進化していくPlayStation 4とコンシューマ機のビジネスモデル

PlayStation 4 Proのローンチが控えめに発表された。ソニーは未知の領海を慎重に歩んでいる。これがどのように進展していくかで,コンシューマ機ビジネスの未来が決定するだろう。

 先日,ニューヨークで開催された「PlayStation Meeting」において,新しくデザインされたPlayStation 4のスリム版と,さらにパワフルなPlayStation 4 Proが発表された。イベント進行が半ばに達したところで,筆者はこのイベントの意味についてしきりと考えるようになっていた。私はPlayStation 2以来の新ハードウェアの発表会をずっと見てきた者だが,今まで体験したことのないほど控えめで静かなイベントだったのだ。べらべらと大げさに発表することさえしないというのは,それを発表する側の自信のなさの表れと取るすることもできるだろうが,あまりにも話しすぎると,かえって知らず知らずのうちに自分の立ち位置を見失ってしまうこともある。今回のソニーの発表会の場合は,その中間くらいにあるのかもしれない。
 PlayStation 2の頃の大成功を繰り返そうと躍起になっているソニーは自信あり気だが,PlayStation 4 Pro (以下,PS4 Pro)は,同社にとってのまったくの未知の領域に足を踏み込んでいる。その足元の土地は,彼らがまだ見たことのないものなのだ。

 スリム型のPS4は,ゲーム業界では隠し玉にならないほどウワサが流れていたことで,正式発表の直前にはオークションサイトに同型モデルが登場したほどだったが,その存在は十分に想定内のことだった。すでにオリジナル版の登場から3年近くが経っており,小型化された新モデルがリリースされるのは当然のことであろう。デザイン的にはより洗練されているものの,ローンチされるや瞬く間に話題にならなくなったXbox One Sと同じコンセプトである。Xbox One Sは,少なくともよりパワフルなScorpioがリリースされるまでの1年ほどの市場プレゼンスが約束されているのだが,新しいPlayStation 4は,プラットフォームの主力になるために市場投入されるPS4 Proが出た瞬間に,その役目を終えてしまう辱めを受けることになるわけだ。

 しかしながら,PS4 Proは,どこか奇妙な存在である。スリム版PS4と比べて100ドルもコストが高いものの,同じゲームがプレイできて同じオンラインサービスを使う。ソニーはユーザーベースが分かれるのを嫌って後方互換性を追求するが,結局それはPS4 Proをリビングルームに4K解像度のテレビを置いている数少ない消費者向けにデザインしたことになるわけである。その一方で,企業として消費者心理にも敏感でなければならかった。その大多数は,アップグレードによって画像はわずかながらでも鮮明になり,わすかながらスムースになることを知りつつ,オリジナル版PS4でゲームをプレイする人たちなのだ。これは中国の水責めの拷問のようにじわじわ効いてくる。
 さらに酷いことに,ハードウェアとしてはそれほど違いもないのに“プロ”という渾名まで付け,あたかも旧式モデルは“アマチュア向け” ,ないしは“ニューブ(ゲーム初心者)向け”であるかのような印象操作で,無意識のうちに購買意欲を掻き立てようとしているようにも見えてしまう。

「あたかも旧式モデルは“アマチュア向け”,ないしは“ニューブ(ゲーム初心者)向け”であるかのような印象操作で,無意識のうちに購買意欲を掻き立てようとしているようにも見えてしまう」

 最終的には,このようなソニーの慎重なアプローチは正しいことなのかもしれない。毎日のようにフレーム落ちや髪の毛の描写に文句を言っているような人はほろ酔い加減から目を覚まし,アマチュア版から買い替えるよう釘を刺されることになるだろう。PS4 Proのご利益というのは,そうしたコアなプレイヤー層を満足させるために存在するということであり,そのほかのソニーがプラットフォームの成功を持続するためにアクセスし続けるべき多くのカジュアルプレイヤーは,PS4 Proの利点は気にも留める必要もないほど小さなことに映るだろう。ある意味天才的なビジネス手腕とも言えるのは,PS4 Proに乗り換えるようなファンは,旧式モデルを競売するか,弟や従兄弟たちに譲ってしまうことになるわけで,その行為そのものがさらなるPlayStationプレイヤー層を拡大させることにつながるということだ。

 もちろん,これを完全に成功させるのは容易ではなく,ソニーがどのような舵取りをしていくのかは,すぐに市場データに表れてくるはずだ。任天堂の「NX」は2017年3月までリリースされず,同じく2017年中にローンチされるScorpioを待ち望むファン層はMicrosoftの「Xbox One S」には見向きもしないわけであり,ソニーは2016年度の年末市場に,これまでにないほどの強気な姿勢で挑むことができる。「PlayStation VR」は,供給の問題でそれほど市場に変化を及ぼすほどにはならないと思われるが,少なくともPS4とPS4 Proの双方は,2016年度で最も売れるゲームハードウェアになるのである。このこと自体はソニーにとって,たいした挑戦ではない。さらに大きな試練は,すでにソニー側のカードがテーブルの上に置かれた状態で,2017年度におけるNXとScorpioの登場を見守らねばならないことなのである。

 さらにもう一つの試練を付け加えるなら,このソニーの戦略がどのように進化していくかということだ。PS4 Proの登場は,これまで1980年代から続けられてきた5年から10年という期間ごとに世代交代を続けてきたゲームハードウェアのビジネスモデルに終止符を打つことになる。PS4 Proのように,互換性を保ちながらハードウェアの進化に合わせていくという方式がゲーム業界の未来になるのである。

 “未来の一部”と言ったほうがよいだろうか。Xbox Oneからの進化が劇的すぎて,古い機種でも同じコンテンツを楽しめるかどうかを議論するのも馬鹿らしいほどのScorpioの存在は,どこか異なる未来に向かっているように思える。静かすぎたソニーの発表会は,ゲームハードウェアに対する考え方を如実に表しているのかもしれない。ソニーが,勝利の行進をするかのように声高らかに新しいハードウェアの発表をしなかったのは,4000万人と言われる既存のPlayStation 4のプレイヤーに,彼らのハードウェアはもう古くなったという印象を持たせないよう配慮したものであろう。これまでのような,ローンチに際しては少しでも気を引かせてハードウェアの新しさを演出していたビジネスモデル下での発表とは大きく異なるのである。「さあ,新しいゲーム機ですよ。みんなで歌いましょう!  踊りましょう! 古いハードウェアはガタガタで埃を被っています。新しいハードウェアを買ってください!」というようなお祭り状態の発表は,ソニーがPS4 Proで目指す“アップグレード型”のビジネスモデルには似つかわしくなく,旧式モデルのプレイヤーへの配慮も必要になるのである。スマートフォンなどモバイルハードウェアのメーカー企業であれば,もう少しメッセージを明確にできる。それは,同市場でのハードウェアの寿命が1年半から2年という短い設定になっているからであるが,コンシューマ機においては,まだまだ消費者は4年,5年と使い続けていくという意識を持っている。

「勝利の行進をするかのように声高らかに新しいハードウェアの発表をしなかったのは,4000万人と言われる既存のPlayStation 4のプレイヤーに,彼らのハードウェアはもう古くなったという印象を持たせないよう配慮したものであろう」

 これにより,アップグレード型のビジネスモデルは,新しいハードウェアの登場に際しては,控えめにならざるを得ないのである。しかしその一方で,「PlayStation 5」の構想がソニー内部でまったく練られていないと思っているゲーマーは存在するだろうか? 大言壮語で花火を打ち上げ,ありえない偉業を達成するかのような,究極的なアップグレードの発表はもう行われないと思っている人はいるだろうか? PS5が構想されていないわけではないだろう。PS4 Proが指し示すものがあるとすれば,それがゲームハードウェアの世代を超えて後方互換性が保証されるという可能性であるが,ひょっとしたらは,今後のゲーマーはハードウェアを何度買い替えても同じゲームソフトで永遠に遊び続けることができるようになるのかもしれない。間違いないのは,テクノロジーは進化し続けるということで,今でこそさまざまなゲームハードウェアで一つのゲームを遊べるものの,そのうちには過去の遺物になってしまうということである。

 言及しておくべきことは,今回のイベントにおいてはソニーはPlayStation VRについてもほぼ無口だったということだ。ロゴは会場で見かけたし,いくつか言及されている場面もあったが,もう正式ローンチもそこまで近付いているというのが信じられないほど寂しいプレゼンスだった。邪推すれば,ソニーが最も不安視していることが,PS4 Proの存在がPlayStation VRにどのような影響を及ぼすかということではないかと思われる。「PS4 Neo」というコードネームで当初のリーク情報やウワサが話題になったときにも,既存のPS4ではあまりにもVRゲームをプレイするのに力不足であり,新型ハードウェアをリリースする最大の理由がPlayStation VRの利用であるという意見は多く出されていた。

 もし,そのウワサが真実ではないのであれば,ソニーは発表会ではもっとうまく説明するべきだったはずだ。PS4 ProはVRゲームの作動時に最良のフレームレートを維持できるというコメントをソニーが出したことは,それ以前に「VRゲームは120Hzのレンダリングになる」という同社の表明と微妙な関連性を持っている。これまで,我々が何度も言われてきたように,こうした技術のすべてはフレームレートのためだいうことだった。高いフレームレートを維持できなければ,プレイヤーはVR酔いになってしまう。「PS4でも問題ないが,PS4 Proならさらによい」と説明されれば直ぐに納得できるが,PS4 Proでなければならないということにでもなれば大きな問題になる。PlayStation VRが,VRゲーム市場を立ち上げるためには悪いパフォーマンスのままリリースさせてしまうことはあってはならず,4000万という既存のプレイヤーベースを根拠にした展望を失ってしまいかねない。

 これは私の懸念であってほしい。実際,これまでのPlayStation VRのデモはすべて,おそらくはPlayStation 4の既存のハードウェアで作動していたものと思われる。それはそれでよいのだが,そうした楽観も問題になり兼ねず,新しいハードウェアの登場と時を同じくしてPlayStation VRがローンチされることに対して,多くの消費者は何かしらの関連性を連想してしまうのではないだろうか。もし,PS4 ProでVRゲームを楽しむ人から何の問題も指摘されないのに,オリジナルのPS4プレイヤーからはVR酔いの発生が数多く報告されるようなことにでもなれば,それは大問題につながっていく。これが懸念でしかなく,すでに危機管理が行われているというのであれば,ソニーは今回のイベントなどでさらに率直でオープンに話題にすべきことであり,問題があるというのであれば,今のうちからPlayStation VRのプレオーダーはPS4 Proのみに行うといった処置も必要になるだろう。

 すでにカードは並べられた状態で,我々はそれらがどう作用していくのかを見守らなければならない。PS4 Proは間違いないくこれまでのコンシューマ機市場でのビジネスモデルを根底から覆すものである。PS4プラットフォームは,綺麗に正装させたパーツ非交換型のPCという存在にさらに1歩近付きつつあるのは確かで,それが数年ごとにアップグレードされて販売されていくことになるのかどうか。その未来に今の我々が立っているわけではないが,それは今後18か月ほどのうちに,ソニーとライバルハードウェアが決定付けることになるかもしれない。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら