2016ゲーム業界動向まとめ:コンシューマゲーム機市場はどこへ向かうのか?

この記事はGamesIndustry.bizの年末年始企画の一環であり,年間を通して最も注目すべき話題を分析しています。
2016年度は,コンシューマゲーム市場のハードウェア更新周期における新しいビジネスモデルが導入された。これはゲーム業界にとって何を意味しているのだろうか?

 市場に8年近く出回った前世代のコンシューマ向けゲーム機(Xbox 360およびPlayStation 3)を例外として,これまでのゲームハードウェアはおよそ5年から6年の周期でアップデートされてきた。しかし現世代のものは,おそらくはVRハードウェアをスムーズに作動させるために必要な,ハイエンドグラフィックスカードの急激な進化の影響だろう。それを最も大きな理由として,Microsoftとソニー・インタラクティブエンタテインメントの双方が,伝統的な周期の中間地点でのハードウェアのイテレーションをテストしている。
 PlayStation 4 Proと,2017年度にも販売開始するXbox One Scorpioは,これまではPCプラットフォームでわずかな消費者が体験していた4Kゲーミングを,コンシューマゲーム機で体験できる機会を与える。さらに重要なのは,HDR機能の追加によって,より幅の広い色域を持つビジュアル表現を,プレイヤーたちが体験できるということだろう(編注:HDRはPS4,Xbox One Sでもサポート)。

 Xbox One SやPlayStation 4 Slimモデルの発売も踏まえ,オリジナルハードウェアがリリースされてから,これほどの短い期間の間にいくつもの新作デバイスが登場したというのは,これまでゲーマーたちも経験したことはないはずだ。Xbox OneとPlayStation 4どちらのハードウェアも,オリジナル版はほんの3年前に発売開始したばかりなのだ。こうした変化は,一つの疑問を投げかける。これまでのような周期でコンシューマゲーム機が発売される慣習は廃れてしまうのだろうか?

 2016年と,Scorpioがリリースされる2017年は,確かにゲーム市場でのテストを行うには興味深い1年になりそうだ。現段階ではPS4 Proがどのような成績を収めるかを見極めるには早すぎるが,Xbox One Sはよく売れており,今年の数か月間はXbox Oneプラットフォームの売り上げがPS4プラットフォームを超えたこともあった。

 かつてActivisionやWarner Brothers Interactive Entertainmentなどでパブリッシングサイトの業務に関わった経歴を持つNPDのアナリストMat Piscatella氏は,「廃れてしまったというわけではなく,進化しているという表現すべきでしょう。任天堂は,早いペースでのハードウェアのイテレーションを以前から携帯ゲーム機で採用していますが,Switchに関してどのような手法を取り入れるかには注目しておきたいと思います。Switchを発売して,12か月から18か月後には新モデルをテストしてくるという可能性も十分にあるでしょうね」と語る。

「新しいハードウェアアーキテクチャは,今後も5〜7年という周期でリリースされていくかもしれませんが,そのライフサイクルを通してキーコンポーネントのアップデートを年次で行っていくことは十分にありえます」

 Piscatella氏ははまた,「任天堂が過去に携帯ゲーム機で行っていたアプローチは,スピード感のあるハードウェア更新が十分に成功できる機会があるという証拠です。しかしながら,PS4 ProやScorpioのような後継ハードウェアは,消費者にとっては値段が高いながらも,今後もより意味のあるパフォーマンスのアップグレードを実現していくようになると思われます」と続ける。

 「ハードウェアの更新をよりイテレーティブ(短期反復的)にしていくということは,しっかりとした市場でのアクションプランが要求されるということで,これまで以上に完璧に戦略を遂行していくことが必要になってきます。ゲームソフトウェアの開発リソースと,イテレーティブなローンチを行っていくうえでハードウェア研究開発にもたらされるさまざまなチャレンジのバランスを取っていかなければならず,サプライチェーンの調整から実際の生産,そして十分な量を各リテールチェーンに配送できるだけの流通システムだけでなく,その価格やローンチ時のプロモ―ションといったプログラムまでを同時に行っていかなければなりません。さらには,異なる消費者層に訴えかけられるだけのメッセージを効果的にマーケティングしていく必要があり,これがプラットフォームホルダーにとっての大きな頭痛の種となっていくでしょう」

 業界関係者の中には,スマートフォンが一年に何度も高速でアップグレードされるようなシステムを真似て,今後は我々消費者は毎年のように新作ハードウェアの登場に接していくことになるという見方もある。コンシューマ機市場はさらに流動的なものになっていくことは十分に予想され,そうした新しいハードウェアの頻繁なリリースが,どのテクノロジーを選ぶか,どのタイミングでリリースするかといったことにまで,ゲーム開発者たちに難しい選択肢を与えていくことになるだろう。

