MicrosoftはXbox戦略で大きな賭けに出ている

Xbox One Sがリリースされる直前はハードウェアのセールスが頭打ちになっているはずだが,Microsoftの成績次第ではScorpioが長期的に成功するかが見えてくるだろう。

 Microsoftの最新の業績報告(英語関連記事)は,Xboxのステータスがバラ色でないことを物語っているが,それが意表を突いた結果だったというわけではない。同社のゲームビジネスの全体での収益は9%減少しているが,わずかばかりであれどソフトウェアやサービスでの収益は伸びており,ハードウェアの収益を3分の1ほども下げてしまったことが主要因となっている。
 Microsoftは,ここしばらくはハードウェアの販売台数の実数さえ出していないため,その業績報告書の内容から我々は想像することしかできないが,Xbox Oneをローンチして以来最も厳しい数字であったことは想像に難くない。

 もっとも,これもそれほど驚くべきことではなく,Xbox Oneの新しいハードウェアを二つも発表したばかりであり,しかもそのうちの一つである4K解像度のアップスケール出力に対応した新しいデザインによるXbox One Sがリリースされる直前という時期のこと。ハードウェアの発表から発売までは,旧式ハードウェアのセールスを自然と落とすことになり,その旧式モデルの価格も下げられるという消費者の期待も影響するのは当然だ。

Xboxプラットフォームは,Windows 10を中心にした大きなエコシステムの中に取り込まれており,ハードウェア単体の販売本数は以前ほど重要ではなくなった

 この状況は,ゲーム業界にとっては未知の領域である。「PlayStation」の小型版である「PSOne」がリリースされて大きな成功になったことを思い出すまでもなく,ゲームハードウェアのライフスパンの途中で,新しいモデルが登場するというのはこれまで何度もあった。ハードウェアのリフレッシュは,徐々にセールスが低下していた古いモデルが値引きされることにより,最新版のリリースと共に一時的ながらもセールスを劇的に向上させる効能を持つ。一般的には,新しいハードウェアはその四半期経常収支を押し上げ,その直前の四半期2期分よりも良い成績を残すものだ。

 新しいデータが出てくるまで我々が知る由もないことは,Xbox One Sのようなノーマルな形でのハードウェアのリフレッシュがアナウンスされるのと同時にアナウンスされた新型モデルついて,消費者がどのような反応を示すのかということだ。

 Scorpioというコードネームで知られる新型モデル,これまでの常識をすべて変え得るが,何も変わることはないかもしれない。次の四半期決算が発表される3か月後に,今回の成績との比較を行えばXbox One Sに対する市場の反応は見えてくるだろうが,当の消費者たちは,現行のXbox One世代に完全に見切りをつけてScorpioの発売までハードウェアの購入を控えるという長期的な視点で考えている可能性もある。

 普通に考えれば,後者からくるリスクの高さを考慮すると,Microsoftは今年,しかもいずれハードウェアの購入を予定していた消費者なら飛びつくであろうXbox One Sの発表と同時にScorpioについてアナウンスすることは選ばなかったはずだ。

 もちろん,このゲーム機世代は,とくにMicrosoftにとっては普通とは言えない。同社のXbox部門は,なにをするのか,社内でどういう位置付けになるのか,ソニーとの市場競争で大きく負けている状況でなにをもって成功とするのかなどを劇的に再定義しているところだ。

 Xboxプラットフォームは,Windows 10を中心にした大きなエコシステムの中に取り込まれており,ハードウェア単体の販売本数は以前ほど重要ではなくなった。
 このことで,Xbox One SのセールスでMicrosoftは短期的なリスクを取ることが可能になり,ライバルハードウェアの販売計画に影を忍ばしつつも,Scorpioに対する長期的なプランを練ることができるようになったわけだ。

 このことは,Xbox One S の今期のセールスの足かせ要因にはならないだろう。Xbox One Sは魅力あるハードウェアであり,年内にXbox Oneゲームをプレイしたいという消費者にとっては購買意欲を掻き立てるはずで,その層を発掘することによって来期には大きな成功をもたらすかもしれない。
 問題となるのは,この成功が前期の33%にも及ぶハードウェアセールスのスランプと比較してどうなるかである。もしハードウェアセールスが挽回することなければ,Microsoftの賭けの結果は鮮明なものになる。つまり,さらに遥かにあるScorpioの期待感を育むことを重視しすぎるために,現世代のハードウェアプレイヤーからの信頼を失ってしまうことになり兼ねないのだ。

4900万と言われるXbox LiveのMAUは素晴らしいが,その詳細は発表されることはないので,Windows 10プラットフォームについての展望や,ビジネス的な決断を行うことを困難にしているのである

 Xbox Liveはさらに複雑で,少なくともこうした戦略上においては非常に厄介な野獣である。Microsoftは,Xbox Liveのゴールドメンバーに魅力あるサービスを提供しようと躍起になっているが,無料プレイヤーもXbox Liveのアカウントもレポートで発表されるMAU(月間アクティブプレイヤー)にカウントされている。Xbox Liveについては,実際にMicrosoftはいくつもの気になるイニシアチブを追求しており,中でもWindows 10との連動は最も興味深くインパクトのあるものだ。しかし,実際に数値で示すことなくそうした連動を進行させていっても,実際にプラットフォームがどれほどのヒットになっているのかを計り知るのは難しい。4900万と言われるXbox LiveのMAUは素晴らしいが,その詳細が発表されることはないので,Windows 10プラットフォームについての展望や,ビジネス的な決断を行うことを困難にしているのである。

 こうした細かい数値を合成させてしまうことはMicrosoftの不鮮明さを表しているだけではない。それはXbox Liveがすべてのプラットフォームを統一するサービスになるであろうという,同社の正真正銘の表明であるのではないだろうか。Microsoftが,Xbox OneとScorpioを同じ線上に見ているのは,それらがWindows 10を搭載したパソコンやタブレット端末のSurfaceなどのデバイスと同じであると考えているということだ。それ自体は素晴らしいビジョンであり,同時にソニーとの市場争いという視点においては,ほとんど自分で首を絞めているような同社の行動をよく表している。
 しかし,そのビジョンがどのように進展しているのかというディテールを,より細かい数値で見せ,エコシステムのそれぞれの局面で地に足の着いた戦略を練るのも悪いことではないだろう。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら