Ubisoft: 我々はVRゲームで収益を上げられる

UbisoftのEMEA支社長でるAlain Corre氏は,UbisoftがVRゲーム市場に乗り出している理由と,e-Sportsへの熱望について語った。

 2016年はVRテクノロジーの勃興に沸いているとはいうものの,その市場はまだまだ確立しているわけではない。VRヘッドマウントディスプレイやハイエンドなVRゲームを楽しむためのPCハードウェアはまだまだ高価であり,そのために市場への浸透が進んでいない状態だ。開発者たちの熱狂は投資家やパブリッシャらと共有されているとも言い難いが,それでもUbisoft Entertainmentは恐れることなく,“VR列車”に早くから飛び乗る決意を下している。

 Bethesda Softworksは「Fallout 4」のVR版を開発し,Electronic Artsも「Battlefront VR Experience」を手掛けているとはいえ,2016年中に独自のIPによるVRゲームを複数タイトルを擁している海外大手パブリッシャはUbisoftだけだ。しかし,現状では同社のVRゲーム市場への投資は,いかに正当化されるのであろうか?

 Wii,Kinect,そしてWii Uなどの例を思い出すまでもなく,Ubisoftは常に新しいテクノロジーをローンチ時からサポートしてきたが,同社のEMEA(Europe,Middle-East and Africa)支社長のAlain Corre氏は,単にVRのような新しいテクノロジーがもたらす創造的な可能性を見過ごすべきではないと考えているようだ。

 「これまでにないほどの没入性をもたらすVRテクノロジーの能力や可能性は,我々の開発チームにゲームで新しい表現を行う想像力を沸き立たせるものであると見ています。良いVRゲームをプレイすれば,その体験を忘れることなく,ずっと心に焼き付けられるはずです。VRテクノロジーに初めて触れたときの私たちは,そう確信したのです。いくつもの開発チームを抱えるUbisoftの中には,必ずそうした新しいテクノロジーでゲームを作ってみようという野心のあるメンバーがおり,自分たちのノウハウを最大限に生かそうと試みるチームができ上がっていくのです。そのために,我々は年内には4作のVRゲームをリリースすることとなり,そのほかにもいくつものプロトタイプを抱えているのです」と,Corre氏は我々のE3 2016取材で語った。

初期に登場したゲームは,消費者の心の中でその新しいテクノロジーと強く関連付けられることになり,今後のハードウェアのアダプタが増えていくことを考えれば2〜3年というスパンで売れていくはずです

 「VRゲーム市場は今のところ,まだ火花を散らしているだけのような状態ですが,いずれ大きく爆発するのは間違いありません。どの種がうまく発芽して次に続いていくのかはまだ分からないのですが,早いうちにいくつもの種を新しい土地に蒔いておくことで,やがては新しいフランチャイズが生まれていくことを期待しているのであって,こうした新しいテクノロジーの登場は我々にとってブランドを生み出す機会でもあるのです」とCorre氏は続ける。

 2016年の終わりを迎えるまでには,Ubisoftは「Eagle Flight」「Trackmania Turbo」「Werewolves Within」,そして「Star Trek: Bridge Crew」の四つのゲームタイトルを,Oculus VRの「Rift」,HTCの「Vive」,そしてSony Interactive Entertainmentの「PlayStation VR」という三つのメジャーなVRプラットフォーム向けにリリースする予定であり,VRテクノロジーの熱狂的なプレイヤーに支持されることで今後の利益につなげていこうとしているようだ。Corre氏も,この初期投資を現行のVRプロジェクトの収益から回収できないことは認めつつも,「Star Trek: Bridge Crew」のようなタイトルは数年にわたって徐々に利益を上げていくであろうと見ている。


 「Eagle FlightやStar TrekのようなVRゲームは,長期的な利益性を持つタイトルになると考えています。まだ始まったばかりのゲーム市場というのは,つまりは良い品質の製品であればハードウェアの初年度のインストールベースでは高い確率で消費されるもので,その販売本数自体に限界はあえるとはいえ,長くトップセールスの地位を獲得していくこともできるのです。初期に登場したゲームは,消費者の心の中でその新しいテクノロジーと強く関連付けられることになり,今後のハードウェアのアダプタが増えていくことを考えれば2〜3年というスパンで売れていくはずです」とCorre氏は付け加える。

 Corre氏は,VRゲームの開発費がどれくらいのものになるのかについての言及は避けたものの,「Assassin’s Creed」のようなブロックバスター作品と比べてもStar Trek: Bridge CrewなどのVRゲームは安価に制作できているのは明白であり,それゆえにリスクも取りやすい。

 Corre氏は,「もちろん新しいテクノロジーへの参入はリスクを抱えており,どれだけ成功したといっても,インストールベースが限られている状況では大したことはありません。しかし,総じて言えばゲーム開発者が新しいテクノロジーへの理解とスキルを深めていく機会は非常に大切なものです」と話し,続けて「VRのゲーム的な表現の限界は何なのか,消費者はどのようなゲーム体験を好むのか,ということを調査する意味でも,我々は小さな額であっても投資をしていくべきたと思っています。特定のフランチャイズに付加価値を与えたり,新しいフランチャイズを作り上げていくためにも,市場が爆発する前に我々は準備をしていくべきであり,VRゲーム市場は間違いなく爆発すると判断するからこそ,我々はいくつものVRプロジェクトを抱えているのです」と語った。

Rainbow Sixというフランチャイズにとってe-Sportsはプレイヤーたちがコミュニケーションを図る上で非常に重要な要素でありますから,ゲーマーコミュニティの育成を補助し,e-Sportsに対するエネルギーを炊き続けていきたいのです。ですから今後もe-Sports市場に投資を続け,サービスを拡大し続けていきます

 Ubisoftが熱意を持ってサポートを表明している別の新しいテクノロジーに,Nintendo NXがある。もちろん,任天堂はウワサばかりが先行しているこの新しいハードウェアついて何も発表しているわけでないので,まだその可能性をどうこう言うべきときではない。しかし,Corre氏はさまざまなプラットフォームに参入させている「Just Dance」だけに留まらないNintendo NXへの計画を持っていることも明かす。

 「我々はE3 2016においてJust DanceをNintendo NX向けにも開発していることをアナウンスしましたが,いずれ改めて発表するサプライズもご用意しています。我々は,任天堂が“家族でプレイできるゲーム”を改めて開発できる能力を持っていると信じているのです」と言うCorre氏は,「任天堂はゲームのブランドにとっては素晴らしい原動力であり,ファンや家庭で広く認知されています。現在のゲーム市場においても,任天堂のフランチャイズの持つ継続的な成功と挑戦には驚かされるばかりです」と続けた。

 NXについての計画について言及せずとも,Ubisoftは同社のラインアップとその進化について非常に満足している様子で,現状のフランチャイズだけに留まらず,「Watch Dogs」「The Division」,そして「Steep」といった新しいIPを生み出し続けている。

 「とくに強調しておきたい,Ubisoftが非常にユニークなパブリッシャであることの理由の一つとして,我々のポートフォリオの多様性が挙げられます。SteepやWatch Dogs 2といった発表されたばかりの新作だけでなく,RPGとして非常に独自性を持ったSouth Parkシリーズ,ファンからのフィードバックがすでに非常に高いFor Honorなども忘れてはいけません」とCorre氏は念を押す。「For Honorは,発売されればジャンルに囚われないユニークなゲームとして,ゲーマーたちから受け止められるでしょう。このようなゲームは,もう何年も登場していないのです。こうした新しいことをしようという開発姿勢があるのもUbisoftの魅力であるのです。ほかにもGhost Recon Wildlandsなどは,ミリタリーシューター,オープンワールド,そしてCo-opと対戦モードの共存を一つのゲームの中で実現するのは初めてのことではないでしょうか。我々は,こうしてファンが驚くようなことを率先して行い,クリエイティビティの限界を押し広げていくことで,皆さんに笑顔になってもらいたいと考えているのです」

For Honorはe-Sports種目になれるか?

 For Honorについては,新しいIPを生み出すために開発が行われているだけでなく,同社がe-Sports市場に進出する足掛かりになるべき作品という試みも行われている。これまで,e-Sports市場におけるUbisoftの最も大きな貢献はRainbow SixフランチャイズであるがチームベースのCo-opアクションというゲームプレイはe-Sportsに非常に向いているとCorre氏は考える。

 「e-Sportsに参入するには,それにマッチした製品が必要になります。我々はRainbow Six: Siegeにおいて,Electronic Sports League(ESL)と契約するなどして最初の1歩を踏み出しました。1月にトーナメントがスタートしており,アメリカやヨーロッパでは3か月に一度開催されてます。Rainbow Sixというフランチャイズにとってe-Sportsはプレイヤーたちがコミュニケーションを図る上で非常に重要な要素でありますから,ゲーマーコミュニティの育成を補助し,e-Sportsに対するエネルギーを炊き続けていきたいのです。ですから今後もe-Sports市場に投資を続け,サービスを拡大し続けていくことが,このフランチャイズにとっての長期的な戦略であり,今のところは我々がアップロードするDLCにファンが非常によく反応してくれています。新しい要素をゲームに投入するたびにDAU(日間アクティブプレイヤー数)は跳ね上がりますから,ファン層が形成されているというのも分かるのです。このRainbow Sixのモメンタムを維持して,これから何か月,何年にもわたってコミュニティが成長していくのを見守りたいですね」とCorre氏は話す。

 堅実なゲームシリーズのラインアップを築き上げることに成功した今,Ubisoftはリリーススケジュールを破ることにも神経を使わなくなってきたようだ。「Assassin’ Creed」のようなビッグタイトルは,これまでなら毎年リリースされることが厳守されていたが,そのルールももはや存在しない。実際,今年はUbisoftが「Assassin’s Creed」のリリースに頼らない久々の年となる。

 「我々は,新作が常にパーフェクトな状態でリリースされることを願っていますし,それを態度でもお見せしているつもりです。ですから,開発担当チームにはファンの皆さんをビックリさせることができるよう時間を与えているのです。それが我々のミッションでもあります。Ubisoftは,開発者にゲームをさらに良いものに磨き上げていくだけの時間を与える余裕も出てきました。もちろん,アナウンスした発売予定日の厳守に努力するのは当然のことですが,発売が二度延期した『The Division』のように,ときには難しい判断を行わなければなりません。ゲームの品質は我々にとって非常に重要です。毎日,Ubisoftの開発者たちは自分たちが創造するゲームを,発売時点には完璧なものになっているよう努力していますが,結局はゲーマーたちが良いゲームであるのかどうかを評価してくれると思うのです」

Watch Dogs 2の開発に際してはファンに送られてきたフィードバックをしっかりと吟味し,ゲーム世界を大きくすることや,ハッキングシステムの改良,さらにはビークルやドローンの利用,そして対戦やCo-opモードの追加などの改善を加えてきました

 こう話すCorre氏は,続けて「今年は5作にもおよぶAAAタイトルがリリースされます。年末にリリースされる『Watch Dogs 2』は,その発売と共に高い評価を得ることになるでしょう。我々は,Watch Dogs 2の開発に際してはファンに送られてきたフィードバックをしっかりと吟味し,ゲーム世界を大きくすることや,ハッキングシステムの改良,さらにはビークルやドローンの利用,そして対戦やCo-opモードの追加などの改善点を加えてきました。我々にとって,一つ一つのフランチャイズを育てていくことが非常に重要であり,それと同時に特定のブランドは一休みさせることも必要なのです」と加える。

 こうしてAssassin’s Creedが一休みし,ハリウッドで休暇しているが,Ubisoftは「Watch Dog」についても映画化されることはすでに言及している。今後も,ほかのフランチャイズもハリウッドに持ち込まれることになるのだろうか?

 「そのフランチャイズが映画としてよいかどうかにもよりますよね」というCorre氏。「我々はゲーム会社であって,それぞれのフランチャイズのファン層を育てていくことが我々のビジネスの中核にあります。我々は,ブランドのゲームとしてのDNAを守りたいのです。Assassin’s Creedについては,我々は何年も映画としてゴーサインを出せる機会を待ってきました。それまでは,映画の制作会社が提出してくる内容に満足できなかったのです。この映画では,我々は脚本やストーリー,配役などにある程度の影響力を持つこともできましたし,Assassin’s Creedのファンが映画館に行っても不満なく鑑賞していただける内容になると思っています。ファンにとっては新しい体験ですが,ブランドの価値を損ねることはないでしょう」と話した。

 最後にCorre氏は,「Watch Dogsも同じ線で映画制作を進めていきます。映画化をする際にはゲームとしての価値を守っていただきたいし,そのIPを守るために脚本を何度も書き直したりすることに時間はゆっくりとかけていきたいと思います。我々のフランチャイズのすべてはゲームから始まりますが,ほかのエンターテイメント産業でも良い機会が得られ,そのことでいつしか,これまでゲームをプレイしたことのなかった消費者がゲームに目を向けてくれるなら喜ばしいことだと思います。それぞれのケースによるとは思いますけどね」と締めくくった。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら