Robot「ゲームを成功させることはプラットフォームホルダーの責任ではない」

「Orcs Must Die!」を開発したRobot EntertainmentのCEOであるPatrick Hudson氏が,発見される能力,スタジオの成長管理,有料ゲームの上昇傾向を語る。

 「Orcs Must Die!」を開発したRobot Entertainmentは,昨今では珍しいタイプのスタジオだ。テキサス州プレイノを拠点とする同社は,かつてテキサス州にあって「Age of Emipires」で知られたEnsemble Studiosの解散を機に生まれたデベロッパの1つだが,インディーズとAAAに二極化する時代に中規模企業として成功している。2009年のRobot設立当時は細々と事業を展開していたが,2014年に中国のメディア大手Tencentから巨額の投資を受けたことで事態が一変した。Robotは,この資金により事業を拡大できたのはもちろん,Tencentのノウハウの恩恵を受けることもできた。

 RobotのCEOを務めるPatrick Hudson氏は,GamesIndustry.bizに対し「『Orcs Must Die!』の1作めを制作したときは,インディーズスタジオに毛が生えた程度の会社でした。現在では倍の人数になっていますが,当時のスタッフ数は40〜45人でした。『Orcs Must Die!』と『Orcs Must Die! 2』はその人数で制作したのです。私たちは,ある意味このシリーズ,そしてファンがゲームに求めるものを追いかけて成長してきました。次のバージョンはもっと大きなものになると分かったのです。
 私たちは,次のシリーズ作品も少人数のままで小規模に制作するのか,それとも野心を持ってもう少し規模を拡大するのか,という戦略的な決断を迫られました。拡大するには,資金を獲得するためにこれまでとは異なる運用が必要でした。ご承知のとおり,Steamでちまちまと15ドルや20ドルのゲームを売っているだけのスタジオが,ゲームの規模を拡大するのは難しいことだからです」と語った。

 「また,このゲームのライセンス取引もいくつか手がけました。オンラインゲームなので,ヨーロッパやアジアにパブリッシュ用のオフィスを構えるつもりはありませんでしたから,ヨーロッパではGameForgeと提携し,ゲームのパブリッシュ権を彼らにライセンスしました。それによる前払い金とライセンス料も,ゲーム制作に充てられました。
 中国のTencentとも初めは同様のライセンス付与を行い,それが投資への糸口となりました。ですから,私たちは中間にいられるのです。今,私たちと同じようなスタジオは少ないというご指摘はそのとおりだと思います。GameForgeやTencentとの強力なパートナーシップがなければ,おそらく私たちがこの立ち位置を維持するのは難しかったでしょう」


「すべてはどのように管理するかに掛かっています。成長を恐れるのか,受け入れて成長するためのプロセスと構造を導入するのか」

 どんなゲーム会社でも,投資やパートナーシップは明らかに違いをもたらすものだが,スタジオの成長の舵取りを誤ることはよくあることだ。気づかないうちに,互いにほかの部門が何をしているのかを理解できなくなり,空中崩壊してしまうのだ。

 「すべてはどのように管理するかに掛かっています。成長を恐れるのか,受け入れて成長するためのプロセスと構造を導入するのか。当然ながら,スタッフ数が45人だったときと90人になった今とでは,スタジオ経営の方法も変える必要がありました。より構造的になり,プロジェクトの遂行のためにリーダーシップの複層化も行っています。いまのところ,成長をうまくコントロールできています(中略)Ensembleでも同じような成長曲線をたどったので,かなりの時間を割いて,何がうまくいって,何がうまくいかなかったのかを話し合いました。その経験から,成長をうまく管理するために学んだことは何か。それをRobotにどう活かせるのか。そうやって,当時よりもうまくやろうとしているのです。仲の良いほかのスタジオと話したりすることも役立ちます――『ねえ,一気に成長したとき,どういうことをした? 辛かったことは? 何を学んだ?』ってね。Robotは,『Orcs Must Die!』を支えていくために,多すぎず少なすぎず必要な分だけ成長していきます」と,Hudson氏は続けた。

 Microsoftが,調子のよかったEnsemble Studiosを少なくとも外見上はさしたる理由もなく閉鎖したときは誰もが衝撃を受けたが,Hudson氏はそれをためになる経験だったと捉えている。

 Ensembleのケースで,Hudson氏は規模が大きくなることで,最終的にとくに優れた才能が埋もれることに気付いた。「『Age of Empires』は,多くの優秀なゲーム開発に関わる人材をスタジオに引き寄せました。中には,ゲーム業界は初めてで,Ensembleで優れたゲームを制作するためのイロハを学んだ人たちもいれば,ダラスで『Empires』シリーズ,ひいては『Halo Wars』のために力を借りようとヘッドハンティングした人たちもいました。その結果,山ほどの才能あふれる人々を決して大きくないスタジオに閉じ込めてしまったのです。ピーク時には120名のスタッフがいました。才能の人口密度が非常に高かったのです。
 それだけの規模のスタジオであれば,各部門にリーダーを置く構造になりますが,誰もがリーダーになって自分のゲームを作れるわけではありません。Ensembleの解体後,このような才能あふれる人々は,さまざまな場所に散らばって実力を発揮しています」と,彼はコメントした。

 Ensembleで働いた経験は,すべての開発者に品質に対してある程度コミットするという文化を植え付けた。「私たちは,非常に高い水準のゲーム制作を学び,次の現場にもたらしました。それに加えて(中略)私たち全員が買収以降6年にわたってMicrosoftで働いたことで,インディーズの開発者としても,パブリッシャーとしても業界を学ぶことができたのです。丸ごと理解することで,エコシステム全体がいかにパブリッシャー側に偏っているかが分かりました。それは,おそらくほかのデベロッパーには得られない非常に価値のある経験でした」とHudson氏は語る。

 少なくともHudson氏には,Ensembleに関する怒りや後悔の念はない。「6年間というのは,買収後の会社で過ごすには長い期間です。実のところ,この6年は私にとって良い時間でした。Microsoftは私たちに良い待遇を用意してくれましたし,私たちもMicrosoftで一緒に働いた人たちとは良い関係を築けました。買収された一部[のスタジオ]は,1年ないし2年のうちになくなってしまいますが,私たちはそうならずに済みました。6年もったのは,素晴らしい成功のように思います」

 おそらく,Hudson氏とRobotが学んだ最大の教訓は,KickstarterやSteamの早期アクセスが始まる前から,敏感なコミュニティに耳を傾け反応することの重要性だろう。発見されやすさが厄介な問題となり,成功にはファンを味方につけることが必須となっている。プラットフォームホルダーに紹介してもらえることを期待しているのなら,マーケティング戦略を一から練り直す必要がある。


「プラットフォームの機能を見せつけるような,とてもクールで,革新的で,差別化された何かがない限り,脚光を浴びることはないと考えたほうがいいでしょう」

 「過去にPCゲームを手がけていたデベロッパーの一部は,モバイルに進出してきたものの再びPCへと移行していることからも分かるように,PCゲームの発見されやすさはモバイルほど酷い状態にはありませんが,それでも楽ではありません。今ではSteamにもたくさんのコンテンツがあります。楽な場所などないのです。ゲーム市場の競争は激しさを増し,事業環境もおそらくこれまでにないほど難しくなっています。とにかくたくさんの優れたデベロッパーが山ほどの素晴らしいコンテンツを制作していますし,コンテンツをプレイヤーに届けるうえでのハードルもなく,プレイヤーはゲームからゲームへと渡り歩いています。彼らは最高のコンテンツを探しているのです」とHudson氏は話す。

 さらに「ValveやAppleやGoogleの人たちと話すと,彼らは問題を理解しています。彼らには問題が見えていますが,解決するのはほぼ不可能なのです(中略)誰もが脚光を浴びたいと思いますよね? 面白いことに,新しいモバイルデベロッパーに会うとみんな『こういうすごいゲームを作るんだ。脚光を浴びるぞ』と言うんです。おそらくそうはならないでしょう。プラットフォームの機能を見せつけるような,とてもクールで,革新的で,差別化された何かがない限り,脚光を浴びることはないと考えたほうがいいでしょう」

 「プラットフォームホルダーにはさまざまなプログラムがあり,発見されるのを助けてくれますが,それを戦略の中核に据えるのは間違いです。素晴らしいゲームを制作できるかどうかは自分にかかっています。コミュニティを作り上げるためのマーケティング予算がなければ,小さなコミュニティから始めて,それを育てるのです。彼らに耳を傾け,語りかけ,有機的な成長を促します。成功させるのはプラットフォームホルダーの仕事ではありません」

 強固なコミュニティを作ったら,ゲームに合ったビジネスモデルを選択することが重要だ。現在の市場ではF2Pモデルがデファクトスタンダードだが,Hudson氏はプレミアムゲームも盛り返すと予見している。

 「ケースバイケースだと思っています。一部の分野では有料ゲームが再起するという興味深いトレンドが見られます。あの中国でさえ有料ゲームの勢いが増しており,中国の顧客が有料ゲームを購入しています。それは過去には見られなかったことです。ですから,すべてはゲーム次第,ゲームのニーズ次第なのです」と,Hudson氏はコメントした。

 Robotは,およそ1か月前にオープンβ段階に入ったばかりの「Orcs Must Die! Unchained」に関しては,大規模なMOBA型のタワーディフェンスゲームなので,F2Pが最適だと考えている。Robotは,マッチメイクするためにできるだけ多くのユーザーを求めている。Hudson氏とRobotは,2012年のHero AcademyでF2Pモデルを試したことがあるが,Hudson氏は「自分たちがやろうとしていることを全然理解していなかったために,山ほどのミスを犯しました」と全面的に認め,「専門家からとても評価されていたゲームでしたから,もっと商業的に成功することができたでしょう。けれども,多くの教訓を学びましたし,それを今後に生かせるのではないかと思っています」と話した。


 「私たちにとってUnchainedは最初の大規模なF2PのPCタイトルとなります。また,パートナーからも多くの力を得ています。GameForgeもTencentも長い間F2Pタイトルを運用しています。私たちは彼らのノウハウを本当に頼りにしているので,ゲームの設計時にも関わってくれるように頼んでいます。両パートナーのいいところは(中略)マネタイズが付いてくるところです。彼らはまず優れたゲームを作り,プレイヤーを集め,そのプレイヤーを維持します。そうすることでいつか彼らが課金してくれるかもしれません。最初から課金を求めることはしません。結果は後のお楽しみです。これは私たちの初めての試みです。またいくつかのミスを犯すでしょうが,すぐにいろいろなことを学べると考えています」

 現在のところ,Robotは「Orcs Must Die!」に全力で取り組んでおり,年内には同タイトルをPlayStation 4に移植する予定だが,1つのシリーズのみに固執しているわけではない。Hudson氏は,Robotは継続的に新しいIPのアイデアについてブレインストーミングをしているが,リリースが決定的な段階に開発が至ったものはないという。「間違いなく,また新しいIPに取り組む予定です。過去数年でいくつかのプロトタイプに着手しましたが,そこから発展していません。そういうことはしょっちゅうありますよね?」と彼は言い,モバイルにも興味を失っていないが「非常に慎重」であると付け加えた。

 「ここ数年のモバイルで興味深いのは,上位のゲームが固定されているという点です。いまチャートのトップに君臨しているゲームは,2,3年間そこに居座っています。その場所に到達してから,ポジションを上手にキープしているので,そこに新たに割って入るのは難しいことです。良いケーススタディがいくつもあります。もちろんPCほどではありませんが」とHudson氏は言う。


「成長曲線が未知数のマーケットに過剰に投資することは,私たちの企業規模ではリスクが高いことです。私たちには,これほど新しく,方向性の異なるもので失敗する体力はありません」VRについてHudson氏


 同じように,仮想現実も魅力的ではあるものの,Robotのようなスタジオにはリスクが高すぎる,とHudson氏は指摘した。

 「私たちのような規模の会社や,その位置付けに大きく影響します。成長曲線が未知数のマーケットに過剰に投資することは,私たちの企業規模ではリスクが高いことです。私たちには,これほど新しく,方向性の異なるもので失敗する体力はありません(中略)VRによって,新しく人を惹きつける体験がゲームにオプションとしてもたらされることは歓迎しています。VR版の『Orcs Must Die!』のアイデアについてはたくさんのブレインストーミングをしてきましたし,かなりいい案も浮かんでいますが,本格的に投資するに至るにはまだ時間がかかります」とHudson氏は明かした。

 Hudson氏は,現在VRに取り組んでいるEnsemble出身の幾つかのスタジオがあるが,Robotは「彼らの代わりに生き抜く」とジョークを飛ばした。

 保守的で慎重なアプローチは,おそらくRobotが手強さを増す環境で生き残ってきた理由の1つだろう。明らかに「Orcs Must Die!」が成功するであろう分野であるe-Sportsでさえ,Hudson氏は飛びつこうとはしていない。

 「ゲームや開発プロセスの成り行きに任せてきました。もし,これはe-Sportsだ,というものに仕上がれば,あるいはそうなりそうな気配があれば,その道を追求するでしょう。けれども,あまりに初期の段階からeSportsに取り組もうとすれば,誤った意思決定をする可能性があることに,私たちは早くから気づいていました」とHudson氏は説明した。

 とはいえ,Hudson氏はe-Sportsという分野については楽観的だ。「今後のゲーム業界の中で,どんどん大きな位置を占めていくと考えています。そして,中にはうまくいくゲームとうまくいかないゲームがあるでしょう。多くの会社が成功を追い求め,おそらくその途中で挫折することになると思いますが,分野としては成長を続けるでしょう。また,さまざまなプラットフォームで展開されるようになるでしょう。モバイルのe-Sportsが継続的に成長し,人気になると思います。今はe-SportsといえばPCのものと考えられていますが,そんなことはありません。ゲームのあらゆる要素に影響していくと考えています」とHudson氏は見解を述べた。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら