそうなのが,手の温度とクリックの振動で動作するというマウスだ。
 このマウス,持ってみると非常に重い。手のひら部分にペルチェ素子(熱伝対)がびっしりと入っており,マウス状の鉄塊かと思うくらいの重さで驚いた。一応,振動発電も行われているが,大半はペルチェ素子で発電されるとのこと。
 ただ,ペルチェ素子を詰め込んでみたものの,必要電力の10分の1くらいしか発電できていないとのことだった。ローラーなどでマウス自体の動きも拾えばよいのだろうが,現状ではしばらく握って電気を溜めておいても10秒くらいでマウスの動きが止まる。まあ,本気で無電源のワイヤレスマウスを作ろうとしているわけではないが,作り込みはかなりガチな感じではあった。
 超を付けてよいほどの微弱電力を集めるシステムであり,用途は限られるが,無電源への挑戦はウェアラブル機器にとっての新しいテーマとなるかもしれない。

左がCLEAN Boostモジュール,右が無電源ワイヤレスマウス
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ウェアラブルEXPO公式サイト