 そのことから,Piscatella氏もコンシューマ機の更新周期でリリースされていくハードウェアはそれほど多くないと考えているようだ。「私は,新しいハードウェアの急速すぎる展開は,ゲームソフトウェアの開発にもたらす困難さから,あまり意味のあるものだとは考えていません。ビデオゲームを作るのはそう簡単なことではなく,二つのハイエンドプラットフォーム向けの異なるデバイスの仕様に,細かいオプティマイズを施していくというのはさらなるチャレンジであるのです。同じコンシューマプラットフォームで三つも四つもの異なるバージョンが存在するというのは,それだけ収益を減らしてしまうことにつながりかねません」と解説する。

 リサーチ会社SuperDataのJoost van Dreunen氏は,これまでのような伝統的な形でのハードウェアのサイクルは,コンシューマ機ゲームビジネスにおいては残されると見ているが,Piscatella氏の意見とは異なり,プラットフォームホルダーたちはより継続的にハードウェアのアップグレードを進めていくものと見ている。


 モバイル端末機に見られる継続的なハードウェアのイテレーションは,消費者マインドを大きく変化させ,より大きな市場にインタラクティブなエンターテイメントを浸透させたのだと力説するvan Dreunen氏は,「ソニー・インタラクティブエンタテインメントとMicrosoftの双方が,長期的にVR/AR市場を育てていこうと考えている限り,彼らは自分たちの開発部門以外で行われている技術革新にも,自ずと目を向けていかなければいけません。つまり,新しいハードウェアアーキテクチャは今後も5〜7年という周期でリリースされていくかもしれませんが,そのライフサイクルを通してキーコンポーネントのアップデートを年次で行っていくことは十分にありえます」と語る。

 続けて,「この自社内部での独自のハードウェア開発と,外部で発展するトレンドを融合させていくというアプローチは消費者からも好まれるはずで,コンシューマゲーム機がいずれ淘汰されるという憶測を打ち破っていくこともできるでしょう。PlayStation 4もXbox Oneも成功を収めている今,ここに任天堂のSwitchが加わるとなると,その勢力争いが今後しばらくは沈静化することがないでしょう」と話した。

 これまで,コンシューマ機ビジネスにおいてはスタンダードとなっていた5〜7年という周期は,ゲームソフトウェアを開発する者にとっては決められたスペックにオプティマイズする時間的な余裕があるという恩恵になっていたが,今後我々が目の当たりにしていくことになるであろうイテレーティブなアプローチにもそれなりの長所はある。Piscatella氏が解説したように,ゲーム機の頻繁な仕様アップデートは,ハードウェアセールスの停滞を防ぐ要因となり,そのビジネスサイクルをさらに長期的なものにしつつ,これまでのハードウェアの進化のたびに見てきた開発コストの増大を防ぐことで,ソフトウェア開発者にスケーラブルに開発環境への投資を行っていくことを促せるからだ。

 さらに言えば,例えばXbox One,Xbox One S,そしてScorpioといったような同じアーキテクチャでも複数のデバイスモデルを提供することで,その用途の違いを価格と性能で比較できるようになるため,コアゲーマー層とマスマーケットの両方にアピールできるはずだ。これをPiscatella氏は,「フリーサイズ的なアプローチをとる必要がなくなるのです」と形容している。

 イテレーティブなリリーススケジュールはまた,コンシューマ用ゲーム機の製造元にとっても,そのプラットフォームのエコシステムとゲーム体験を一貫して提供していく限りは,異なるデバイスの平均価格が上がることで収益を最大化させることもできるために,非常に意義のある手法に見える。ソニー・インタラクティブエンタテインメントとMicrosoftにとっては,顧客がどのバージョンのハードウェアを持っているのかに関わらず,PlayStation NetworkとXbox Liveへの投資を続けてらうことができるのであれば,それは成功であると言えるだろう。実際にデジタルセールスの収益も毎年のように上がり続けていることから見ても,もはやハードウェアプラットフォームはデジタルのエコシステムよりも重要ではないのは明白だ。

 「コンシューマ向けゲーム機市場の中心にあるのは,それがコンシューマ用電子機器市場であるということです」と念を押すvan Dreunen氏。「しかし,ここ最近ではアパレル業界の手法さえも取り入れるようになっており,サラリーをもらって仕事をしている内部のデザイナーを利用するだけでなく,外部のアトリエ的なスタジオから発生するトレンドも盛んに取り込むようになっています。コンシューマ向けゲーム機のプラットフォームホルダーは,最近ではPCやモバイルゲーム市場で発展したデジタル流通システムやFree-to-Play型ビジネスモデルを採用しています。このホリデーシーズンのゲーム販売のトレンドからは,27%の販売総数がフルゲームのダウンロードだという結果が見られます。これは2012年から見ると5%の上昇であり,ほぼ70億ドルほどをコンシューマ向けゲームビジネスに計上しているのです」とし,「FIFAやGrand Theft Auto,Call of Dutyといったタイトルはデジタルセールスの成績が非常によく,顧客のアタッチメントの長期化にも成功しています。このトレンドをさらに利用していくことによって,ハードウェアビジネスをさらに改善していくことができるはずです」と続けて語った。

