任天堂のハードコアファン以外にSwitchを購入するゲーマーはいるのだろうか?

アナリストたちは任天堂の新しい家庭用ゲーム機の展望を考察しつつ,Switchが誰をターゲットにしているのかに興味を示している。

 任天堂がようやく「Switch」と命名された新しいハードウェアを正式発表したが(関連記事),多くの人がより詳細を知ることを望み,任天堂のストラテジーに関するいくつかの疑問を抱いたに違いない。本誌では何人かの業界アナリストとコンタクトを取り,任天堂が前進していくうえで立ちはだかるでろう潜在的な問題について話してもらった。
 とくに重要だと思われるのは,この新しい製品で任天堂は誰をターゲットにしているのかと,来年にも,Microsoftが「Scorpio」を,そしてソニー・インタラクティブ・エンターテイメントが「PlayStation 4 Pro」というよりパワフルなゲーム機をリリースするという状況において,同社がどのようにSwitchをポジショニングするのかということだろう。

 「任天堂から公開されたトレイラーを見る限り,Switchはスマートフォンの携帯ゲーム機市場への侵略を食い止めつつも,家庭にあるテレビの大型画面でも十分にゲームを楽しめるコンシューマゲーム機としてもアピールされるものになっていました。異なる利用をカバーできるフレキシブルなソリューションを念頭にデザインされているようですが,しかし,すべてのプレイヤー向けにすべてのことをカバーすることで,一つ一つの要素の基準を落としてはいけないと思います」と語るのは,リサーチ会社HISでHead of Game Researchという役職にあるPiers Harding-Roll氏だ。同社は,Switchが発売される2017年3月に予定されているグローバルローンチでは,285万台ほどが販売されているだろうという予想を立てている。

「Switchがターゲットにしている層の幅に関しては,いくつかの着目できる点があります。しかし,これであればヤングアダルトの代わりに未成年をトレイラーで使ったほうが賢明だったと思いますね」
Joost van Dreunen氏

 「興味深いことに,Switchのトレイラーに出演している役者たちの身なりから,まだ若い成人層をターゲットにしていることも分かりますが,これは任天堂が新プラットフォームの初期段階においては,伝統的に,より購買力の高いコンシューマ機ゲーマーでありつつ,スマートフォンや携帯ゲームを利用することにも躊躇しないヤングアダルト層にシフトしている様子がうかがえます。これを見る限り,任天堂は以前よりもサードパーティのタイトルを拡充し,マルチプラットフォーム型のゲームも以前に増してサポートする体制を採用することにしたのではないでしょうか。これは,ヤングアダルト層にアピールするためには欠かせないことなのです」

 サードパーティからの協力の取り付けは,すでに良好に進んでいるようだ。Wii Uのローンチの際には,同機種をサポートするパブリッシャやデベロッパの数はたったの21社だったが,Switchはすでに50社近くをリストアップしている。もちろん,「サポート」というのは非常にあいまいな定義であって,変更されやすいものではあるが,ゲーマーたちのお気に入りのサードパーティと協調するという意思を任天堂を打ち立てているのは,消費者によっては強いメッセージとして映るはずだ。
 DFC Intelligenceのリサーチャー,David Cole氏は,「任天堂が今やるべきことは,ゲーマーたちに対してしっかりとしたメッセージを放つことです。ただし,今回リリースされたトレイラーだけでは,“よくあるコントローラ付きの新型タブレット機”と誤解されかねないものでした」と話す。

 Harding-Rolls氏も,「任天堂が,潜在的な購買層に対してどのようなメッセージでマーケティングを行うのかが重要なカギになるでしょう。Wii Uの最大の失敗点は,ここにあったと言えますから」と語る。

 SuperDataのJoost van Dreunen氏は,自分たちがターゲットとする購買層をさらに具体的に示すべきだと確信しているらしく,「Switchがターゲットにしている層の幅に関しては,いくつかの着目できる点があります。持ち運びをしやすいSwitchはおそらく,10代の若いゲーマーたちに最も人気のあるゲーム機になるでしょう。一見すると,これまでの任天堂のゲーム機ほどオモチャっぽくはないですが,車の後ろで対戦する様子や一つのコントローラを複数のゲーマーがシェアしているというのは,これまでの任天堂のプレイヤー層には馴染みのある雰囲気を演出しています。しかし,これであればヤングアダルトの代わりに未成年をトレイラーで使ったほうが賢明だったろうと思いますね」と話した。

 任天堂のビジネスにとって,スマートフォンによるモバイルゲームの隆盛に大きなインパクトがあったのは明白であり,同社も「Super Mario Run」などのモバイルゲーム開発を率先して手を付け始めている。しかし,このアプローチは,Switchに転換していくうえでの飛び石の役割になるのか,それとも究極的にはSwitchの市場を共食いしてしまうことになるのだろうか?

「すでにモバイルゲーム市場に移行しているカジュアルゲーマー層を,任天堂が再び奪い取るのは至難の業であると思います」
Dr. Serkan Toto

 アジアのモバイル市場に詳しいSerkan Toto博士は,任天堂のSwitchについてはかなり懐疑的になっているようだ。「2016年度において,ポータブルとコンシューマ機の折衷型ゲームハードウェアというのは,それほど革命的なことではありません。私が心配しているのは,このSwitchがターゲットにしている消費者層です。任天堂のハードコアファン以外にSwitchを購入するゲーマーはいるでしょうか? Switchには,ゲーマーを魅了するフィーチャーがあるようには見えず,すでにモバイルゲーム市場に移行しているカジュアルゲーマー層を,任天堂が再び奪い取るのは至難の業であると思います」と話し,「例えば日本では,すでにモバイルゲーム市場はコンシューマ機ゲーム機市場よりも2〜3倍は大きくなっています。PlayStation 4でも困難を極めているほどですから,このトレンドを反転させるのは非常に難しいことに違いありません」と続けた。

 Super Mario Runは,それほど違いを生むものなのであろうか? Toto博士は,「単価の安いモバイルゲームや基本プレイ料金無料のゲームシステムに慣れている人は,合計で数百ドルもかかるハードウェアやソフトウェアに支払うのを躊躇するでしょう。コンシューマ機の市場とは根本的に異なり,二つへの架け橋を作るのは非常に難しいのです」とも語っている。

 こうしたことに加えて,Switchのローンチに際しての大きな要素となるのが,その価格である。Wedbush SecuritiesのMichael Patcher氏は,これに関しては「価格はハードウェアのスペックに大きく左右されるもので,Switchの成功はスペックと価格の微妙なバランスの上に成り立っています。PlayStation 4ほどのスペックを持っているのであれば,249ドルあたりか,高くても299ドルでローンチされるはずです。それよりもスペックが低いのであれば,導入価格も低くなければなりません」と解説する。

 「SwitchのスペックがPlayStation 4と同等のものになれば,任天堂はサードパーティにとってのゲームの移植を簡単で安価なものに設定することとなり,より多くのサードパーティの賛同を得られるようになると思います。スペックが低いものであれば,それに合わせた移植が必要になり,移植は割高になってしまうからです。ですから私の予想としては,スペックと価格がPlayStation 4と同等であれば,Switchは多くのサードパーティの協賛を得て,それなりのヒットにつながると思います。スペックが低かったり価格が高すぎると,サードパーティからの悪反応とセールスの低調に直結してしまうでしょう」と続けた。

 アナリストたちは,一様に299ドルが任天堂が設定できるハードウェア価格の上限になると語る。「北米市場で何らかの反応を得るには,299ドルで販売できるビジネスプランを確立しておかなければなりません」というのはToto博士だ。「異なるオプションのデバイスを複数リリースするというのは無理なことではなく,例えばドッキングステーションのないものを安価にリリースすることもできるはずです。なぜなら,ハードコアなゲーマーたちは,299ドルを持っていれば,より性能が高いPlayStation 4やXbox Oneのほうを買うはずだからです。しかし,ポータブル専用だけとなると,すでにスマートデバイス市場に占有されている状態でもあります」と,そのバランスの難しさについて語る。

「Switchは4K解像度のコンテンツをディスプレイすることも可能となるはずで,Shieldで使われるコンポーネントの価格帯から見ても,200〜300ドルで販売されることは間違いないでしょう」
Piers Harding-Rolls氏

 SuperDataのvan Dreunen氏は,こうしたことに付け加え,ゼルダの新作のような高い魅力のあるソフトをバンドルすることは,消費者にとって大きな魅力になるだろうと語る。「私は,任天堂がSwitchの価格を,ゼルダかマリオなどのゲームを付けたうえで300ドル以下に設定してくることに期待しますね。それより上になれば,市場での可能性を急激に下げてしまうことになるでしょう」と話す。

 Harding-Rolls氏も,300ドルが最上限であることを強調し,「今回の発表では,コンシューマ機市場での戦いを主力にしつつ,モバイルゲーム市場もつなぎ留めることを念頭に置いていたように思えます。こうした実情からは300ドルより高い価格帯になるのは,競争力を持つうえで賢明な選択にはなりません」と言う。彼は,NVIDIAの「Shield」が似たようなコンセプトを持っていることから,任天堂がこの価格帯に合わせてくることは十分に可能であるとも語る。

 「任天堂の新しいハードウェアは,そのデザイン,ポジション,そしてコンポーネントにおいて,NVIDIAのShiledと非常によく似ています。このことから,Switchは4K解像度のコンテンツをディスプレイすることも可能となるはずで,Shieldで使われるコンポーネントの価格帯から見ても,200〜300ドルで販売されることは間違いないでしょう」とHarding-Rolls氏は続けた。

 Switchの発表による興奮は最高潮に達している。実際,Bloombergが先日報じたように(参考URL),任天堂が新型ゲーム機を発表するというアナウンスをしただけで,同社の株価を5%,時価にして100億円ほど押し上げた。(その後は徐々に下がっているものの)同社のストックは2016年度中にはモバイルゲーム市場への進出とともに最大で50%ほど押し上げる可能性もあると見られているが,任天堂がそれぞれのプラットフォームでどんな作品を出し,消費者に向けたメッセージを打ち立てていくのかといった,同社の未来にも直結する疑問が解明されていくのか。今後6か月から1年ほどは興味深く見守っていきたいところである。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら