ChinaJoy会場で見かけたVR機器あれこれ

VRデモ。銃に組み込まれたViveコントローラに注目
ChinaJoy会場で見かけたVR機器あれこれ
 2016年7月28日から31日までの4日間にわたって開催されていた中国最大のゲームショウ「ChinaJoy 2016」会場では,併催されていたスマートデバイス関連の「e-Smart」イベントをはじめとして,あちこちのブースでVR(仮想現実)のデモが行われていた。ここでは,さまざまなブースにあったデバイスを紹介してみたい。

 ちなみに,あちこちで行われているVRデモの主流はViveによるものだが,ごくたまにRift CV1が見られた。GearVRもそれなりに使われていたようだ。

FireVRのオールインワンVRヘッドセット。将来的にDaydreamとシームレスな互換性を実現するとされているが……
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 それでも見ていて目立つのは,独自規格のVRヘッドセットを推進しているところがたくさんあることだ。OSVRなどという文字はまったく見かけなかったように思う。多くは,Android系OSを使った一体型VRヘッドセットである。世間一般で見るとGoogleがDaydreamを発表したおかげで,Daydream以外のAndroid系デバイスがすべて白昼夢になってしまいそうなのだが,中国では独自規格が乱立している状態だ。ある程度の規格統一をしないと商業的な勝算はほとんどないと思うのだが,VR関連の開発を行うと政府からお金が出るらしく,一大フィーバーとなっている。
 まあ,このあたりはかつての日本でも同じで,VR関連の研究には政府からの支援金がいくらでも出たので,10年ほど前に第1次VRブームをもたらしたと,ソリッドレイ研究所の神部勝之社長がOmegaShipの発表会で語っていたのを思い出す(関連記事)。

 ちなみに,その日本の第1次VRブームはNVIDIAがGeForceを出すまで続いたそうだ。GeForceが数千万円するSGIのワークステーションの性能を数万円で出すようになってしまったので,大手商社がごっそり手を引いたため急速にしぼんでいったという。まあ,そのおかげでVR技術を蓄積できた会社もあるので,こういったバラマキ気味な政策も効果がないわけではあるまい。

Nible VRによるオールインワン端末
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 余談はともかく,中国のオリジナル製品を試遊してのクオリティはというと……,ちょっと厳しいものが多い。この業界,いちばん普通に目にするものが,世界最高水準の技術なので,新規参入にはハードルが高いかもしれない。Palmer Luckey氏のDK1以降,VRヘッドセットの製作自体は非常に簡単になったのだが,ソフトウェアのクオリティが一朝一夕には追いつかないのはしかたない。それでも,一般的なゲームは当たり前にVR化されていたり,すでにVRのMMORPGなども出展されているので,その勢いというのは凄まじい。

 中国で展開されているVRヘッドセットだが,いくつかのフェーズがあり,一時,雨後の筍のように乱立していたCardboardやGear VRのようにスマホを挟み込んで覗き見るタイプの製品を作っていたところの多くが,スマホ部分の機能を内蔵した独立型の製品を出品していた。また,それらとは別の方向性で高性能を狙ったPC接続のハイエンド製品もある。
 どちらにしても,ほぼその会社の独自仕様であり,ソフト供給などに不安を抱えるという点が共通している。これはSDKやUnity用のプラグインを提供すればすべて解決するという問題でもない。


●3Glasses Blubur S1
 会場内を見た限り,スペックで一番上になるのがこの機種ではないだろうか。「My First VR Headset」というキャッチフレーズだが,カタログスペックはかなり高い。念のために言っておくと,RiftやViveのようにPCに接続するタイプのVRヘッドセットである。3Glassesは,オールインワンタイプのヘッドセットなども作っているが,これはハイエンドタイプとなる。

ChinaJoy会場で見かけたVR機器あれこれ
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 解像度は2880×1440ピクセルで,リフレッシュレートは120Hzだ。有機ELではなく,TFT液晶パネルが使用されているのが最近の流れと異なるが,リフレッシュレートはむしろ上というあたりが。ポイントだろうか。映像の遅延は10ms以下とされている。
 解像度とリフレッシュレートを見てピンときた人もいるかもしれないが,PCとヘッドセット間の接続はDisplayPortによって行われている。HDMIでは無理な帯域でもDisplayPortなら余裕があったりするわけだ。

 特徴は,まさに「全部入り」といった感じで,あちこちのシステムのいいとこ取りがされている。箇条書き風に列記してみよう。

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 まず,ヘッドトラッキング方式はRiftに似ている。外部カメラでヘッドセットに付けられた赤外線LEDを追う方式だ。カメラからの視野角は110度で,検知範囲は半径2mの範囲とのこと。つまりRiftとだいたい同じくらいの広さの空間を動き回れることになる。
 視野角は110度で,RiftやViveと同じ。
 デモ機のコントローラは両手それぞれで握るタイプのもので,Viveのドーナツ部を棒にした感じのものになっていた。
 両眼部(やや上)にカメラが付いているように見え,ARやMRにも対応できそうだ(言及はナシ)。単眼のViveとは違い,ステレオ対応だ。
 ヘッドホン付き,かつノイズキャンセル付きマイク機構も搭載している。
 右側面にタッチパッドが付いている(ように見えるが言及はナシ)。
 わりとどうでもいいことだが,ブルーライトカット機能も付いている。
 価格は2999人民元(約4万7千円)。

全部光学式レンズだから,伝統的な光学レンスに比べて画像くっきりといった意なのだが,ちょっと意味が分からないスライド。Transitional Lens(サングラスなどで光が当たると色が濃くなる奴)は単にTraditional Lensの間違いと思われる
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 会場で体験したのは「EARTHLIGHT」のデモだった。試してみたところ,残念ながら映像には結構な遅延があった。首を横に振ると,かなりガタついて反応する感じで,まだ完成度は低い。割と重めのゲームを,3K弱の解像度で120fps駆動となると,PCスペック側に問題があったのかもしれない。なお,装着したところ,他機種と同数値なのだが視野角が広めな印象があった。

 公表されているスペック表に挙げられていない重量や装着性,調整機能などでの比較も必要ではあろうが,RiftやViveよりスペックが上で,値段が半額となるとインパクトは大きい。ハイスペックで低価格を実現できた要因としては,

  • 中国製であること
  • 先行製品のノウハウが丸ごと使えたこと
  • DisplayPortと液晶パネルを選択したこと

などが考えられる。
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 RiftもViveもPCとの接続はHDMIが基本である(ViveはDisplayPortでも接続できる)。それゆえHDMIベースのスペックになっているわけだが,ライセンス料不要のDisplayPortを前提で作ることでコストダウンもでき,性能も確保できている。多くのグラフィックスカードではHDMIが1ポートしかないので,VR用にDisplayPortを使えれば,普通のディスプレイ用にHDMIが使えるので利便性も高くなる。

 あと出しだけあって話どおりなら悪い製品ではないのだが,先行する2社がエコシステムまで考えて活動しているのに対し,製品だけの展開ではちょっと弱い。マイナーなプラットフォームにゲームをわざわざ出そうと考える人は少ないだろう。そういう意味で,今後どう展開させていくのかは興味深い。また,たとえ提供される体験が高品質のものだったとしても,現在のPC用VRヘッドセットの価格は,一般への普及を目指すにはあまりに高すぎるのは事実である。こういった製品が登場することは,VR業界にとってよい刺激になるのか,価格崩壊をもたらすのか気になるところである。

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 どうでもいいが,同社のロゴはOculus VRの昔のロゴ,さらに言えばCry ENGINEのロゴに似ているのがちょっと気になる。


3Glasses公式サイト(製品ページはナシ)


●IMMEREX VRG-9020
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 VRG-9020は,IMMEREXによるVRヘッドセットである。しかし,見慣れたVRヘッドセットとはフォルムがまったく違うことが分かるだろう。懐かしきオリンパスのアイトレックを髣髴とさせる形状である。ただ,なんとなく見た目的に「解像度低そう」とか「視野角狭そう」という危惧を抱く人もいるかもしれない。そこは安心していい。解像度は4Kで,視野角も上下が狭いものの左右はほかのヘッドセットとほぼ変わらない感じだ。

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 さて,この製品はPCと接続して使うものではない(接続できるのかもしれないが)。スマートフォンを挟み込んでいるわけでもない。いわゆるオールインワン型のデバイスに近い。ただし,ヘッドセット内にすべてを組み込んでいるわけではなく,ヘッドセットは表示部,ユニットは親機として機能する。Pico Neoでも採用されていた2ピース構造だ(オールインツー?)。
 グラフィックス性能は残念ながらさほど高くなさそうだ。親機の大きさからして,本体がスマホ相当のものであることは察しがつくと思う。

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 ポータブルなゲーム機本体と表示デバイスとしてのヘッドセットをケーブルでつないで使うのが基本なのだが,実はワイヤレスでも使えるのだという。ただ,会場ではそういわれたものの,4K映像のワイヤレス転送となると遅延やさまざまな問題が考えられ,そもそも電池がもつのかなどもちょっと怪しい。
 ヘッドセット部分は重量200gと軽量で,比較的薄型である。接岸部の穴が小さくて少し不安になるものの,かけてみると意外と本格派であることが分かる。解像度は「4K」とされているが,具体的な縦横サイズは分からなかった。単眼あたりで1080pという表記からすると,1920×1080×2で,横4Kという計算だろうか。前述のように,視野は上下が短めの横長となっている。

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 VRヘッドセットが小さく軽くなることは,装着性などを向上させる意味でも歓迎できる傾向なのだが,やや簡便すぎる印象もあった。装着は頭部への固定がメガネのツルの部分と,2本のツルをU字型につなぐフレームによって固定する方式だ。ヘッドセット部が軽いのでこれでもズレ落ちるようなことはないのだろうが,装着時に全体がクリアに見えるベストな位置にしっかり固定するのが難しく,周辺部のフォーカスなどがズレがちになる。装着が簡単という意味ではがっちり固定派のヘッドセットより手軽なので,どちらを取るかというところだが,他機種との差別化はできているともいえる。

使用イメージ。日焼け痕がひどいことになりそうな
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 さて,本格的VRヘッドセットがポータブルになることで,なにが変わるだろうか。出先でVRコンテンツが楽しめる……のは確かだが,いま一つピンとこない。例えば,電車内で使うことを考えると,Gear VRやCardboardを付けている人よりは違和感は少ないかもしれないが,まだ現実的には思えない。手軽に装着できそうな製品であるからこそ,カメラ付きのAR/MR対応製品であってほしかったと思う。
 AR対応になって,表示デバイスは置いておいて,ゲーム機本体側を新しいものに更新することで年々性能を上げることもできるようにもなると夢も膨らむのだが。

アリアドネスレッドジャパン公式サイト(日本支社)


●HYPERREAL Pano
デモで使われていた試作機
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 HYPERREAL Panoは一目見れば分かるように,Viveにかなりよく似た製品だ。会場で動いていたのはまだ開発途中版だったのだが,凸多角形で構成されたヘッドセットの表面にレーザーセンサーがいくつも取り付けられており,初期のViveに似た雰囲気を醸し出している。
 トラッキング技術そのほかは独自開発とのことなので互換性はないと思うが,レーザー走査型ヘッドトラッキングユニット2個とヘッドセット,両手用コントローラから構成されている。つまり,だいたいViveと同じシステム構成となる。
 なお,デモ機のコントローラは棒に窪んだ皿が付いたような形状のものだったが,最終的には,ドーナツ型のViveコントローラとOculus Touchを足して2で割ったような形状になる模様だ。

完成するとこうなる
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 表示パネルは有機ELで,ほぼViveなどと同じものが使われていると思われる。視野角やフレームレートも同じだ。
 会場で流されていたビデオではレイテンシが11ms以下とかなり低めなようなことが謳われていたと思うのだが,実際に装着するとレイテンシは多めな感じだった。これはソフト側の問題かもしれないのでなんともいえないのだが。試したデモゲームがルームスケールには対応しておらず,コントローラでの移動になっていたり(ぬるっと動いて気持ち悪い),製品の魅力を引き出すデモが選ばれていたとはいい難い。
 デモ内容は迫りくるモンスターを二丁拳銃で撃ちまくるというディフェンスゲームだった。無茶だろうと思いつつ,どんどん前へ出ろという指示に従っていると,2ウェーブめであっさりゲームオーバー。たぶん動き回って地形のギミックを駆使しないとかなり厳しい感じではあった。ただ,あの移動方式でスウェイバックとかは,ちょっとやりたくはない。
 製品としてViveと同等とまでは言えないかもしれないが,「だいたい同じ」というのはまず確実だ。これが仮にSteam VR端末として認定されたり,一時行われていた「RiftのソフトをViveで動かす」ようなモノが出たりすると,Viveの市場が崩壊する可能性もある。RiftやViveの価格がVRの普及にマイナス材料となっていることは確かなのだが,どうしたもんだろうか。

●Visionertech VMG-PROV01
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 VisionertechのVMG-PROV01は,MR(Mixed Reality)をターゲットにしたヘッドセットだ。解像度は「2K」とのことなので,PSVRやDK2あたりと同じだと思えばよいだろう。MRなので,カメラが両眼の位置についている。ヘッドセットの両サイドにボタンがついているのも特徴といえるだろう。デモはもっぱら注視駆動で動いていたので右ボタンを使うことはなかったのだが,左ボタンはキャンセルの役割になっていた。
 VR,MR,ARそれぞれのデモを見てみたところ,残念ながら遅延も大きめで映像がズレる。MicrosoftのHoloLenzのような素通し映像とCG映像の重ね合わせの場合にズレるのはしかたないのだが,一度カメラで取り込んだ映像であれば,それに合わせてCGを合成するのは当たり前なので,基本的にズレてはいけないのだ。このあたりはまだまだこなれてない感じであった。
 開発中とのことなので,今後に期待しよう。なお,このデバイスは民生用ではなく,研究用などの市場をターゲットにしているとのことだった。

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Visionertech公式サイト


●Shadow Creator Halo
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 Shadow Creatorは透過型のVR/ARヘッドセットを展示していた。メガネの片目にスカウターのように投影するNanoをはじめとして3製品が用意されていたのだが,なかでもHaloはHoloLenzを意識したような形状で,実に70度の視野角に投影可能なヘッドセットとなっていた。頭部への固定方法はPSVRに似ている。
 使用法としては,Snapdragon 820搭載のAndroid端末と組み合わせるらしい。おそらく外付けだと思うのだが,内蔵かどうかは確認できていない。予定では2017年にリリースされるとのこと。価格はHoloLenzの半額くらいとのことらしいのだが,すでに公式サイトでは800人民元(1万2000円)で予約が開始されているように見える。

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これはNano
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萌え絵でアピール

Shadow Creator Halo製品情報ページ


●Pimax 小派VR 4K
大型筐体多数と組み合わせてデモをしていたPimax
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 Pimaxが出展していた小派VR 4Kは,その名のとおり4K(3840×2160ピクセル)パネルを使用したVRヘッドセットだ。PCに接続して使うハイエンドタイプで,視野角は110度,遅延は18ms以下とされている。それでいて価格は1999人民元(約3万円)で,すでに発売されている。覗き込むと,確かに精細感は高かった。ただ,PCとはHDMI 1.4Bでの接続なので,4K時のフレームレートは30fpsとなるわけで,仕様としてはちょっと微妙だ。
 実は,ChinaJoy会場で非常に目立っていたぐるんぐるんと回る大型体感筐体で組み合わされていたのが,このヘッドセットだったのだが,稼動していた2か所が両方ともヘッドセットトラブルであまり回転していなかった。加熱しすぎるらしく,冷却のためにデモが中断されていたりしたのだ。
 配られていたパンフレットにはOculusとSteam VRプラットフォームのゲームが動くと書いてあったのだが,実際のところは不明。コストパフォーマンスは非常に高いので,本当に互換性があるのなら注目されるヘッドセットではある。

Pimax公式サイト