「もし,消費者が一つの世代でイタレーティブに展開する複数のデバイスを購入することになれば,それは消費者がソフトウェアやDLCなどのコンテンツにより多くの購入資金を投入することになるのでしょうか?それとも,購入資金は減ってしまうのでしょうか?」

 デジタル流通への優先度の高さは,PlayStation NowのストリーミングをWindows搭載のPCでも可能にしたことや,WindowsだけでなくMacでリモートプレイを楽しめるよう調整した,ソニー・インタラクティブエンタテインメントの動向を見ても分かる。もちろんMicrosoftは以前からPCスペースでの多大な投資を続けていたこともあり,Windows 10はXbox Play AnywhereによってPCとXboxハードウェアの垣根を取り払い,Xboxのエコシステムを多角化させるのに成功している。

 実際,Xboxを総括するMicrosoftのPhil Spencer氏は,ゲーマーがWindows 10でプレイしようがXbox Oneでプレイしようが気にしないという。2017年度にゲーマーたちがScorpioに移行しなくてもまったく心配していないとさえ考えている様子だ。

 「我々コンシューマ向けビジネスを展開する者にとって,ハードウェアを売ることが重要なのではありません」とE3 2016で筆者とのインタビュー(関連英文記事)に応えてくれたSpencer氏は,「このビジネスは,ハードウェアのインストールベースにどれだけのアタッチメントをできるかというビジネスです。Xbox Oneを3年前に購入した顧客は我々にとっては重要ですが,さらには彼らが現役でサービスを利用していることが重要なのであって,だから我々は月間アクティブプレイヤー数を最重要視しているのです。月間アクティブプレイヤー数の動向は,我々のエコシステムの健康値とも言えるものであり,Xbox Liveのネットワークを利用してゲームソフトで遊んだり購入してもらうために,大きなインストールベースが必要なのです。我々は1年や2年ごとに新しいハードウェアを出すことを想定してビジネスを展開しているのではありません。その正反対といってもよいでしょう。もし,あなたの利用しているハードウェアでより長く我々のエコシステムの中にいて,プレイしたり購入してくれているのであれば,それが最良のゲームビジネスと言えるでしょう」と話していたことがある。

 もしも,ハードウェアの頻繁なイテレーションがコンシューマ向けゲーム機市場の新しい現実であるのなら,パブリッシャにとっては非常に良いことである。「Electronic Artsのようなパブリッシャにとっては,信じられないほど肯定的なビジネス戦略の進化として考えることもできますね」とする同社のグローバルパブリッシング部門のLaura Miele氏は,去る6月のEA Play Conference(関連英文記事)において,「ゲームハードウェアの周期の始まりと終わりがないということは,ゲームパブリッシャだけでなく,我々の顧客にとってもポジティブなことだと考えられます」と語っていた。

 これについてはTake-Two InteractiveのCEOであるSrtauss Zelnick氏も同意しているようで,「頻繁なハードウェアのイテレーションは,ハードウェアのことをそれほど意識することなく消費者に集中できるという意味でも,我々にとって好ましいことです」とし,テレビ番組と同じであると表現する。「テレビ番組を作るときには,どのモニターで視聴されるとかと意識しませんよね。1964年の番組を,最新鋭の4K解像度を持つHDTVでプレイすること視聴することだって可能ですが,ハードウェアを意識することなく良いコンテンツは作られ続けているのです」と話す。

 Zelnick氏はまた,「将来的には,ハードウェアは背景の一部分のようにさえなっていく」と語っている。確かにそうかもしれない。近いうちに,高いグラフィックス性能を誇るゲームであっても,どこでもどんなデバイスを使ってもプレイできるようになるだろう。そもそも,その頃にはゲーム機という概念さえ残っているのだろうか? Netflixが登場した放送業界のように,ネットワークやコンテンツ制作者は残されるだろうが,ハードウェアについては誰も意識しなくなっていくのではないだろうか?

 ゲーム機のイテレーションがもたらす世界をパブリッシャたちが歓迎している一方で,NPDのPiscatella氏は問題も起き得ると慎重になっており,「もし,消費者が一つの世代でイタレーティブに展開する複数のデバイスを購入することになれば,それは消費者がソフトウェアやDLCなどのコンテンツにより多くの購入資金を投入することになるのでしょうか? それとも,購入資金は減ってしまうのでしょうか?」と問題提起する。

 「消費者を含めてゲーム業界に関わる皆さんにオープンにお聞きしたいことなのですが,エコシステムに再投資するためにゲームを買うのでしょうか? それとも,決して多くはない資金を新しいハードウェアを購入することに使うのでしょうか? その答えは,今後12か月から18か月にかけてゲーム市場の動向が応えてくれるはずです」とPiscatella氏は結んだ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら