Valve,Oculusの例に倣い新しいコントローラのプロトタイプを開発中

“手のプレゼンス”への重要性は,二つのハイエンドVRデバイスの最大の違いを根絶してしまう。

 Valveが開催したSteam Dev Daysにおいて,参加者向けに「Vive」用コントローラがどのように発展していくのかを発表したが,それはOculusが開発する「Touch」を強く連想させるものだった。

「この新しいコントローラは,新しいおもちゃではありません。今までに私が体験した中では最も操作感の良い,インプットデバイスの新しい形態です」

 シアトルで2016年10月12日から13日にかけて開催された開発者向けの同イベントだが,その開始と同時に新しいデバイスを触ったばかりの開発者たちが次々と画像やインプレッションをインターネットに公開し始めた。現時点では,Viveのワンド型コントローラは常に握りしめていなければならない状態であり,オブジェクトを握るといった細かい動作はトリガーを押すことで達成されるという,没入性の高さを最重視するVRというメディアにおいては不自然な操作体系が選択されている。Valveが新しく設計し直しているコントローラは,この問題を解消することを狙っているものと思われる。

 Steam Dev Daysで公開されたハードウェアはプロトタイプにすぎないが,Valveは“手のプレゼンス”の方向へとシフトしたようだ。新しいコントローラは手に巻き付けるように装着されており,コントローラ本体は手のひらに収まるかのようにまとめられている。手の甲にあるセンサー部分は,手のう動きをさらに敏感にシミュレートできるようになり,手を開いたり閉じたりすることもキャッチできるというが大きな特徴だ。

 UploadVRに対して語った開発者(外部リンク<http://uploadvr.com/valve-vr-controller-prototype/>)たちは,この新しいデザインやプレイヤー体験についていくつかの論評を述べており,その中の1人であるEva Hoerthさんは「インプットについて考える」ことがなくなったを語っている。

 「目の前のオブジェクトを手にする場合,私がしたことと言えば手を伸ばして掴む動作をすることだけでした。ボタンを触る必要もなかったのです」と語る彼女は,「モノを投げたければ,現実世界と同じように腕を後ろにして投げる動作をするだけで認識します。コントローラそのものを投げてしまうのではないかということは頭をよぎりましたが,ストラップのせいでそれが起こることはなかったですね」と続け,「この新しいコントローラは,新しいおもちゃではありません。今までに私が体験した中では最も操作感の良い,インプットデバイスの新しい形態です」と語っている。


 この新しいコントローラはVive向けに開発するデベロッパたちの未来にとっては非常に良いニュースであり,Oculus VRが「Touch」で取った方向性と同じ路線である。Touch向けのデモがヨーロッパで初めて公開されたgamescom 2015において本誌のインタビューに応じたOculus VRのCEO,Brandon Iribe氏は「コントローラは,普通の人が日常的に自分の目前で目にしているであろう“手のプレゼンス”を表現するために意図したもの」(英語関連記事)であり,「Riftの最も付加価値となるべき存在であり,最高のVR体験を求めるプレイヤー層がTouchの操作感を目的にRiftを購入するはずだ」と語っていたこともある。Iribe氏は,ViveやPlayStation VRはそのワンド型の形状のためにプレイヤーは常にコントローラを握っていなければならず,それが没入性を阻害する大きな要素になると話していた。

 「我々は,長らくVRインプットデバイスのプロトタイプの製作に励んできましたし,かなり昔の段階でどういうコントローラであるべきかは研究し終わっていました」というIribe氏は,「我々は,自分の手が目の前にあると認識できる“手のプレゼンス”の存在感については自信があります。Riftの価値を高め,そのユニークなVR体験が消費者にRiftを購入する意欲を与えると信じています」と語っている。

「我々はワンド型コントローラにVRの未来を見ていません。我々は“手のプレゼンス”を確信しており,ほかのメーカーとは異なる方向に進みたいと思います」

 また,「正直に言えば,しばらく時間を置いて相手の手の内を見て,それから我々のインプットデバイスを発表したかったのです。我々はワンド型コントローラにVRの未来を見ていません。我々は“手のプレゼンス”を確信しており,ほかのメーカーとは異なる方向に進みたいと思います」と続けた。

 もちろん,こうした追随は一方通行というわけではなく,最近ではOculus VRがValveの推し進めてきた「ルームスケールVR」を採用するようになっている。しかし,こうしたVR市場で影響力を持つプラットフォームホールダーの類似性は,ゲームを開発する側にとっては利益であり,それほど異なるインプットに大きな投資を行わなくてもよくなるのだ。Game Developers Conference 2016で「I Expect You to Die」を開発するSchell GamesのJesse Schell氏にインタビュー(関連記事)した際,,最高のVR体験をプレイヤーに楽しんでもらおうとする我々がRift専用ゲームの開発に絞り込んだ最大の理由がコントローラにあったことを述べ,「ViveのコントローラとOculusのコントローラの違いは明白で,それぞれを使ったあとで,細かい部分の差が次々と見えてきました」と話している。

 現時点で,VRコンテンツの開発者が一つのプラットフォームに焦点を合わせるかどうかというのは,もちろんまったく別の話である。現時点で,RiftやViveがどれだけ販売されているのかというデータで具体性のある公式発表はないものの,開発スタジオの中でようやく100万ドルのセールスに達したと発表した「Raw Data」のSurviosの例からも分かるように,その市場はまだまだ小さい。Steam Spy(参考URL) によると,「Raw Data」のインストールベースは,たった3万3000本にすぎないという。

 Steam Dev Daysに参加したNintendo of AmericaのDan Afraidelmen氏によると,Valveは毎日1000人のVRプレイヤーを獲得していると話し,その多くが日常的に600タイトルものコンテンツの中から好きなものを購入しているらしい。

 もちろん,Viveは多くのメーカーがしのぎを削り合うVR市場における一つのプラットフォームに過ぎない。しかし,複数のプラットフォームのために開発余力を投資しなければならない多くのゲーム開発者にとっては,そうした違いが解消されていくというのは良いことである。このViveの新しいコントローラは,そういう方向性にVR業界が動き出す一つの手堅い証左であると言えるだろう。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら